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遠藤探偵事務所の事件譚
Day3-11

「黒電話かぁ…」

フロントの電話を見つめて遠藤は呟いた。

「ボス!一体どうしたんですか?!」

追いかけてきた砂羽も後ろから覗きこんでいる。

「いや。さっきMiraさんに電話かけたら繋がんなくてさ」

「留守電だったってことですか?だからって家電でかけてもつながりませんよ?バカなんですか?」

腕組みをし、見下したように砂羽は言う。

「違うって!昨日Miraさんから電話あったって奥さん言ってたろ?だから履歴ないかなと思って見にきただけだよ!」

「ああ。なるほど。でも黒電話だと確かめようがないですね」

「そうなんだよ」

ふぅ、とため息をついて遠藤は椅子に腰かけた。

「でも今さら履歴って。Miraさんからだったって奥さんも言ってるんですよね?」

「そうなんだけどさぁ。なんかひっかかるんだよね。無意味な宿泊予約とか、泊まらないならなんでわざわざ部屋を取っとく必要があるわけ?しかも昨日の今日で連絡取れないとかおかしいじゃん」

「まぁ、そうですけど…」

砂羽もカウンターに凭れて腕組みで考えている。

「ボス。そんなに気になるなら、とりあえず電話会社に問い合わせてみたらどうですか?履歴ぐらいすぐわかると思いますし。今日はもう時間も遅いので無理ですけど、みーきゃんさんに朝一で調べて貰えるように頼んどきますよ」

「それしかないよなぁ…頼むわ」

早速、砂羽はみーきゃんにメールしている。


しかしMiraの携帯が繋がらないのが妙に気になる。


先ほどMiraの携帯に掛けた時

携帯は止められていた。

圏外ではない。
【お客様のご都合により】というアナウンスだった。
いつから止まっていたんだ?

昨日は何処から宿に電話を掛けた?
タクシーの運転手が言うように森に入ったとしたら、公衆電話など間違いなく無い。
携帯を止めてまで何故危険な森に入ったのか。

昨日、森から出て公衆電話から掛けたのならそれはそれでいい。無事なのだから。
しかし今はそれを確認する手段も無い。
しかも、妙な胸騒ぎまでする。


「……てことで、行きますか!」

懐中電灯ありませんか?と、遠藤はフロントで理科の宿題をやっていた朔夜に頼んでいる。
メールを送信し終えた砂羽が驚いて振り返った。


「ちょ!ボス!こんな時間から何処に行く気ですか?!…まさか!めくるめく夜のネオン街に…」

「こんな山奥の何処にネオンがあんだよっ!」

「じゃぁ一体どこ行くつもりですか?」

「Miraさん探しに行くにきまってんじゃん」

「はぁぁ?!今からですか?」

「心配だろぉが。暗いからって諦めるのか?!心配になった。だから探しに行く!いつ行くんですか?」

『今でしょ!』

「「古っ!」」

突然、朔夜がフロント越しにコントに参加してきた。
どうしていいのかわからない沈黙が流れる。
すると姿勢を正した朔夜は咳払いひとつ、遠藤に話しかけてきた。

『あの森に入られるおつもりですか?』

「は…はい。タクシーの運転手さんが俺達が探してる人かもしれない女性を禁じられた森?で見かけたそうなのでちょっと行ってみようかなぁ〜なんて。あははは」

『感動しました!』

朔夜は遠藤の両手をしっかり握りしめ、目を輝かせた。

『ご自分の身の危険をかえりみず、会ったことも無いご婦人の為に暗黒の森へと身を投じる…』

暗黒って。初耳だ。

『その貴方の素晴らしい心!勇敢なる生きざま!敬意を表したい!そんな遠藤様は…』

………

言い知れぬ沈黙が流れる。
遠藤と砂羽がゴクリと喉を鳴らす。

……………

………………………


『グリフィンドール!!!!』

イェイ!ワォ!フゥ!
と、朔夜と砂羽はハイタッチしている。
謎の感動が辺りを包んだ。

「なんなんだよお前たち……」

遠藤の疲労はピークに達した。








ほぐわ〜つから歩いて10分ほどの距離。
禁じられた森。
入り口まで朔夜に送ってもらい、3人の目の前には今にも飲み込まれそうな真っ暗な森が口を開けていた。


『まず森に入られたら必ず方角を確認してください。迷いますよ。あとはコレをお持ちください』

朔夜は小さな鞄を遠藤に渡した。
恐らく山に入るのに必要な磁石や水、ナイフが入っているのだろう。

「なんか色々とすみません。助かります」

『いえいえ。森というのは姿を変えるものです。準備はしっかりとしておきませんと命に関わりますので』

「そうですね」

「ボスだけいいなぁ……」

砂羽は遠藤の周りをグルグルとまわって、いいないいなと連呼している。
鞄が羨ましいらしい。

『そうでしたね。女性の砂羽様には僕の優秀なる助手をお付けしましょう』

言うなり朔夜はマントに手を入れ、何かを取り出しそっと砂羽の肩へ置いた。


「……かっっ……かっちょいいぃぃ///」

「……そうでもないぞ?」

砂羽の肩にはフクロウが乗っていた。

明らかに年老いたフクロウ。
ピクリとも動かない。きっと眠っている。

恐らく

いや、絶対に役に立たないだろう。

「そんなに嫉妬しなくてもいいですよボス♪たまにボスの肩にも乗せてあげますって♪」

「俺は……別にいいかな……ははは」

る〜るるるるるる♪と砂羽はフクロウと楽しそうに戯れていた。



『さて、それでは僕は理科の宿題が残っておりますので宿に戻ります。道中くれぐれもお気をつけて……』

そう言うと朔夜は闇夜に消えて行った。

「はぁ。なんか疲れた。てかこれ確かミステリーだったよね?なんでファンタジーになってんの?」

「その方が楽しそうでよくないですか?私はこの展開結構気に入ってますけど♪さあ、これからが本番ですよ!森の中に潜む悪の大魔王を倒しに行きましょう!」

「うん。なんかもうそれでいいよ」


さぁ〜フク太郎ちゃん行きましょうねぇ♪と、砂羽は森へと入っていった。
遠藤は何故こんなことになってしまったのか、どうして探しに行こうなどと言ってしまったのか後悔しはじめていた。

「……リレミトくらい教えてもらっとけばよかったかな」

重い足取りで遠藤も暗闇へと歩を進めた。





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あきゅろす。
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