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遠藤探偵事務所の事件譚
Day1-1

俺の朝はこの1杯のマミーから始まる…


築35年にして家賃が月5万というこのボッタクリ探偵事務所で、唯一安らげる朝のひと時。



身動きするたびにギシギシと唸る椅子に座って、俺は今日という日を迎えられた事に感謝する。


こう朝日が爽やかだと俺の溢れんばかりのリンリン具合が暴走しそうだ。

アンパンマンとて敵うまい。




「決して朝日など差し込まないこの部屋で朝日を感じるとは…俺も来るとこまで来たな…ふっ」



今日も町は平和だ。


『moko's kitchen』を見ながら過ごすこの時間だけは何物にも変えられない僕のonly one。

あ、なんかTOKIOの曲にありそうなフレーズだ。



「さぁ、今日はどんな事件が俺を呼ぶのか…真実はいつも1つだっちゃ!」


名探偵コナンとラムちゃんをこよなく愛す俺の決め台詞。



決まった…ぜ!



2階の窓辺から人差し指を突き出した俺に、商店街を行く小学生たちが熱い眼差しを送っている。


真似したければすればいいさ…
俺はそんなことで怒ったりするちっぽけな大人じゃないぜ!


さぁ行こう!宇宙の果てまで!キラッ☆



そうだ!まだ名乗っていなかったね。

私の名は遠藤。

遠足の遠に武藤敬司の藤。

そう。遠藤だ。


下町に事務所を構え、しがない探偵家業をやっている。


毎日毎日TVのニュースでは悲しい事件が起きているね。
何故この名探偵遠藤に助けを求めてこなかったのか…


それだけが悔やまれる。
心が引き裂かれそうだ。


きっと皆、忙しい俺に遠慮しているのだろう。

ここ最近、猫探しからお隣の八百屋の弥兵衛じいさんの入れ歯掃除まで、とにかく多忙だった。

なんせ2ヶ月に2件も仕事があった。

労働監督庁に入られたら一巻の終わりだ。


俺が多忙なせいでこの世に悪を蔓延らせてしまっているのだ…

本当にすまないとおもっ

ガンガンガンガン…



ん?来たか…
あの品の無い階段の登り方…あいつだな。



バァァァァンッッ!!



「ボス!ニューロッカの大富豪の太虎氏が何者かによって殺されました!!」


「壊れるぅぅ!そんな開け方したら入居時からずっと瀕死の僕のドアが壊れちゃうぁぅぅぁう!って何回言ったら分かるんじゃこのクソあま!」


俺は飲みかけのマミーをワイングラスごと机に叩きつけた。


「あぁあん?!喧嘩なら買いますよ?!高値で買いますよ?!」

「…ペソか?」
「円です!!」


口の悪いこの女。
名を『エフゲニー・砂羽・プルシェンコ』という。
ロシア人の父と日本人の母を持つハーフ。


で、何故か相棒。




本人はずっと日本育ちなので日本語しか喋られない。
ましてや海外なんて行ったことも無いし、飛行機すら乗ったことが無い。

唯一自慢なのが父親譲りのブロンドヘアー。
これは潜入調査などではかなり役立つ。

数ヶ月前に受けた依頼でもロシアンパブに潜入し、みごとロシアンたこ焼きに勝利しロシアンブルーを手に入れてきた。

この子、恐ロシアン。


どうしてこんな奴を雇ってしまったんだ…

こいつが来る前はよかった…

密偵の寺脇
主婦キラー及川
ジャニーズ成宮

と、腕の確かな奴ばかり。

しかしこいつら全員『水谷探偵事務所』に引き抜かれてしまった。


水谷め…腹が立つ奴だ。

いつかアイツの大好きな紅茶を杜仲茶に変えてやって、ドリフばりの二度見をさせることが当面の野望としよう。






「…聞いてますかボス!事件ですよ殺人事件!」


気がつけば砂羽が至近距離で怒鳴っている。



「なんで俺達が行かなきゃいけないんだよぅ…ここ探偵事務所だよ?警察じゃないんだよ?しかも探偵って言っても自宅警備員レベルだよ僕たち」


座り直して溜息をつく。

すると砂羽は大きな足音を立て近づいてきたかと思うと請求書の山を机に叩きつけた。
 

「そんなこと言ってるから家賃滞納なんていう素晴らしい事態に陥るんですよっ!」



「滞納ではない!出し惜しみだ!お金くらいあるんだよ?俺だって社長だもの。でも、いつも笑顔でいってらっしゃぁ〜いとか、おかえりぃぃ〜んとか言ってくれる嫁が待ってるからさ…彼女を不幸には出来ないからお金を渡しちゃうんだよ」


「それただの秋葉原でしょうがっ!!」


「秋葉原という自宅だ!何が悪い!」


こうなってしまったら言いくるめられるのがいつものパターンだ。

確かに砂羽は仕事を取ってくる能力に長けている。


しかも何故か警察関係者に顔がきく。


事件を見つけて来ては現場に行き
「警察に出来ない調査はお任せください!」
と、名刺を配り仕事を取ってくる。


まぁ助かってるちゃ助かってるんだけど、大体が事件と大幅にズレた結果を出すんだよなぁ…

依頼主が浮気してたの見つけちゃうとか

ある意味お金もらえりゃそれでいいんだけど、なんか…



せこいよね、うん。




「もぉボス行きますよ!今回は大富豪の家だからこんなチャンスないですよ!会社関係とか親族関係とか執事さんとかメイドさんとか売り込む場所は沢山あるんですからねっ!」








メ…

メイド…だ…と?!












「何をしている!さぁ行こう!」


俺はお気に入りのバッグを背負い風のごとく部屋を飛び出した。


「…あの人がボスって現実から逃避したら神様はお怒りになりますか?」






今日はなんて素晴らしい日なんだ!

仕事にありつける上にメイドに無料で会えるなんてっ…!!

この星に生まれてよかったよ!
生んでくれてありがとうダディー&マミー!


メイド イン ジャパーン!!
 

ひゃっふぉーい!という掛け声と共にニューロッカの太虎の屋敷へと向かう。








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あきゅろす。
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