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遠藤探偵事務所の事件譚
Day3-3

『遠藤様!砂羽様!ずぶ濡れじゃごじゃいませんかっ?!』

太虎の屋敷に着いた時にはもう2人はずぶ濡れだった。
対応に出てきたストは2人を見て慌てている。

「ごじゃいませんかって…すんません。こんな格好で来ちゃって。水も滴るいい男でほんとにすんません」

『そんなそんな!いい男じゃなくったってかまいません!すぐにタオルをご用意致します!』

「サラッと傷付きました…」

こういう時の男は役に立たない。
るりはテキパキとタオルや着替えを用意する中、ストは『衛生兵ー!衛生兵ー!早くお二人に温かいスープとパン、並びに暖かい家庭を!』と走り回っている。

「るりさん、なんか迷惑かけちゃってすみません…」

『いいんですよっ!じゃ砂羽さんは着替えご用意してますので別室にご案内しますね!遠藤さんはここで大丈夫ですね?脱いだ洋服は乾燥させますのでソコに出しておいてください!』

砂羽はるりと共に着替えに行った。


体を手早く拭き、用意してもらったスウェットに着替えた。
玄関ホールのソファーに腰かけて砂羽を待つ。

『遠藤様。捜査の進み具合はいかがでございましょうか?』

ストも落ち着きを取り戻し遠藤の隣に姿勢正しく立っている。

「まぁぼちぼちですかねぇ。そうだ。リナ助さんのことは…何と言ったらいいか…ストさんのお友達なのに守れなくてすみませんでした」

『いいえそんな!遠藤様のせいではございません。それが彼の運命なのです』

「そう言ってもらえると少し気持ちも楽です。あ、DVD返しておきますね!」

実はみーきゃんに頼んでリナ助が持っていたストさんの本物を返してもらった。

『わざわざどうも。リナ助さんとの最後の思い出ですから大切にしませんと』

リナ助さんのしていたことは黙っておいた。
思い出は綺麗な方がいい。
ついでに遼が違う罪で自首した事、アリバイがあった事もストに報告した。
ついでに。ついで。

『そうでございますか。よかった…』

心配していたのかホッとした様子で微笑んでいて。

「それとコレ見てもらえますか?」

遠藤は昨夜気づいたマッチを見せた。

『あれ…このお店。確か旦那様を数回お車でお送りしたことがございます』

「やっぱり。あの、太虎さんはここへ何しに行ってたんですか?誰かと会ってたとかわかりませんか?」

『いえ…わたくしはお店の近くまでお送りしていただけですのでそこまでは。でもこの店ヘ行かれる時の旦那様は様子が少々変でして…』

「変といいますと?」

少し考えてストは小声で言った。

『スーパーマリオになっていらっしゃったのです』





は?





「…すみません。僕の勉強不足でちょっと理解出来ないんですけど…どういうことですか?」

『いわゆるコスプレというやつです』

「はぁ…」

『何故そのような格好をされていたのかは聞いておりません。執事とはそういうものでございます』

「はぁ…」

もうため息しか出てこない。意味不明すぎる。
でもこんな目立つ格好で行ってたのだ。
ハルもさすがに覚えているはずなので後で店で聞いてみよう。



「そうだストさん。話変わりますけど、前に言ってた深夜に聞こえるっていう叫び声はどうなりました?」

『ああ。それが実は…太虎様がお亡くなりになってからピタリと止んだのです』

止んだ?
てことはやっぱり音の出所は太虎に関係があるのか?

「書斎って調べてもいいですか?」

『どうぞどうぞ!警察の方が色々と持ち出してますのでほとんど何もありませんが…すぐに行かれますか?』




「私が居ない間に秘密の話ですかぁ?」

砂羽とるりが帰ってきた。
るりはティーワゴンに温かい紅茶を乗せて運んでくれた。

「別に秘密の話じゃないよ。男同士の言えない話?」

「やらしぃ〜」

『ふふふ…じゃ砂羽さんと私は聞いても分からないですね!あ、すぐにお茶入れますから』

るりは良い香りのする紅茶をサーブしてくれている。

「ありがとぉぅるりさぁん!やっぱ女の子はこうでなくちゃ!」

砂羽が無言でエルボを決めてきた。

「ゲホゲホ…てか紅茶のいい香りしてるからちょっとお腹空いてきたなぁ。そうだ!お話の前にさっきお土産物貰っから皆で食べませんか?」

先程フローラとビアンカから頂いた風呂敷包みをテーブルに出した。

「ボス!私達は話聞きに来ただけでしょ?なにをマッタリ自宅感覚でくつろごうとしてるんですかっ!そういうのは事務所帰ってから食べてください!」

「お前なんだよさっきから!今日はえらい絡んでくるじゃん。なにイライラしてんの?女の子のひ…ぐふっ!」

再び砂羽の肘が飛んできた。

『まぁまぁいいじゃないですか砂羽さん。私も少し小腹すいちゃったし。あ、女の子なのにはしたないですねテヘペロ☆』

若干古い感じだが、やはり女の子のテヘペロはかわいい(メイドに限る)
男の自分が使えば間違いなく網走クラスに寒い。
男なら黙って『ハラキリ☆』くらいが丁度いいように思う。

「じゃ早速開けてみよー!」

未だに隣で騒ぐ砂羽を振り払い風呂敷包みを開けた。

「あれ…これって」

ミモザサンドだ。卵と野菜が混ざっていてヘルシーかつデリシャスなサンドイッチ。
リナ助さんと早朝に待ち合わせた時にるりから差し入れで貰ったものだ。


確かるりの故郷の定番料理だと言っていた。


紅茶を入れながら、るりが覗きこんできた。

『どうしたんですか?中身なんですか?お饅頭とか……えっ』

ガシャン

るりが持っていた紅茶がカップごと落ちる。

『熱っ』
「るりさん!大丈夫ですか?!」
砂羽はるりに駆け寄った。

「これミモザサンドだよね?るりさんって…ユーリピナ出身なの?」

『あ…出身っていうわけではないんですが、少しだけ…住んでたことがあります。小さい頃です!ほんの少しだけ…』

なんだろう?様子が変だ。

「るりさん。火傷冷やした方がいいですよ?行きましょ」
砂羽はるりを連れてキッチンへ向かった。

今の反応気になる。
別にユーリピナ出身だからどうだってことないハズだ。

太虎やリナ助、目しぱが同郷だということを知らなければの話だが。

るりさんは3人の関係を知ってるのか?

『遠藤様。るりなら大丈夫でございますよ。使用人は火傷や怪我は日常茶飯事でございますので』

どうやら考え込む遠藤を見てるりのことを心配していると思ったらしい。

「そうですね。ストさん、先に食べちゃいますか?」

喜んで、と笑ったストと一緒にミモザサンドにかぶりついた。



♪ド ド ド ドーンキー ドン・キホーテ♪



遠藤のスマホが鳴った。

「なんだよ食事中に………はい。もしもし?」

【遠藤?!私よ!ちょっと大変なことになったのよ!】

みーきゃんだ。なんだか慌てている。

「なんだよ…こっちはストさんとラブラブランチタイムなんだ。邪魔すんなよ」

思わず両手で恥部を隠すスト。

【そんなことどうでもいい!蒼さんが目を離した隙に居なくなったのよっ!】

「はぁ?!」

みーきゃんが言うには蒼の家に訪れた時は素直に聴取を受けていたそうだ。
しかし途中でお手洗いに立ったと思ったら玄関から飛び出し姿を消したらしい。

【遠藤のとこには連絡とか無い?】

「無いなぁ。俺達も探してみるよ」

【悪いわね!じゃ見つかったら連絡よろしく!】

ブチッ

一方的に電話は切れた。

『どうかされましたか?』

「いや…ちょっと急用が出来ましたんで行きます。あ、コレよかったら食べてください」

『ありがとうございます。では書斎の調査はまた後日ということで』

「お手数おかけします。そうだ、ストさんにお願いがあるんですが、ストさんとるりさんの屋敷に来た理由と勤める前は何をしていたか教えてほしいので調べておいて貰えますか?」

ストは長年屋敷に勤めている。
内部事情も詳しいだろう。
本当の所、るりの情報だけ欲しいのだがカモフラージュだ。

「あくまでも調査の参考にするだけです。不安を与えたくないので、るりさんには内密にお願いできますか?」

『かしこまりました』

「さて、おーい砂羽!蒼さんが行方不明になったらしい!探しに行くぞ!」

すると奥からバタバタと砂羽とるりが走ってきた。

「マジですか?!」

『大変!すぐにお洋服お持ちしますね!もう乾いてると思いますから!』

火傷の手当を済ませて落ち着いたのか
るりはいつもの様子で洋服を用意してくれた。

(さっきのるりさんの妙な態度はオレの思い過ごしなのか?)


洋服を着替え玄関へ走った。
外は相変わらずの大雨だった。

全力で嫌がる俺達に、るりさんがどうしても持っていけと渡してきた、ピンクと青の【YES.NOラブラブ傘】を借りて屋敷を後にした。






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あきゅろす。
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