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遠藤探偵事務所の事件譚
Day3-4

「だからなんで私がYESなんですかっ!」

「別にどっちでもいいじゃん!女はピンクで男は青って相場で決まってんだよ!」

「だからってボスと並んで歩いてたらYESの私がいつでもどうぞ的に見えるでしょ?!ビッチですよビッチ!」

るりから渡された【YES.NOラブラブ傘】が現在の喧嘩の火種である。
蒼を探しながらこの喧嘩をかれこれ1時間ほど続けていた。

蒼のバイト先、その近辺。よく立ち寄るらしいカフェからクラブ怒無、マンション付近までくまなく探したが、蒼は未だに見つかっていない。

「だめだなこりゃ。闇雲に歩いただけじゃさすがに無理か」

スマホを取りだしみーきゃんに電話をかける。

「もしもし?オレオレ。蒼さん見つかった?」

【あんたか…いや、まだ見つかってないわ。そっちは?】

「こっちもダメだな」

【そっか…てか遠藤いまどこに居るの?】

「あー?今はアザイヤのクラブ怒無あたりだけど」

【ちょうどいいわ!蒼さんの捜索は増員かかったし大丈夫だから、あんたはさっき言ってたマッチの店?行って話聞いてきてくんないかな?お店その辺でしょ?】

お前が探せっつったんだろぉが!と怒り心頭だが…
まぁハルにいち早く会えるのだ。文句は無い。

「わかったよ…見つかったら連絡くれよ」

ブチッ

一方的に切ってやった。
さっきのお返しだ。

「みーきゃんさんなんですって?」

「あぁ。なんかハルさんとこ行って話聞いてこいだと。蒼さんはまだ見つかってないらしい」

「そうですか。今んとこ蒼さんは重要参考人ですもんね。殺害当日に屋敷に入ってるなんて、何かしたか何か見たの2択ですからね。逃がすわけにいかないですよ」

「犯人と決まった訳じゃないんだからさぁ…ま、とりあえず俺達はハルさんのお店向かうか!何食べよっかなぁ〜♪」

「ボスこそ遊びに行くんじゃないんですからシャキッとしてください!ハルさんから太虎さんの情報聞けるかどうかも謎なんですし」

「そのことなんだけどさ、案外すぐに話聞けるかもしれないぞ?」

「どゆことですか?」

以前、太虎はマリオのコスプレで店に通っていたことを話した。

「そんなに目立った格好してたんですか?なら楽勝じゃないですか!」

「そうだろ?絶対覚えてるよね、オレなら」

「太虎さんってアッサリした顔してますから覚えてるか不安だったんですけど大丈夫そうですね。特長といったらツッパリ棒持ってるくらいですもんねぇ」

「いや常に持ってる訳ないだろどう考えても…」








時刻は午後1時。

ガラガラガラ


「「えぇぇぇぇぇぇ……………」」

未亡人スナック-HARU-はすぐに見つかった。
入り口を開けるなり遠藤と砂羽は口をアングリと開けて脱力している。
そこは大勢の客がいた。


そして、みんなコスプレなのだ。


「ボス!コレどうゆうことですか?!」

「オレだって聞きたいよっ!」

甘かった。
まさかのコスプレスナックだった。
しかも20人ほどいる客の半数が何故かマリオだ。

古民家を思わせる和風な店内にコスプレの客。
かなりシュールな光景だった。

『あら…?こないだの探偵さん?いらっしゃい♪』

ハルがやってきた。
相変わらず黒い着物がとてもお似合いだ。

「ハルさぁぁぁん!キミに会いにボクがきたよぉぉぉぅ!」

襟首を砂羽に捕まれた遠藤はそのままクルクル回っている。

「ちょ!ボス!…ハルさん突然すみません。今日は事件のことでお伺いしたいことがありまして」

『まあまあ♪今日も鬱陶しいぐらいに賑やかな方♪ちょっと今忙しいからそこのお席で待っててくださる?』

確かにお昼時で店内はごたついていた。
スナックではあるが時間のある時はランチまでやっているらしい。
当初は普通にスナックとして営んでいたのだが、たまたま常連客の為に開いたランチ会が予想以上に好評で月に数回やっているという。

客層は圧倒的に男が多く、女性はチラホラ。
もともとコスプレなんてしなくても利用できるのだが、ハルが『あの人…スーパーマリオ好きだったのよね…』と呟いたことでこのような状況になったそうだ。
それが【コスプレしないと入れない】という暗黙の了解になり、色々なコスプレで訪れる客ばかりになったという。

みなさんハルを楽しませようと訪れているのだ。

テーブルに座る。周りはマリオだらけだ。

「ものすごく視線を感じるんですけど…」

砂羽は小声で遠藤に言った。
周りのマリオ達がジロジロと2人を見ていた。
その内の1人が遠藤達に近付いてくる。

【おい兄ちゃん達。ハルさんの知り合いかい?コスプレもせずよくこの店に来たな】

クスクスクスと周りのマリオ達が笑う。

なんか腹立つので仕返しをしてやろうと砂羽にソッと耳打ちした。
そして2人同時に勢いよく傘を開く。

「「YES.NO枕のコスプレですがなにか?」」

すると周囲がどよめいた。
おお!すげぇ!斬新〜!いやぁん!私こんなの初めて〜♪など拍手が起こった。

『あらあらもう…マリ男さんもマリ夫さんも毬雄さんもマリオンさんも、他のお客様にご迷惑ですよ?』

ハルがお水とメニューを持ってやってきた。
しかしよく見分けがつくものだ。
てかマリオンはすでに配管工ではないだろう。

『ごめんなさいね〜。みなさん仲間意識強くて』

【兄ちゃん達気に入った!探偵さんなんだって?俺達も協力するからなんでも聞いてくれ!】

なぁみんな!オーー!と勝手に盛り上がっている。

「それはどうも…」

『で、今日はなんのお話かしら?』

仕事が一段落したのかハルも席についた。

「実は人を探してまして」

太虎殺害に関する事情を説明した。

『じゃぁその殺された太虎さん?っていう人がうちのお店に?』

「そのようです。この写真の人なんですが見覚えありませんか?」

流石に惨殺死体を見せる訳にはいかないのでストから借りておいた太虎の写真を見せた。

『う〜ん…見たような見ないような…うちはだいたいコスプレして来られるからねぇ』

「この人もマリオのコスプレで何度かお店に来てたらしいんですけど…思い出せませんか?」

ハルは腕を組んで考えてくれている。

『いまココに居ないマリオで覚えがあるのは…アメリカ人商社マンのmarioさんでしょ?農協勤めのまりをおじぃちゃんでしょ…』

よくまぁ覚えているものだ。
接客業を営む上では秀でた才能だと思う。

『…それと、チベット国王のマ・リ王さんとペルシャ猫のニャリオ君でしょ?後はツッパリ棒持ってるツッパリ系の魔離惡さん』

「「その人です!!」」

(毎日ツッパリ棒持ってたんかい…)
恐らく間違いないだろう。
太虎だ。

「その人が前にお店に来たのはいつ頃か覚えてませんか?」

『そうねぇ…確か…16日?だったかしら?』

殺害される前日だ。

「一人だったんですか?」

『そうよ?…あ、でも途中で相席された方が居たわね。どうやら偶然会ったみたいで、魔離惡さんすごく驚いてらしたわ』

驚いていた?
てことは、相席した人とは会う約束をしていた訳ではないのか。

「その人どんな人でした?」

『そうねぇ、確か緑のサロペットに緑の帽子。あ、確か帽子には【L】ってロゴが入ってたわ』

(ルイージのコスだったんだな……)

「あの…服装は結構なんで他に覚えてることないですか?男か女かとか」

『性別は男ね!声聞こえたから間違いないと思うわ。身長はそんなに高くなかったかな。あと、帽子の隙間からチラッと見えたんだけど金髪だったわよ?』

金髪の男。
知ってる中では目しぱしか当てはまらない。

『小声だったけどだいぶ揉めてたわよぉ?昔がどうのとか、覚えてないのかとか。ちょっと近寄りがたい雰囲気だったわね』

「話はハッキリ聞いてないんですね?」

『私も接客あったし…ごめんなさいね』

「ぜんぜん!色々聞けて助かりました」

『いいのよぉ〜これくらい♪あ、何か食べるかしら?』

「そうですね!じゃ…」

遠藤は【ご主人…高額の保険に加入されてましたよセット】
砂羽は【一人の夜は…寂しいのコンボ】
を注文する。
ちょっと待ってねぇ〜とハルはキッチンへと去った。


太虎が会っていたのは目しぱである可能性は高い。
でも最近、太虎と目しぱはちょくちょく会ってたという情報がある。
それなら偶然会ったくらいでそんなに驚くことだろうか。

それとも目しぱ以外の別人?

【ねぇ兄ちゃん。魔離惡さん死んじゃったの?】

先程のマリオさんが話しかけてきた。

「うん。そうなんだ。あ、君達なんか知らない?」

【それがさ…ハルさんに聞かれたら怒られるから黙っといてくれよ?】

何か知ってるようだ。
うんうんと無言で頷いた。

【俺達、ルイージの人が写った写真持ってるんだよね】

「「マジですかぁ?!」」

しぃぃぃ!と口を塞がれた。

「ほれはろこにえるほれふあ?!」
砂羽が口を塞がれながらしゃべっている。
どうやら、それはどこにあるのですか?!と言っているようだ。

【いやぁ…俺達ハルさんのファンで、写真欲しくて隠し撮りをしてたんだよ。ハルさんは写真は嫌いみたいで撮らせてくれないから。で、言ってたルイージがコレ


1枚の写真を出してくれた。
そこにはど真ん中にハル。その端に小さくマリオとルイージが写っていた。
日付も16日と一致している。

ルイージは帽子をかなり目深に被っていてつけ髭も大きく顔の判別は出来ないが金髪は辛うじて確認できた。
体型は細身でもふくよかでも無く…というよりサロペットなので体型はわかりずらい。身長はさほど高くなさそうだ。

「これじゃぁ人物の特定は難しいですね…」

覗きこんだ砂羽が言う。

だが誰かと会って揉めていたのはこれで立証された。


「この写真、ちょっと借りててもいいかな?」

【いいよ!やるよそれ!データはあるから。でも…ハルさん胸チラだからって変なことに使うなよぉ〜?】

「実に興味深い…」

これは事務所に帰って虫眼鏡で詳しく調べる必要がありそうだ。
だってルイージが小さいのだから。
見にくいのだから仕方がない。
うん。仕方がないのだ。

「でも本当に助かったよ!ありがとな!」

【これぐらいお安い御用だぜ!】

なぁみんな!オーー!と勝手に盛り上がっている。

出された食事は非常に美味しかった。

食べ終わった二人は挨拶もそこそこ店を出た。
食後のデザート(写真)を胸に。






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