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遠藤探偵事務所の事件譚
Day4-2

ハクアから探偵事務所に戻った頃にはもうお昼を回っていた。

何故って?
そりゃだって、フクロウの餌付け体験してたからだ。


太虎殺害の捜査を依頼されてから4日目。
とうとう3人目の犠牲者が出てしまった。

遠藤はデスクに向かいそれぞれの事件を考え直している。
Miraが亡くなったことで事件が終わったと言い張っている砂羽も、本気を出したのか眉間にシワを寄せデスクで書き物をしていた。


コツコツ…


ボールペンをデスクに打ちつけながら、事件を振り返っていた。
やらなきゃならない事は山ほどある。
何一つ解決の糸口が掴めていないのだ。
この4日間、何か収穫はあったのか!自分に問いかけてみる。




ない。



「証拠も犯人の目星もなんにもつかめてねぇ…」

はぁ…とデスクに突っ伏す。
自分の不甲斐なさに嫌気がさしそうだった。

当たり前だ。
ほとんどの捜査が遊んでただけなんだから。

「俺はまだ本気だしてないだけなんだ!」

ふん!と気合いを入れ事件の概要を隅々まで目を通す。





「あの〜ボス。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

砂羽が脇を手で押さえながら手を上げている。

「あんだよ?」

資料から目を離さず答えた。

「TV番組で、魔法のレストランの司会やってるのって水野美紀でしたっけ?」

はぁ?

魔法のレストラン。
地方局でやっているTV番組。
商店街などの飲食店をレポートしてまわる、よくあるバラエティー番組だ。

作者は全国区だと思ってたけど違うのね。


しかし、何を言ってるんだこいつは。
そんなグルメ番組がなにか事件と関係あるのか?

…そうか!るりさんの故郷のミモザサンド調べてるんだな?
お店に行って、魔法のレストランステッカーが貼られてたら、無条件に美味しい店なんだろうなと思ってしまうもんな。


「違うよ。水野美紀じゃなくて水野真紀のほうだって」

「あ、そうか。ドラマの白線流しに出てた方か」

「いや、それ全然違う。酒井美紀だ」

「違いますよぉ。酒井美紀はショートカットの似合うお笑いも出来る名脇役女優でしょ?」

「それは酒井真紀だろぉが!」

「え?踊る大捜査線のユースケ・サンタマリアの嫁?」

「それが水野美紀!!」

「あなたのお肌…あきらめないで!」

「それ真矢みき!!」

「で、結局魔法のレストラン出てるのって…」

「だからぁ!水野美紀だって!…ん??あれ?真紀の方か。ん?どっちだ??……あああああああ!ややこしい!」

ダンダンと机を叩いて発狂する。
正解は水野真紀でぇす!とおどけて言った砂羽は、遠藤を見ながら、こちらも机を叩いて爆笑していた。


「お前なぁ、そのミキマキ系?やめてくんないかな。俺、顔と名前が一致したことないんだよぉ」

「私も私も!」

ぎゃはははとまた笑っている。

「てか何やってんだよ。真面目にデスクに向かって…」

「何って、今月号のクロスパスワードですけど」

「はぁぁ?!」

今月号はお掃除ロボットのルンバが5名様に当たるんですよねぇ〜♪と、また机に向かう。

「ねぇ。何やってんのほんと。この依頼受けたのお前だからね?」

「分かってますよ、それぐらい。でもあの状況じゃぁMiraさんがやったとしか思えないでしょ?それにみーきゃんさんからも朝の電話以来、何の連絡もないですし。それとも何か引っ掛かってることでもあるんですか?」

「…うん。まぁ、ちょっと」

「何ですか?言ってくれないとわかんないです」

「不確かなことで混乱させたくないからまだ言えん」

「だったら怒らないでくださいよ」

砂羽はまたデスクに向かってクロスパスワードを始めた。





遠藤の頭の中ではひとつの仮説が出来ていた。

太虎に始まりリナ助、そしてMira。
どの殺人においても何か一つ気になる点がある。

太虎の場合は不自然な密室。
リナ助の場合は見つからない左手。
そしてMiraの場合は本人ではない別の誰か。

当人が殺された後には、必ずどこかに手が加えられた痕跡がある。
しかも雑に。


太虎の屋敷の密室に関しては、一度屋敷を出てからわざわざ戻っている。

犯人の他にも誰か動いてるのか?


しかし、連続殺人と考えるのはまだ早い。
3人の接点が曖昧すぎた。
太虎とリナ助は同郷なのでわかるとしても、Miraはどうだ?
お金を借りている以外に接点が見当たらない。
特にリナ助とMiraは会ったことが有るかどうかさえ謎。

たとえばMiraが本当に犯人だったとしても納得のいく動機がわからない。



遠藤が辿り着いたのは

るりとスト。

屋敷に住む人間ならば密室などどうとでも作れる。
動機はある。ストは借金だろう。
るりはまだわからないが、恐らく昔、何かあったんだ。

ストから履歴書と一緒に渡された写真。
ミモザサンドを見た時の不可解な態度。
太虎と同郷であるかもしれない上に、それを太虎は恐らく知っていた。

何があったんだ。



ガチャ…


『どもー』

扉を開けてみーきゃん警部がやってきた。

「みーきゃんさん!どうしたんですか?」

砂羽が立ち上がって笑顔を向ける。

『Miraさんの検視結果出たから報告に。コレ、来る途中に美味しそうだったから買ってきた!おやつにどぉーぞ♪』

ソファーに腰をかけながら袋を砂羽に手渡した。

「ありがとうございます!お茶入れますね!」

「俺コーヒー」

くわえ煙草で遠藤が言う。
チラッと視線を投げてみーきゃんは話し始めた。

『Miraさんの検視結果。やっぱりあんたが言ってた通り死後4日経ってた』

「…やっぱり」

『あと、他殺でもなかった』

「…自殺ってこと?」

遠藤がMiraの遺体を確認した時、首以外に外傷は無かった。
殺されたなら恐らく絞殺。
だが、意識がある状態で殺されたのなら、あるはずのものが無かった。


吉川線(よしかわせん)

殺人事件の被害者の首に見られるひっかき傷の跡のこと。

被害者が紐や犯人の腕で首を閉められた際に、抵抗して自分の首に爪を立てて傷を付けてしまうことによりつく傷痕。

同時に、被害者の爪にも血液や皮膚の断片が付着していることが多い。

これにより、自分で首を吊った自殺か、絞殺・扼殺による他殺かの判断基準の一つとされている。

ちなみに余談であるが名称の由来は、大正時代に警視庁の鑑識課長を務めた吉川澄一(1885〜1949)が、ひっかき傷で他殺の証拠にあることを初めて着目し、学会で発表した事にちなんでいる。


『で、調べて欲しいって言われてた睡眠薬の件。あれも無いわね。出なかった』

「そうか。じゃぁやっぱり自殺なんだな?」

『検視結果からすると、ほぼ間違いないわね』


Miraは自殺。
たぶん借金を苦にしての自殺だろう。

ただ、その自殺を利用してMiraさんに罪を着せようとした人物がいる。

許せなかった。

「あのさ、ひとつ聞きたいんだけど警察はこの事件どう見てるの?」

『今は蒼さんがターゲットになってるわね。なんてったって殺害現場に行っちゃってるし、動機もないこともないし』

「だよなぁ。でも今回のMiraさんの自殺の件で、俺の中では蒼さん犯人説は完全に無くなったな」

『お母さんだもんね…あ、蒼さんにはMiraさんのこと話したから』

「大丈夫だったか?」

『…見てらんなかった』

「……」

母親なんだ。当然だ。

『こうなったら早急に目しぱさんを探す必要があるわ。なんか目ぼしい情報ないの?』

「警察で無いのにあるわけねーだろぉが!てか、俺ちょっと気になることあるから今度ユーリピナ行ってみるわ」

太虎とリナ助の故郷だ。
るりのことも何か手がかりがあるかもしれない。

『あ、そ。じゃぁこっちは目しぱさんのこと調べとく』

「後、悪いんだけどストさんの身辺も調べといてくれる?」

『なんで一般人の言うことを警察が聞かなきゃなんないのよっ!!』

「あぁ?!その一般人をガッツリ事件に参加させてんのはそっちだろーが!!」

『利用させてもらってるだけよ?!』

「あぁ?!やんのかコラ?!」

まぁまぁ2人とも!と言いながら砂羽がコーヒーを出す。

「二人とも落ち着いてくださいって。仲良く協力しましょうよ?」

「なんでオレがこんな歩く電撃イライラ棒みたいな奴と手を組まにゃならんのだ!」

『なんですってぇぇぇ!!』

ムキィー!と叫び取っ組み合いが始まる。

「ちょっとちょっと!ボスもみーきゃんさんも何を焦ってるんですか?!とりあえず疑わしいことを一つづつ解決すればいいですよ!現にMiraさんの遺書だって本人が書いてないって証拠も無いわけでしょ?蒼さんが嘘ついてないって核心もない。先入観よくないですよ?」

「そう言うけど砂羽、お前だってそうだぞ?Miraさんの遺書を鵜呑みにして、その線からこじつけようとしてんだろ?」

「そういうことじゃないですよ!ただ私は調べるべきことからやっていけばと話してるんです!…もぉ、とりあえず落ち着きましょうよぉ。ね?みーきゃんさんの差し入れでも食べて」


ふん!と顔を背けながら遠藤とみーきゃんはソファーに座り直した。


「はい♪召し上がれ♪」

「………なにこれ」

目の前にお皿が置かれた。
砂羽が出してきたのは一見モンブランのようだが、どう見ても海鮮だ。

『なにって、鮭の白子に決まってるでしょ?』

これめちゃくちゃ新鮮ですね!と砂羽はパクパク食べていた。

『でしょぉ〜♪』

「でしょぉ〜♪じゃねぇよ。普通、手土産って言ってらスイーツだろうが。こんなんじゃどんなに出来る女子でも箱を開けてすぐレッツパーリーできんだろが」

『誰がそんなこと決めたのよ?』

ねー♪

砂羽とみーきゃんは声を揃えて再び美味しそうに食べ始めた。
確かに旨そうだった。

『あんた食べないんなら貰うわよ?』

みーきゃんが遠藤の皿に手を出してきたが、咄嗟に自分の元へ引き寄せる。

「いや!食う食う!…てか砂羽〜。お前もさぁ、ちょっと醤油なんか垂らしてみたりなんかしちゃって旨そうに焼くなよ〜。まぁ、今度からはちゃんとしたもん持ってこい。沢口靖子がすぐにオン・ザ・リッツ出来るもん持ってこい」

「ボスは文句ばっかり。てかみーきゃんさん。これって駅前の魚屋さんで買ったんですよね?!あそこって魔法のレストランの取材きてるんですよ?え〜と、司会者誰でしたっけ〜?」

砂羽は半笑いでみーきゃんに問い掛けた。
どうやら先程と同じ罠に嵌めるつもりらしい。
マキのほうだぞ?ちゃんと出るのかぁ?と、遠藤もニヤニヤと白子を口に放り込みながら成り行きを見守る。


「司会者?…………なかまマキんに君」

「「マキを挟んできたー!!」」

みーきゃんはニヤニヤしていた。

「お前、知ってたろ?!」

『ここに来る時ドアの前で聞こえたの♪楽しそうだったから入れなかっただけよ。てか、人の気配にも気づかないなんて探偵失格よぉ?じゃ、私は捜査に行くから』

なんか分かったらすぐ電話してね、と決めポーズで出ていった。


「ボス。警部になる人は格が違いますね」

「そうだな。俺達まだまだ修行が足りないんだろうな」

「カリン塔でも登ってみます?」

「オレ、仙豆持ってない。煌潤でいいかな?」

「………………捜査。行きましょうか」


なんだか煮え切らない気持ちで、遠藤と砂羽はそれぞれの捜査へ向かった。

今夜放送の魔法のレストランは、もちろん録画予約しておいた。




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