遠藤探偵事務所の事件譚
Day1-2
事件があったニューロッカの屋敷前は閑散としていた。
ポツリポツリとしか人が居ない。
屋敷前の歩道では、数人のご婦人が事情を聞かれている。
殺人事件があったのだからきっと野次馬でごった返しているだろうと予想していただけに出鼻を挫かれた気分だ。
この様子だと本当に殺人があったのかさえ疑わしくなってくる。
しかし事件があったらしい太虎氏の屋敷は想像以上だった。
2メートルはあろうかという石の塀に囲まれ、入り口には鉄の立派な門。
中庭というには大きすぎる邸内の道の先には、リゾートホテルを思わせる洋館が建っている。
かくれんぼするにはもってこいの広さだ。
恐らく1週間は見つからないだろう。
これほどの広さの屋敷が建ち並ぶ町だ。
お隣さんにお醤油を借りに行くのさえセグウェイあたりが必要だ。
こんな状況では、たとえ殺人事件があったとしても目撃者は皆無に等しい…
「こんなに人が少ないと動きずらいですねぇボス…」
「いや。俺達の今の態勢のほうが動きずらいと思うぞ」
トーテムポールのように重なって、道路向かいの電信柱の影から様子を伺っている。
「ボス…どうしましょう?あんまりウロチョロしてると警察に怒られますよね?ほら!あの警官めっちゃ見てる!恋に落ちた瞬間くらいめっちゃ見てますよ!」
そりゃこんな不審者2人も居たら警察官だって殺人事件そっちのけで職質かけたくなっちゃうよねまったく。
「てかむしろアイツ砂羽に恋してんじゃね?情報貰ってきてよ。ちょっと太股見せてさ、そこの木陰でチョコチョコっと1発…ぐふぁぁぁぅふ!」
殴ることないじゃん…
しかし、砂羽は殺人事件だと言っているが本当にそうなのだろうか…
それにしてはやはりあまりにも人が少なすぎる。
「本当に殺人なんかあったのか?警察も少ないしさぁ…チンケな泥棒とかそんなんじゃないの?もう帰ろぉぜぇぇぇ」
「何言ってるんですか!?ここで仕事取らなきゃ男ががすたる!」
「お前は男じゃねぇだろが」
「え…ボス。私のこと女として見てくれてるんですか?」
「ま、男というよりおっさんだな…どうっふっっ」
蹴ることないのに…
『あ、あの…』
ストリートファイターのガイル対ベガのポーズで睨み合っている横から1人の女性が声をかけてきた。
『お楽しみ中…いや、お取り込み中すみません!もしかして探偵の方ですか?』
モコモコした上着にたすき掛けの鞄。
小柄なその女性は遠慮がちに言った。
「「そうですがなにか?」」
遠藤たちの声に女性は2・3歩後ずさる。
『あの…えっと…』
(何だこの子は)
「ねぇボス…あの女性なんか知ってそうじゃないですか?モコモコの上にマゴマゴしてますもん。もうモシャス唱える寸前ですもん」
「あれはさまよってる訳じゃないから、話しは聞いても仲間にはするなよ」
「わかってますよ!」
警察官に怪しまれないようにソッと女性に近寄る。
「あのぉ〜私達こう言う者なんですが…何か御用ですか?」
砂羽は名刺を取り出して渡した。
『世の中の悪事は○っと解決…真実はいつも1つだっちゃ…遠藤探偵事務所…やっぱり!探偵さん!』
女性というのは本当に探偵とかサスペンスとゆう言葉が好きだ。
浮気・相続問題・崖・船越栄一郎
どれも喰い付きがいい。
「ここで事件があったと聞いて来たのですが、なにかご存知なんですか?」
すると女性は急に距離を詰め叫んだ
『力になってください!!』
必死に拳を握ってそう言った。
少し顔色も悪く今にも泣きそうだ。
(事情がありそうだな)
砂羽に目配せして遠藤は彼女に優しく話しかけた。
「突然そう言われても俺達だって何がなんだか。てか君は一体誰なの?何で俺たちが探偵だって知ってるの?」
『あ…すみません。私…』
そう言いながら上着を脱いだ。
!!!!!!!!!!!
『私、太虎様のお屋敷でメイドをやっております るり と申します』
メイドきたぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁ!
モコモコの下は黒を基調にした昔ながらのメイド服。
白いシャツがとても清楚だ。
「さあお嬢さん。こんな所で立ち話もなんです。狭いですがお屋敷の中へどうぞ…」
「始まったよ…」
遠藤はるりの手を引いてスキップで屋敷の中に入った。
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