遠藤探偵事務所の事件譚
Day1-4
「被害者の名前は太虎さん。独身。この家にはメイドのるりさん、それと執事さん。そして被害者の太虎さんが出入りしていたようです。」
砂羽はお気に入りの【片岡愛之助オリジナル扇型メモパット】を片手に話す。
どうやらみーきゃんに頼んで事件の情報をたんまり聞いてきたようだ。
太虎は「闇金☆たとらん♪」の社長で、前科こそ無いがかなり悪どいことをしてきたらしい。
現在はほとんど隠居生活のようで、一日のほとんどを自宅で過ごしていた。
仕事柄、周囲からはかなり恨みをかっていたようだ。
「死亡推定時刻は17日午後9時頃。頚動脈をスッパリいかれてます。他に外傷が無いので恐らくこれが死因です。迷いなく一撃って感じですかね…ってボス聞いてますかっっ!」
「すっげぇ!このおっさん【僕の弟がこっそり全裸なわけがない】全巻揃えてやがる!やるなぁ〜」
遠藤は砂羽の話しそっちのけで本棚に夢中だ。
「うぉぉ!これはかの有名なジブリの名作【風の谷 ナウ。】…【山田の動く城】まで全巻揃ってるぅぅぅ!痛てっ」
「サッサと捜査してください」
砂羽に首根っこを掴まれながらズルズルと遺体側まで連れていかれる。
「死体なんか見るもんじゃないよ?!ましてや殺されたてホヤホヤじゃんか?!新妻でもこんなに出来立てのご飯出してこないよ?!せめて司法解剖という名のレンジを挟んでからにしてよぉ〜」
「色々調べてからでなきゃ依頼を把握出来ないでしょ!!だからるりさんも私達をここに連れてきたんでしょうが!!」
隣でるりがウンウンと頷く。
「わかったよやるよぉ…」
「よろしい。じゃこれ着けてください」
砂羽はゴム手袋を渡してきた。
みーきゃんから着けるよう指示されたらしい。
しかし、こんな素人探偵に現場など見せて大丈夫なのだろうか?
まぁそこは小説(笑)なので深く追及しないで欲しい。
「さて。司法解剖に回されるまで10分だけ時間もらいました。サッサとやりますよぉ」
そう言うと砂羽は遺体を調べ始めた。
「傷口がそうとう深いですねぇ…太虎さんにかなり恨みを持った人物の犯行かもしれません。ここまで深く切り込むにはそこそこ力が必要ですし、犯人は男である可能性が高いですね」
「なんで傷口だけで男って決め付けんだよ。そういう思い込みが事件を迷宮入りさせるんだぜ?」
「しがない探偵のくせに偉そうに!!」
砂羽はメモを振り回して暴れている。
「てかさぁ…なんでこの人ツッパリ棒握り締めてんの?死に際になに突っ張ろうとしてんの?」
太虎の右手には突っ張り棒が握られている。
「犯人に襲われた時に対抗する為に握ったんじゃないんですか?」
「でも太虎って左利きだろ?」
「え…そうなんですか?」
「嘘だよ!騙されやがってバーカ!うひゃひゃひゃひゃ」
「ふみまへんれした。真面目にやりまふ…」
顔中ボコボコになって遠藤は呟いた。
「ねぇるりさん。依頼ってゆうのは犯人を探して欲しいっていうことですか?」
『…はい。私は旦那様に大変お世話になりました。どうしても犯人が許せなくてっ…!』
るりの頬に一筋の雫が落ちる。
「でもね、俺達のような小さな探偵事務所なんか出来ること限られてるよ?警察に任せておけば…」
『警察なんて信じられません!!人が1人死んだところできちんと捜査なんてしてくれないんです!探偵さんなら警察に出来ない捜査だってやってくれると聞きました!…どうか…どうかお願いします!!』
るりは深々と頭を下げた。
スカートを握りしめる両手は小刻みに震えている。
(う〜ん…)
ただのメイドと主人という関係でここまで必死になるものだろうか…
過去に何か…?
それとも太虎とは仕事を越えた間柄とか…
「ボス。力になってあげましょうよ。」
「…出来るとこまでな」
『ありがとうございます!!』
るりは嬉しそうに遠藤の両手を握りしめた。
「あっ…ちょっ!メイドさんのお触りは追加料金!」
「そりゃあんたの自宅(秋葉原)の話しだろぉが!」
砂羽はエンガチョ切ったの要領で遠藤とるりの手を剥がす。
『クスクス…』
よかった。
少し元気が出たようだ。
「よし!こうなったらおじさんがんばっちゃうぞ!…と、その前にニコチン補充」
遠藤は近くのソファーに腰掛けタバコを取り出した。
「ライターライターっと…あれ?ライター落とした?」
いくら服を探ってもライターが見つからない。
「まぢかぁ…」
溜め息を付き諦めようとした時、灰皿の下に小さな箱を見つけた。
「おっ!マッチあるじゃん!一本くらい使ってもいいよね♪」
手袋をしてるか確認して、灰皿の下からマッチ箱を取り出した。
「ボスぅ!ちょっとスマホ貸してください!現場写真撮ってるんですけど私の携帯ガラケなんで画像が荒くて…」
「なんなんだよお前は!もういっそポケベルでいいよ大差ないよ!」
遠藤はタバコを諦めズカズカと砂羽に歩み寄った。
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