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遠藤探偵事務所の事件譚
Day3-10

どう見ても日本家屋のこの民宿。
しかし客室係は大天使ラファエルの使い。
宿泊名簿は使い古されたジャポニカ学習帳。
羽根ペンに似せる為、無理矢理何かの羽根を付けられたボールペンで記帳する。

この魔法学校もどきに遠藤と砂羽は困惑していた。


『遠路はるばるようこそお越しくださいました。本日はスリザリンの間をご用意致しております。早速お部屋のほうにご案内…』

「すみません。ちょっとその前に聞きたいことがあります」

遠藤は朔夜の言葉を制して名刺を渡し、さらにMiraの写真も見せた。

「わたくし、探偵の遠藤と申します。この方。お泊まりではないでしょうか?」

朔夜は深々とため息をついた。

『ですからお電話でも申しましたが、いくら探偵の方でもお客様の情報はお伝えすることはできません』

「わりと緊急なんです。そこを何とかお願いできませんか?責任は私共で取りますので…」

【あらあら…お客様?】

朔夜の背後から女性が顔を出した。
50代くらいのザ・お母さんな女性。
髪は鮮やかな色のパーマネント。こめかみにはピップエレキバン的な何か。

フリルのエプロンで手を拭きながらやってきた。

【どうもぉ〜いらっしゃいませ♪瞳の母でございます】

『オカンは出てくるなよっ!それと僕は朔夜!大天使ラファエルの使い朔夜なの!本名で呼ぶな!』

((ほんとの名前は瞳なんだ…))
遠藤と砂羽は成り行きをソッと見守っている。

【もうこの子ったらお客様の前で…ほら!早くお部屋にご案内しなさい!】

『もぉ!うるさいよマ…オカンは黙ってて!』

((いま完全にママって呼びそうだったよね…))
本当はオカンなんて呼ばない健全少年のようだ。
思春期真っ只中。

【あんたは口答えばっかりしてっ!もうええわ。お母さんご案内するから!…ところであんた、保険証どこしもたん?明日お母さん昼からパートお休みもろて山中医院さん行かなあかんゆうたやないの!院長先生、明日しか診察してもらわれへんのやから!あんた、こないだ部活で捻挫して病院行くゆうて保険証持って行ったやろ?部活辞める言うてた桐島君?に、一緒について行ってもらうんやぁいうて。保険証つこたらちゃんと鏡台の引き出しになおしといてって言うたのに!そうやってすぐお母さん困らせるぅ!ちゃんと探して戻しといてや!…ほんまにもう……ほほほ♪お待たせしました。お部屋にご案内しますねぇ♪】

「「はぁ…どうも」」

お尻をプリプリ振りながら前を歩くオカンに付いていく。
振り返ると『なんやねん…ちゃんと返すし…』と、ブツブツ言いながら鞄の中から保険証を探す朔夜の姿があった。

遠藤はなんとなく懐かしい気持ちになって微笑んだ。







【さぁさぁどうぞぉ♪】

案内された部屋はごくごく普通の和風の部屋だった。

【さっさっ♪長旅疲れたでしょ?お茶お入れしますねぇ♪】

オカンは部屋に置いてあった急須に手をかけた。

「あの!お茶は後で結構です。その前にお伺いしたいことがあります。この方お泊まりじゃないでしょうか?」

遠藤はMiraの写真を見せた。

【あら。この方……】

「ご存じなんですか?」

【…はい。…うちに泊まられてたお客様だと思います】

やっぱりここに居たのか。
しかし…

「だと思いますってことは違うかもしれないと?」

【ええ。なにせ帽子をかなり深く被ってらっしゃって。顔もほとんど見えませんでしたし。でも髪の毛の色と洋服は同じですよ?】

「泊まられてたってことは今はもうチェックアウトされてますか?」

【いえ、それがねぇ…この方1週間の予定でお泊まり予定だったんだけど、ここ数日帰ってらっしゃらなくて。料金は前払いで頂いてましたし食事もいらないとおっしゃってましたので…心配してたところなんですよぉ】

「帰ってない?どこかに出掛けたままってことですか?」

【そうなの。さすがに心配だから警察にも言ってるんですけどねぇ。でも、宝探しでもしてるんじゃないのかって取り合ってもらえなくて】

こういう土地柄だ。
宝探しに夢中になって帰らないなんてことはよくあることのようだ。

「どれくらい帰ってらっしゃらないんですか?」

【そうねぇ…チェックインされてすぐだから、もう3日になるかしら】

「3日も?!」

3日前といえば太虎の殺された翌日だ。

【ええ。だから心配で…あ!でも昨日電話がありました。いつ戻るかわからないから部屋はそのまま空けておいてほしいと】

昨日。
まだこの辺りにいるのか。

「電話の内容はそれだけですか?」

【はい。他には特に…この辺りは山に入ると携帯電話が使えなくなりますので多分森の中に迷い混んでるってことは無いと思いますけど…】

「ふむ…」

遠藤はスマホを取りだし蒼から聞いたMiraの携帯番号を押した。
隣では砂羽が遠藤の代わりに話しを聞いている。

「あの…電話がかかった時なんですけど何か変わった音とか、後ろで聞こえる気になる音とかなかったですか?居場所の手がかりになるかもしれませんので」

【そうねぇ…声の感じだと室内ではないと思うんだけど…あまり覚えてないわ。ごめんなさいね】

「そうですか…ありがとうございます。…って、ボスどうしたんですか?Miraさんつながりました?」

遠藤が電話を切って考えこんでいる。

「いや。…あの奥さん?ちょっと電話お借りしていいですか?」

【はい。構いませんが。このお部屋にはありませんのでフロントのをお使いください】

遠藤は部屋を出てフロントに向かう。

「ちょっとボス!どうしたんですか?!私も行きます!」

砂羽も急いで後を追いかけた。



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