遠藤探偵事務所の事件譚
Day1-5
はいチ〜ズ♪
カシャ☆
『何やってんのあんた達…』
ドアの前でみーきゃんは呆れ顔で言った。
遺体を司法解剖に回すため鑑識員達と書斎にやって来たのだ。
目の前には遺体の側でしゃがみこんで最高の笑顔とピースで自分撮りしている遠藤達3人の姿があった。
「何やってんのって…現場写真撮影会?あ…るりさん顔が半分しか入ってない!もうちょっとみんな顔寄せあって!じゃ撮るよぉ」
1足す1はぁ?
にぃぃぃぃ!
カシャ☆
『あんたバカぁ?ここ殺人現場よ!世界遺産とかじゃないんだから変な写真撮らないでよっ!砂羽ちゃんも…るりさんまでっ!もう!』
みーきゃんは3人を遺体から引き剥がした。
『私としたことが…なんてことを』
コホンと咳払いし立ち上がる るりの隣でたんこぶを作った遠藤と砂羽が正座する。
『あんた達ほっといたら何するかわかったもんじゃないわね。そろそろ時間だから遺体運びだすわよっ!もういいわねっ!』
お願いしますとみーきゃんは鑑識員達に指示した。
「みーきゃんさん!ちょっと待ってください!あともう少しだけ調べさせてくださいよぉ」
『10分間だけって約束でしょ?いくら砂羽ちゃんの頼みでもダメ』
両手を腰に当てて砂羽に顔を近づけて言う。
「そんなこと言わずにお願いしますよ旦那ぁぁぁ」
砂羽の言葉を無視するように観察員は遺体を担架に乗せて運び出す。
「ちょちょちょちょ!待ってってばぁ!」
グイッ
すぽんっっ
「『あ…』」
砂羽は思わず遺体が持っていた突っ張り棒掴んだ。
強く引きすぎたのかゴムの部分が音を立てて抜ける。
「ああ…やっちゃったよ。お前なにやってんの?これでもう突っ張り棒さんは突っ張るお仕事出来なくなっちゃったよ?遠くにある物を手繰り寄せるだけのただの棒になっちゃったよ?左遷されたサラリーマンくらい切ないわぁぁ」
「うっさい!みーきゃんさんごめんなさい…すぐに元に戻します」
「砂羽が棒にゴムを付ける」
「あんたの口にチャック付けるぞ!…ほんとすみませんねぇうちの出来損ないボスが……ん?何だこれ??」
砂羽はゴムの取れた部分を凝視する。
どうやら棒の中が空洞になっており、何か入ってるようだ。
「なんか白い紙が入ってるみたいなんですけど…」
『ちょっと見せて』
みーきゃんは入っていた紙を破れないようゆっくりと抜き取った。
それは借用書だっだ。
『Miraという人物が太虎から300万ほど借りてるみたいね。あと 目がしぱしぱする という人物も何度か太虎から借金してるわ』
「300万て、ちょっとがんばれば返せそうな金額だよなぁ」
『うん。でもどうしてこの借用書だけこんな分かりにくい所に隠してあったのかしら…他のはキチンとファイルされてるのに。この2人の人物、調べてみる必要がありそうね』
お金というのは殺人をおかすには十分な動機になる。
たとえそれが少ない金額だとしてもそれぞれに価値観も違う。
しかも太虎は法外な利子で貸し付ける闇金だ。
揉め事が無かったとは言い切れない。
この借用書に書かれている人物が事件に関わっている可能性は0ではないだろう。
『てことで私はまたやること増えたから署に戻るわ。何か分かったら連絡するから。でも教えるのは砂羽ちゃん だ け よ …うふ』
投げキッスを砂羽に飛ばしみーきゃんは去った。
「お前どんだけアイツに好かれてんだよ」
「嫌われるよりはいいでしょうに…でも女同士だしなぁ…複雑だなぁ」
(だが、それはそれでいい!)
うんうんと遠藤は違う意味で頷く。
「そうだボス。折角なんでるりさんに話しを聞いときますか?」
「おお、そうだな」
るりは事件の第一発見者でもある。
屋敷の執事と共にこの部屋で倒れている太虎を見つけ、警察に通報したそうだ。
『じゃぁ飲み物でもご用意しますね。玄関のホールでお待ちください』
「あ!えと…俺コーヒーで…お願いできるかな?」
はい、とニッコリ笑ってるりは調理場へと向かった。
またほうじ茶だとたまったもんじゃない。
水谷事務所への杜仲茶報復計画も少し可哀想になってきた。
「砂羽。一応この部屋全体の写真撮っといてくれるか?」
遠藤は自分のスマホを砂羽に投げた。
「ほい!手数料いただきま〜す」
ニッコリと手でお金マークを作った砂羽はカシャカシャと写真を撮り始めた。
「あとは任せたぞぉ」
遠藤は大あくびをしながら、再び玄関ホールへと戻った。
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