[携帯モード] [URL送信]

遠藤探偵事務所の事件譚
Day3-5

雨は降り続いていた。
大雨洪水警報が出ているようで、町中の人達の足取りも心なし早い。


警視庁。
今まで訪れた事はなかった。
ハルの店を出てすぐ、みーきゃんから渡したい物があると電話があり向かっている。

(なんか妙に緊張するなぁ)

警察署とか警官っていう言葉は何故背筋が伸びてしまうのだろうか。

「警察って、自分に後ろ暗い所があるから緊張するって言ってましたよぉ?」

砂羽が隣で携帯電話を触りながら言った。

「お前、歩きスマホはダメなんだぞ?」
「歩きガラケなんで大丈夫です。うわっ、雨が吹き込んでくる!携帯壊れるっ」

どうやらそろそろ着くとみーきゃんにメールを入れているようだ。
雨は更に強さを増していった。






「刑事部…ここか」

主に刑法犯罪を担当するのがここ刑事部。
ドラマなどで「刑事さん」と言われる人がいる所だ。

一言で刑事部といっても細かく分かれている。

【捜査一課・強行犯】
殺人・強盗暴行・傷害・誘拐・立て籠り・性犯罪・放火
(ちなみに「踊る大捜査線」の青島君はここ)

【捜査二課・知能犯】
贈収賄・通貨偽造・詐欺・横領・脱税・サイバー犯罪

【捜査三課・窃盗 盗犯】
空き巣・ひったくり・忍び込み
(すみれさんは恐らくここ)

【捜査四課】
暴力団の取り締まり

あとは鑑識課・機動捜査隊・総務課などがあり、さらにそれぞれの課の中でも第一係、第二係とかなり細かく分かれているのだ。

よくドラマで「あんまりよその島荒らすなよぉ?」と偉いさんが言っている原因がこれだ。
それぞれがチームとして分けれてプライドを持ってがんばっている。



そしてみーきゃんは捜査一課に警部として配属されていた。
警部といってもまだまだ立場としては弱いらしい。

折角なので少し説明しておこう。

よく聞く「キャリア(室井さん)・ノンキャリア(青島君)」とはどう違うのか。



国家一種試験に合格→警視庁に採用→国家公務員。これがキャリア。

国家U種試験に合格→警視庁に採用→国家公務員。これはノンキャリア(準キャリアとも呼ばれてるらしい)

各都道府県の警察官採用試験合格→地方警察官。だいたいの人はここ。もちろんノンキャリア。


国家U種だとしても警視庁はかなりの難関。
みーきゃんは 国家一種試験に一発合格し、さらには警視庁に採用されている。
しかしまだキャリアではない。
現状、警部はまだ地方公務員なのだ。


【地方公務員】
巡査→巡査長→巡査部長→警部補(全体の30%)→警部(全体の6%)→警視(全体の2.5%)

これより上の階級が【国家公務員】
ようやくキャリアだ。
警視正(全体の0.5%)→警視長(全体の0.5%)→警視監(38人)→警視総監(1人)→警視庁長官(1人)

室井さんは警視正と警視長を行ったり来たりしてた訳だ。
キャリアとしては一番下っぱ。


みーきゃんは今は警部として現場に出ているが昇進も時間の問題。
だから「キャリア組」と呼ばれているのだ。


余談だがキャリアは基本的に現場には行かない。
いわゆる「指示する人」になるのだ。


キャリアは国を守る御上。
ノンキャリアは人を守る兵隊。


みーきゃんは「この国と、住む人を守る【人】でありたい」と大口を叩いて日々邁進している。
もう政治家になれば?と思うことさえあるくらいだ。




「ふむふむ…なるほどね」

砂羽がメモを片手に頷いていて。

「うわ!…オレ全部声に出てた?」

「はい。聞いてもないのにブツブツと…でもまぁ勉強になりました。ありがとうございます」

「そりゃよかった…」

「あ…みーきゃんさん居ましたよ!」

机に座るみーきゃんを囲むように数人の捜査員がいる。
恐らく蒼の捜索について話し合っているのだろう。
ここで取り逃がしてしまうと、みーきゃんの経歴にも少なからず傷をつける。
誰よりも昇進を願う彼女にとっては正念場だ。


『あ!ごめんね!ちょっとそこのソファーで待ってて!』

遠藤達を見つけてみーきゃんが声をかけてきた。
周りの捜査員が一斉に睨みを効かせてくる。

「「恐ぇぇぇぇ」」

しかし堂々たるものだ。
あの強面の男達相手に怯む様子が全くない。
流石、といった所だ。
遠藤と砂羽はコソコソと出入り口に一番近いソファーに腰をおろした。


「ねぇボス。ここってアレですよね?ドラマで浅見光彦が、単なる一般人なのに口だすなぁー!って刑事達にアレされるとこですよね?」

「お前…ドラマ見すぎだって」

「あなたは!あの浅見陽一郎警視総監の弟ぎみ!いやぁ〜失礼しましたぁってなるテッパンの流れ!好きなんですよ私〜♪」

ワクワクしながら周りを観察している。

「やっぱ柳沢慎吾は脇役として外せませんよね!あの人すごいんですよ?局を越えて浅見光彦シリーズ出てるんですから!あ、ボスは誰の浅見光彦が好きですか?私はねぇ、やっぱり中村俊介かな?辰巳拓郎も元祖〜って感じで捨てがたいですけど。でも一般的には沢村一樹のイメージ強いですね?今はもこみち君がやってますけど、ちょっと若すぎというか…あ!昔は水谷豊も浅見光彦やってたの知ってま…」

「うっさいわ!!お前どんだけ内田康夫愛してんだよ。もうドラマ出ていいレベルだよ?浅見家の家政婦役で出てコッソリ覗いて『あら、ヤダ…』してこいよ!」

「それ市原悦子でしょうが!」

「ははは〜♪引っ掛かったな?2014年3月から家政婦役は米倉涼子なんですぅ〜市原悦子の時代は終わったんですぅ〜」

「それぐらい知ってますぅ!米倉涼子版の家政婦は『あら、ヤダ…』は言わないんですぅ!だから市原悦子で合ってるんですぅ!」

『どっちでもいいわ!てか、あんた達どんだけ2時間ドラマ見てるのよっ!そしてどんだけ暇なのよ?!』

いつの間にやらみーきゃんがやってきていた。

『あのねぇ、ここまがいなりにも警察なの。喧嘩しないでくれる?』

「「すみましぇん」」










『なるほどね』

ハルと客から聞いた話を伝えた。
みーきゃんは目しぱらしいルイージが写った写真を見つめている。

「これじゃぁ特定は無理ですよね?」

砂羽も隣で覗きこんでいる。

『そうねぇ…帽子と髭で顔は完全に隠れちゃってるし、体型もサロペットの中に着込んでる可能性があるし…科捜研でもさすがに無理ね』

写真をテーブルに置いた。

「まぁ金髪ってことは確認できるし今一番可能性高いのは目しぱさんじゃないの?」

『そうね…あ!そうそう。渡したい物あったんだ』

何処にしまったかなぁと、みーきゃんはデスクを探している。

『あったあった!』

使って?と茶色の封筒を差し出した。

「何これ?お年玉?」

『違うわよっ!捜索協力してもらってるし…一応こっちからも情報提供?』

封筒の中には写真が数枚入っていた。
太虎やリナ助、蒼と遼。
るりとストのもある。

「これは誰?」

男と女1枚ずつ見覚えの無い顔。

『こっちがMiraさんでこっちが目しぱさん』

さすが警視庁。情報が早い。
行方不明者でも偽名使った人でもすぐに写真を入手してくるとは恐れ入った。

「これで仕事しやすいよ。ありがとう」

『どういたしまして♪見返りは情報でお願いします』

「上手く利用されてますよボス…」

『違うわよ♪砂羽ちゃんの為よ?じゃ私は蒼さんの捜索がまだあるから行くわ』

じゃ、と軽く手をあげて去っていった。

「さて、これからどうしましょうか?」

時刻は午後3時。
雨はまだまだ降り続いている。

「とりあえず蒼さんが心配だ。出来る限り時間を取って探そう。あと、写真手に入ったしMiraさんと目しぱさんの聞き込みもしないとな」

「そうですね。じゃ二手に別れますか?」

「そうだな。あ、じゃぁお前はMiraさんの八百屋付近頼む。ついでに店と自宅調べてきてくれ。オレは目しぱさん行きそうな繁華街まわってみるよ」

「わかりました。じゃ午後6時くらいには事務所戻りますので」

「蒼さん最優先だぞ〜」

わかってますよ〜と砂羽は出ていった。

「じゃオレも行きますかっ!」

立ち上がった遠藤は傘を掴む。

「!!…アイツ…やりやがった!」

手元に残っていた傘はピンクのYES傘だった。




【Back】【Next】
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!