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[モブ→杏/百合]言葉にならない“愛してる” 1

(※クラスが捏造)




 ――まさか、自分に恵まれた唯一にして社会に出てから何の役にも立たない才能である“ジャンケン運”に、こんなに感謝する日が来るなんて。

 高校入学後、各クラスで決められた学級委員の初顔合わせの席で、活発そうなポニーテールの少女は頬が弛むのを抑えられずにいた。
 少女の視線の先には、彼女からして隣のクラスの女子委員の席に所在無さげに座る、大人しそうな眼鏡の女子生徒の姿があった。

 ――風紀委員に輪を掛けて激戦だったけど、勝ち進んで本当によかった。

 取り急ぎ刷られた、教師の手書きの各委員会名簿が配られると、少女はじっとそれに見入った。
 どうせ今日はさっさと解散になるのだから、その前に確認しなければならないことがあった。

 ――1-B、学級委員…私とえーと、そうか、この隣の奴こんな名前だったっけ。…風紀…紀田っていうのか、あのクラス中の熱気の陰の火付け役。いや、違う違うそうじゃなくて。

「…はい、じゃあB組どうぞ」
「えっ?もう?」
「もうじゃないだろ!君、話を聞いていたのかね!?」
「えーと…まあボチボチってとこですねハイ、スミマセン。B組学級委員女子の――」


「全く……先生、お宅のクラスはジャンケンで委員選抜したそうですね?なんだってこう意識の低い…頭も悪そうだし…」

 これみよがしに溜め息を吐く教師に、部屋の空気が冷えた。
 まだ立ったままの少女と男子委員に非難の目を向ける者、憐憫のまなざしを投げ掛ける者、関わりたくないというように目を逸らす者。一様に負の感情を表出させる他クラスの生徒に構わず、少女は納得いかないというように口を尖らせた。

「ちょっ先生、待ってくださいよ!あれは頭の悪そうな私がボケーッとしてただけでですねー、担任はなんも」
「いいから座りなさい!ったく…次、C組」

 ――なんだよ、ホントのことじゃんよ!コイツ名前覚えといてやるぞ、那須島、那須島ね。

 少女が舌打ちを堪えて席につくと、静まった空気を恐る恐る揺らし、C組の委員二人が起立した。

「…え、っと…1-Cの、竜ヶ峰帝人です……よろしくお願いします」
「……園原杏里です。…お願いします」

 瞬間、少女の苛立ちは全て消し飛んだ。

 ――そのはらあんり、園原杏里。杏里さんか。よし、覚えた。

 目的を果たした少女は、先程の勢いが嘘のように大人しく、委員会の終了を待った。

 ――声可愛かったなあ。背低かった!あの仰々しい名前の、他人の意見にあまり露骨に逆らわず流れが用意されればそれに乗って過ごすタイプっぽい男子、あの子が私と身長同じくらいと見たから…うわー小さい!あとやっぱり大人しくて気が弱いというか、自己を保持し主張する以前に他者という存在に圧迫されて生きるタイプだ、きっと。可愛いなあ……色白いなあ…



 教師が終了を告げると同時に、少女は勢いよく立ち上がると、帰り支度を始める二人組に駆け寄った。

「あ、あのー!竜ヶ峰君、そのっ園原さん!」

 ――超噛んだ…泣きたい。

 二人が驚きと少しの恐れを持っているらしいことはわかったが、ここで引くわけにはいかなかった。
 天から授かった無駄の極みのジャンケン運だって、この時のためのものだったのかもしれないとまで思った。自分が大概合理的なロマンチストだとは少女も自覚している。

「…な、なに?」「あの……なんでしょうか」

 ぎゅっと強く拳を握り、少女は一世一代の大告白のつもりで口を開いた。

「あの、さっきはなんか私がバカやらかしたせいでやりづらくしちゃってごめんなさいっていうかなんかもう申し訳が立たないっていうかお二人とも品行方正清廉潔白だろうにスミマセンでした、それとそれとさっき最後にあのヤロっ違った那須島先生がおっしゃってやがった連絡事項を聞き漏らしたのでよろしければ教えてくださいお願いします!!」

 息継ぎ一度だけでそう言い切ると、少女は大きく肩で息をして俯いた。
 まだ部屋には生徒も教師もほとんど残っている。二人が悪目立ちを嫌がる性格だと、出会って数分で彼女は既に気付いていた。

 ――もうちょっと、人が掃けてからにすればよかったかもな…

 しかし今更悔やもうがどうしようもないので、恐る恐る目線を上げた。
 というより、少女は年頃と性別にしては長身の方なので(よって変わった行動を取ると余計に目立つことは言うまでもない)、僅かに首を動かすだけで、園原杏里と完全に目が合ってしまった。
 そう思った途端、それよりもう少し上の方から、必死に堪えた笑い声が漏れた。

「…ぶっ…」
「え」
「くくっ…あっははは!き…紀田くんのクラスの人ってみんなこんなテンションなのかな?…面白っ…!」
「……え、あの」
「………ふふ、そうですね…すみません、…笑ったら…失礼ですよね、すみません……ふ、ふふっ…」
「…………へっ??」

 少女は目を白黒させた。
 園原杏里と、竜ヶ峰帝人が肩を震わせて笑っている。二人とも、特に杏里は、そう頻繁に笑うタイプには見えないのに。

「あ…あのーあの?」
「君…、なんか面白い、何がって訊かれると明確に答えられないけどテンションとか言い回しが面白い…」

 ウケるって言った方がいいのか、と呟いてとうとう背を向けた帝人にきょとんとしていると、杏里に名前を呼ばれ、少女は全身を緊張させた。

「その…連絡事項、…書きます、ね」

 未だに口許の笑みが消えきらないままそう言った杏里に、少女は目線ともっと大切ななにかを奪われていた。





(拒否られてない?拒否られてないよね?大丈夫なんだよねコレ!!)
(うちのクラスにももうちょっとだけこのノリの良さが……いや、それはそれで大変か)
(………少なくとも…悪い人じゃないんだわ、きっと…多分)


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