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遠藤探偵事務所の事件譚
Day4-1

【あらぁ♪遠藤さん、砂羽さんおはようございますぅ♪】

「「おばようございまぶ」」

民宿ほぐわ〜つの食堂。
ガンガン差しこむ朝日に顔を歪めて2人は答えた。
目の前では満面の笑顔のオカンが朝食バイキングを用意していた。

【あら?なんだか疲れたお顔してるわね?ゆっくり休めなかったかしら?こちらのお席どうぞ〜お父さ〜ん!お父さ〜ん。お味噌汁2つ追加ねぇ〜】

あいよー……と気の抜けた返事が厨房から聞こえる。
遠藤と砂羽は席に着くなり大きなため息をついた。

【あらあらどうしたの?そんな疲れた顔して。……あ、もしかして!若いからって夜通し……パックンチョって?!もぉ!やだよぉ〜朝から!】

布巾で口を押さえ大声で笑いながら遠藤をバンバン叩いている。

「いや……痛いッス痛いッス。てか、俺達そういう関係じゃないんで……」

遠藤はとてもめんどくさそうに答えた。
砂羽は完全に無視で机に突っ伏している。

【いいわよ照れなくても〜。おばちゃんも若い頃はねぇお父さんがパックンチョしてぇ〜なんて///やだよ!私ったら!ねぇ?お父さ〜ん?!お父さ〜ん!】

あいよー……と、また気の抜けた返事が厨房から聞こえた。
オカンはまだブツブツ言いながら次のお客様の所へと向かう。

賑やかだ。
普通に旅行として来ていれば最高にアットホームな楽しい宿だろう。
だが、今の2人には鬱陶しくて仕方ない。
だって徹夜だから。

昨夜の一件でがっつりミステリーに戻ってしまい疲労困憊である。



目の下にクマを作った砂羽がゆっくりと顔を上げた。

「ボス。また死体見ちゃいましたね。しかも至近距離で。どうします?」

「どうするもなにも見ちゃったもんはしょうがないじゃん」


あの後、2人は地元警察を呼び朝まで事情聴取を受けていた。

宿に戻ってからも警察が来る前にMiraの部屋をこっそり調べ、それが警察に見つかり1時間ほど絞られた。

何度も言うようだが徹夜である。
疲労困憊なのである。


「飯食ったらすぐ帰るぞ」

「そうですね。事件も終わりましたし」

「……なんで?」

目の前に用意された朝食の鮭とご飯を勢いよく掻き込みながら遠藤は答えた。
砂羽は食欲が無いのか味噌汁椀を両手で持ちチビチビ飲んでいる。

「え?だってボスも見たでしょ?Miraさんの部屋から遺書が見つかったじゃないですか」

そうなのだ。
Miraの部屋から遺書を見つけた。
太虎殺しとリナ助殺し、全ての罪の告白文と共に。

「そうだけどさ……」

ズズ……と味噌汁を飲み御新香に箸を伸ばす。

「なんか気になることでもあるんですか?Miraさんの書いてた事は完璧だったじゃないですか。罪を悔いての自殺でしょ?」

そこなんだ。気になるのは。
確かに犯行時間や殺害方法は報道されていないことまで完璧に書かれていた。

でも屋敷の密室の謎、そしてリナ助の左手に関しては何も書かれていたいなかった。


しかも文面はパソコンで作られたもの。
自筆はサインのみ。
遺書としては不自然だった。


そして遠藤が一番気になったのは遺体の状況。
オカンが言うには昨日Miraから電話があったと言っていた。
しかし遺体の死後硬直は完全に解けていたのだ。

確かに死後20時間〜22時間程度で硬直は溶け始める。
昨日電話があった後すぐに死亡していたとしたらおかしくはない状態だった。

しかし硬直は完全に解けていた。屋外に放置され、しかも夜はあの寒さだ。
死後硬直は年齢や周囲の気温で多少の誤差は出る。
あの年齢、周囲の気温からすると恐らく死後4.5日経っている。

しごしごにち。


ごほん…


少しのズレはあるとしてもあの解け方は明らかにおかしい。
目の白濁もかなり進んでおり、わずかだが腹部の腐敗も始まっていた。

素人の検死なのでなんとも言えないが。


そして、この遠藤の予想が確かならば太虎が殺害されるよりも前にMiraは死亡していたことになる。


となると、一昨日民宿に訪れ、昨夜旅館に電話したMiraらしき人物。

一体誰なんだ?
自殺?他殺?




「ボス。ボス!口から御新香はみ出してますよっ」

「あぁ〜、昨日のこと思い出したら気持ち悪くなっちった……」

「だからってこので吐かないでくださいね」

「お前よく平気だなぁ…」

「平気なわけないでしょ?!私なんて食欲全然無いですもん。折角の朝ごはんなのに3杯しかおかわりできませんでしたよぉ…」

「充分だろが」



♪漢〜漢〜漢が燃える♪

突然、角田信明の美声が響いた。
砂羽の携帯が鳴っている。

「あ、みーきゃんさんだ」

もしもし?と電話に出ながら砂羽は食堂の外に出た。


「あの着うたなんとかならんのか…ごっつぉさんでした!」

箸を置きパンッと両手を合わせた。

『お茶をどうぞ』

「うぉ!びっくりしたぁ!」

隣には朔夜がお茶を持って立っていた。
遠藤の前に暖かいお茶を出す。

『すみません。驚かせてしまって』

「いやいや。大丈夫です大丈夫です。どうかされました?…あ、どうぞ座ってください」

遠藤に言われるまま、朔夜はテーブルをはさんだ向かいの席に腰を下ろす。

『昨夜は大変だったみたいですね。写真の人…亡くなったんですか?』

「ええ。残念ですが…」

『そうですか…』

朔夜は何か考える素振りを見せ、再び口を開く。

『僕が…早く遠藤さんに女性のことをお伝えしていればこんなことにはならなかったでしょうか?』

「それは違います。朔夜さんが気にやむことは何一つありません」

でも…と、俯く朔夜。

「これは俺の憶測ですけど、たぶんここに来たのはMiraさん本人ではありません。だから朔夜さんはそんなに深く考えないでください」

『やっぱりそうですか…』

「!!やっぱりって?何か知ってるんですか?」

『知ってるというかなんというか。実は、チェックインされた方がどうしてもMiraさんという方とは思えなくて』


どういうことだろうか?


『若かったような気がして…』

小首をかしげながら朔夜は話す。

『服装や髪の色、確かにMiraさんという方と同じでした。でも、マスクにサングラスをしていて手袋までされていたので、ほとんど隠れている状態でした。しかも一言も話されなかったんです。声を聞いてないんですよ』

「ふむ…」

『でも記帳して頂いた時に聞こえたんです』

「なにを?」

『スマホから聞こえるLINEの通知音が』

「は??」



LINE。
ご存知の通り巷では使っていない人を探す方が難しいくらいに皆が使っているスマートフォンアプリ。
爆発的に流行っている。

そろそろ【♪既読なのに〜見てるはずなのに〜あなたから返信がない〜I miss you〜】的な歌を西野カナあたりが出してもいいんじゃないかと思うほど流行っている。

使っているほとんどが若年齢層で、Miraの年齢のご夫人が使っているのは珍しいだろう。

『Miraさんはすぐ返信されていて、その時に手袋を外されましてので手がみえたんです。あれは絶対に若い方の手です!』

手は年齢が如実に出てしまう。
特にMiraは八百屋を営んでいて常に水や土に触れていた。
いくらお手入れがマメであっても年相応くらいには見えるだろう。

「それって女性だったか男性だったかわかりますか?」

遠藤はこの時点ではもう別人だと確信している。
唯一の目撃者である朔夜には色々と聞いておきたかった。

『そこまでは…今は男性でも華奢な方なんて沢山いらっしゃいますし…』

「そうですよねぇ。変装もしてたみたいですしねぇ」

う〜んと、顎に手を当てて考えているとバタバタと砂羽が電話を終えて走って戻ってきていた。

「ボスー!みーきゃんさんが電話の発信元分かったって。携帯じゃなく公衆電話からでした」

「そうか。で、どこだって?」

「それが…ニューロッカからかけられていたみたいです」

「はぁ?!」

探偵事務所がある俺達の住む町だった。



自殺する人間がわざわざこんな遠い所、行ったり来たりしたりしない。

やはりMiraは誰かに殺されたんだ。

ここに居たって犯人の手掛かりが掴めないことだけでも分かったのが幸いだった。

「おし。すぐに事務所戻んぞ」

はい、と砂羽も鞄を掴み遠藤の跡を追った。

『ちょっとお待ちください!僕、重要なことを思い出しました!』

玄関先まで朔夜が走って追ってきた。
遠藤は靴を履くのをやめ、どうしたんですか?と朔夜に体を向けた。

『あ…でも、あまり重要なことではないのでお急ぎなら別に構わないので…』

言い渋る朔夜に砂羽がメモを用意しながら言葉をかける。

「朔夜さん。情報っていうのはどんな些細なことでも重要なヒントになるんですよ?気にせず言ってください」

ね?と、笑顔を向けた。

『わかりました…あの…』

一刻も早く事務所に戻りたいが、ぐっと我慢して朔夜の言葉を待った。


『ホットペッパーの特典のフクロウ餌付け体験を忘れておりまして…』



「んなことどうでもいいわぁ!!」
「忘れてたぁぁぁぁ!やるやる!」


遠藤と砂羽は同時に叫んだ。



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