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遠藤探偵事務所の事件譚
Day3-12

禁じられた森。

聞いたことの無いような謎の鳥の鳴き声。
闇夜に光る獣の瞳。
風になびいて鳴り響く木の葉の音も、いつもより大きく聞こえるようだ。
足元はぬかるんでいて小さな虫が大量に蠢いていた。


「……ってのを想像してたのに、なんだよコレ」

「ボス〜!あっちに山岳茶屋があるっぽいですよぉ〜行ってみましょうよ〜!」

登山道の中腹に併設されているアスレチックのテッペンから砂羽が叫んでいた。

「お前遊んでないで降りてこい!置いてくぞ!」

「えぇぇ〜……ボスもやってみたらいいのに」

砂羽は渋々降りてきた。ターザンみたいなアレで。
フク太郎もなにげに楽しそうに砂羽の後ろを飛んで着いてくる。


森に入ってから30分。
【↑山頂コチラ(ハァト)】という看板を頼りにひたすら歩いていた。
電灯も無く、まっ暗闇な上に人が居る気配も無いが、この馬鹿げたシチュエーションのお陰で2人と一匹の足取りは軽い。
遠藤は休憩の為、アスレチックのベンチに腰かけてタバコを吸っていた。

「あ〜楽しかった♪ボスもやってくださいよ、あのターザンのヤツ。めちゃくちゃ面白いですよ!」

服に付いた泥を払いながら砂羽は近づいてきた。

「アホか。遊びにきたんじゃねぇんだぞ」

「わかってますよ。でも暗くて怖いよりいいじゃないですか」

それもそうだ。森へ入る前は正直怖かった。
だが、蓋をあければただのハイキングコース。
この調子なら確かに気分も楽だし、遭難の恐れもなさそうだ。

「あの、一つ気になることがあるんですけど」

遠藤の隣に腰掛けながら砂羽は言う。

「すごくどうでもいいことなんですけどね、この小説、民宿ほぐわ〜つのターン、めちゃくちゃ長くないですか?」

「確かに。これまではDay1-10とかDay2-10で終わってたのにこのDay3だけ異常に長いよな」

「でしょ?しかも内容が無いよぉ〜って」

「…………こんなしょーもないことばっか書いてるからじゃねぇの?」

「そうでしょう。そうでしょう」

ウンウンと砂羽は頷く。

「まぁ、お前が言ってたように俺達は書かれることをやるだけの簡単なお仕事だから作者に任せようよ」

「そうなんですけど、それにしても長過ぎません?」

「いや、このやり取りこそ長くなる原因だと俺は思うな」

「まぁ、書いてる人も最近忙しいらしくて、この先のストーリーがまだ練れてないとか…」

「そうなんだ。大変なもん書き始めちゃったねぇ。でも今回は最後まで頑張るって決めたみたいだし気長にやろうよ。別にもうこのままファンタジーで終わっちゃってもいいじゃん。平和でいいよ」

「ですねぇ。ラストは超でっかい敵出てきたけど頑張って勝ちました感だしとけば大丈夫ですよね」

「そうそう。殺人とか死体とか、そんなのコナンや金田一でやりつくしてるからね。もう流行んないって。PTA怒ってくるよ?怒るとデング熱より熱いんだよぉ?PTA」

「ですよねぇ。犯人なんて見つけなくてもいい、そんなホンワカした小説にシフトチェンジしましょう!」

「だな!よし決まり!じゃ、とりあえず山小屋かどっかでHPとMP回復しようぜ」

遠藤は勢いよく立ち上がった。
何を回復するんだ。
まだ戦闘さえしていない。

「ちょっと待ってくださいボス!」

何か思い付いたのか、砂羽は遠藤の袖を引っ張った。

「なんだよ!俺はボスじゃない!今日から勇者エンドウだ!お前は何になりたい?吟遊詩人か?遊び人か?たまねぎ剣士か?」

「ろくなのないですね…そうじゃなくて。どうせこの小説乗っ取るならネタバレ的なことしませんか?」

「ん?それはどうゆうことだ」

「さっき朔夜さんに貰った鞄の中身見てみませんか?きっと事件の鍵になる何かが入ってますよ」

「あの一晩8Gで泊まれる宿屋のおやじがくれた鞄か?どうせひのきの棒かおなべのフタだよ」

おやじじゃない。朔夜だ。

「まぁまぁ。作者不在の今、このままミステリー要素残しとくとまた変な事件に巻き込まれちゃいますよ?種は摘んでおかないと」

砂羽はさっさと遠藤の鞄を開け始めた。

「……ま、それもそうか。で?何が入ってる?…………って、なにこれ」

砂羽がベンチに中身を並べていた。
入っていたものは水でもない、磁石でもない、ナイフでもない。

ペットボトルのコーラ。
その辺に落ちてそうな小枝。
食べられる野草図鑑。

ご丁寧に朔夜から手紙が添えられていた。
砂羽が音読し始める。


【拝啓。季節も代わり肌寒くなってきました。御変わり無くお過ごしでしょうか?さて、この鞄の中身を見てさぞ驚かれたことでしょう。遠藤様、砂羽様のお役に立てますよう最高の魔法グッズをお入れしておきました。普通ならばこのような素晴らしいアイテムはお貸しできませんが、遠藤様のたっての頼みとなりますと断る要素がございません。どうぞお使いくださいませ。敬具。朔夜】


「ですって」

「いや、たのんでねーし」

「あ、まだ続きありますよ」

【PS:使い方はそれぞれのアイテムに使用説明書をお付けしておりますのでご覧ください。世界の平和…………】







【守ってくださいね!キラリ】



「ツッコミ所多すぎるわぁ!まず拝啓使うなら追伸って書けよぉ〜そういうとこだよぉ?」

遠藤はベンチでうなだれて愚痴っていた。
隣では砂羽が、なるほどっと言いながらアイテムに付いていた使用説明書を読んでいる。

「勇者エンドウ。使い方は理解しました。説明していきますね。まずは……」

ペットボトルコーラ。
シュワシュワ感の中に感じる甘さ。
あの香川真司や本田圭佑もハーフタイムに飲んでいたと言われている伝説のコーラ。
飲むと疲れがちょっとだけ取れる。

「ちょっとだけかよ!」

「まぁ飲んでみてくださいよ」

砂羽がペットボトルを渡してきた。
飲んで大丈夫なのだろうか。
遠藤はクンクンと匂いを嗅いだあとペットボトルに口をつけた。

ゴクゴク……


「甘っっっ!甘過ぎんだろ!普通のコーラでも、角砂糖3つ分あんのにこれ10個分くらい甘いよ?!」

「疲れた時は甘いものって言いますし」

「そうだけどぉ!こんなのハーフタイムに飲んでたら口の中の色んなもん全部持ってかれるわ!マラソン後のおしるこくらい色々もってかれるわ!」

「あー。うるさいうるさい。じゃ次〜」



ミラクルスティック。
これを持って呪文を唱えると、魔法の効果がちょっとだけ上がる。








「まずー、俺達はー、魔法がー、使えない。はい次。」



食べられる野草図鑑。
伝説の草人、岡本信人も読んだと言われている書物。
これを読むとちょっとだけ野草に詳しくなれる。
ちなみにこれは下巻である。


「先に上巻よこせや!」

「でも結構おいしいですよ?」

砂羽は図鑑をちぎりながらモグモグ食べている。

「そういう意味の『食べられる図鑑』なの?!」

「でも、なんか図鑑にしてはちょっと甘めかなぁ……モグモグ」

「他の味の図鑑もあるの?!ソーダとか梨とかリッチとか?!」

「それガリガリ君でしょ?……ん??」

砂羽の首が後ろに引っ張られていた。
そこには服のフードを噛んで一生懸命引っ張っているフク太郎が居る。

「どうちたの〜♪フクちゃんも食べたいの?ん?」

食べさせてあげようと砂羽はフク太郎に手を伸ばすが、それでもフク太郎はフードを引っ張って離さない。

「何か言いたいんじゃねぇの?お前、動物の言葉わかる呪文とか覚えてないの?」

「んなの唱えられるわけないでしょ?!でも、なんか様子変ですよねぇ。どっか連れてこうとしてるみたい」

フク太郎はまだホーホー鳴きながら羽をばたつかせていた。

「ちょっと付いていってみるか?」

遠藤はよっこいしょと腰を上げた。
するとフク太郎はパタパタと森の奥へと入っていく。

「ちょ!待ってよフクちゃん!」

砂羽と遠藤は駈け足で追いかけた。






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