遠藤探偵事務所の事件譚
Day3-2
空は濁っていた。
今にも雨が降りそうなほど空は真っ黒で少し肌寒い。
太虎の屋敷のあるニューロッカに着いた2人は、屋敷にはすぐに向かわずある場所へと向かっていた。
ゴミ置き場。
リナ助さんが死体で見つかった場所だ。
近くの花屋で見繕ってもらった花束を抱えて2人は弔いへと訪れたのだ。
未だTVでよく見る黄色いテープに囲われたその場所は見張りの警官しか居ない為静まり返っている。
腰を屈めて花束を置き黙祷。
(こんな死に方するなんて思ってなかったろぉなぁ)
顔を上げてリナ助さんが居た場所を見つめた。
隣では砂羽がまだ手を合わせて俯いている。
「おい。そろそろ行くぞ。……?聞いてるか?行くぞ?」
砂羽の肩に手を置く。
「あ…はい。すみません」
立ち上がって再び軽く手を合わせる。
屋敷に向かおうと振り返るとそこには2人のご婦人が立っていた。
年齢は50代半ば。お世辞にもスマートとは言えない、いわゆるちょっとふっくらし過ぎてしまった感が否めないご婦人達だ。
『リナ助さんのお知り合いの人かいね?』
少し訛っている。
この辺りの人じゃないようだ。
「いえ…その、俺達知り合いというか…こういう者です」
名刺を渡した。
『あんらまぁ〜探偵さん?そげな人がなしてここに?』
手短に事件の概要を話した。
『そうだったんかぁ。そりゃ世話になったねぇ。見つけてくれてありがとねぇ』
2人のご婦人は深々とお辞儀された。
いえいえ…と釣られて頭を下げる。
「あの、おばちゃ…マダム達はリナ助さんのお知り合いの方ですか?」
『あんらまぁ〜マダムだなんて///いやだよぉ〜おばちゃんをからかうでねぇだよぉ〜私達はリナ助さんの高校時代のクラスメートなのよぉ』
マダムだってよぉ〜///とご婦人達はキャッキャしながらお肉をタプタプ跳び跳ねて喜んでいる。
クラスメイトというより
((カロリーメイト?))
遠藤と砂羽の頭に邪念が浮かぶ。
必死に頭を振って振り払った。
大変失礼である。
「お二人はリナ助さんにお花を?」
『そうなのよ〜。リナ助さんとは疎遠になっとってね、亡くなった事もTVのニュースで知ってなぁ〜おったまげて飛んで来たんだよぉ。そうだそうだ。まだ名前も言っとらんかったね。私はフローラと言います。そして隣がビアンカですだ』
フローラとビアンカ??
聞き覚えのある名前に遠藤は頭の引き出しを片っ端から開けた。
【 おらぁ二十歳の頃からゴミ回収業始めてさんじゅ〜にねん!昔はこの辺りも綺麗なもんじゃった…近頃の若いもん…
…ありゃワシが19の頃じゃ。とあるゴミ置き場で出会った綺麗な少女と…
…………
てことで、あんたらはフローラ派か?ビアンカ派か?】
「あ……」
リナ助が言っていた女性だ。
あまりに話が長いので聞き流していた。
名前からして某RPGの話かと思っていたが実在していたらしい。
オセロに夢中で話をほとんど聞いていなかった。
「あの…お噂はリナ助さんに聞いておりますはい…」
『リナ助さんそげなことまで?!嫌だよぉ〜もう昔の話だよぉ。あの時はリナ助さんが勝手に私達のこと追いかけ回して大変だったねぇ〜懐かしいわぁ』
リナ助はポッチャリ系が好みなのか。
『でもあの頃私達は太虎さんのほうが好みだったね〜』
ねぇ〜♪と笑い合う2人のご婦人。
「ちょっと待ってください!太虎ってあの殺された太虎さんのことですか?!」
『そぉだよぉ。まさか2人も同時にねぇ……』
「え?!じゃぁ太虎さんとリナ助さんは同郷なんですか?!」
『そうだけんど…』
気付かなかった。
というかそんな話聞いていない。
リナ助さん自体も昔からの知り合いなんて雰囲気まったく出していなかったように思う。隠していたのか?
「ちょっとその辺詳しく教えてもらえますか?」
ご婦人は話し出した。
2人が生まれ育ったのはユーリピナという小さな田舎町。
太虎とリナ助は町でも有名な荒くれ者で、静かな町ではかなり目立った存在だったという。
高校を卒業してからも素行は悪く、噂ではあるがかなり悪どい仕事に手を出していたそうだ。
そして20歳になろうかという頃、2人とも知らぬ間に姿を消したという。
『高校出てからはほとんど会ってなかったけんども、あの2人は良く町で見掛けたよ』
隣で聞いていたビアンカが口を開いた。
『でもさぁ〜確かもう一人おらんかったけ?あんまよく覚えとらんけど…頭を金髪に染めた兄ちゃん居たじゃろ?ほら、確かイガイガするとかチカチカするとか言う名前の……』
「目がしぱしぱする?!」
『ああ!そうそう!そんな名前だったの。頭キンキラキンに染めて悪そうな奴やったのぉ』
フローラが口を出す。
『思い出した!思い出した!…でも悪そうな顔というより綺麗な顔しとらんかったか?優しそうな顔しとった気がするけんど』
『そりゃあんたの好みの問題じゃろ?あんた昔から男の趣味悪いからなぁ』
あっはっはと爆笑している。
今はそんなことどうでもいい。
「それで、目がしぱしぱするさんはその後会ったことはありますか?連絡先など知りませんか?」
『いやぁ、私達は町で見掛けた程度で何にも知らんのよ…ごめんねぇ』
何十年も前の話だ。覚えてなくても仕方ない。
でも3人がとんでもなく昔から知り合いで、リナ助さんと太虎さんの殺害には何かしら繋がりがあることはわかった。
それだけでも前進だ。
早く目しぱさんから話を聞く必要がある。
「なんか足止めしてしまってすみませんでした。色々聞けて助かりました」
『ええのよぉ〜!こちらこそ懐かしい話できて若返った気分だよぉぅ』
じゃ俺達はこれで…と立ち去ろうとした矢先
『ちょっと待って!良かったらこれ食べとくれよ』
風呂敷包みの箱を頂いた。
地元のお土産物かなにかだろうか。
『うちらの地元の名物料理だ。リナ助さんに供える分はまだあるから』
ほれ、と更に大きな包みを見せてくれた。
「すごい量ですね!俺、ユーリピナって行ったことないんですよ。どんな料理なんだろ?遠慮なく貰っていいですか?」
「ちょっとボス!初対面の人から図々しいですよ!返してください!ほらっ」
砂羽は遠藤から包みをひったくった。
『ほんとにええんじゃよ?世話になった人に食べてもらえたらリナ助さんも喜ぶじゃろ』
砂羽が差し出した包みを笑顔でソッと突き返した。
「貰っとこうよ?折角の好意を無駄にしちゃ失礼だろ?」
「じゃ…遠慮なく……ありがとうございます」
『ふふふ…女の子は素直に笑っとるのが一番じゃよ?』
「コイツ頑固なんで。じゃ、そろそろ行きますね!お時間取らせてすみませんでした!またなんか思い出したら名刺んとこに電話ください!では!」
2人はお辞儀してその場を離れた。
太虎の屋敷に向かう。
予期せぬ出合いで時間を取られてしまったが、その分収穫も多かった。
「ほんとにもう、すぐに人から物貰ったりするの恥ずかしいからやめてくださいよね!」
砂羽はまだブツブツ言っている。
「いいじゃん別に!くれるって言うんだから貰っときゃさ」
「一緒に居る私の身にもなってくださいよぉ。節操の無い子だと思われるじゃないですかぁ…」
「わかったよ!もうしないよ!…たぶん」
ポツリ
雨が降りだした。
急ぐか、と足を早めた矢先、バケツをひっくり返したような大雨に変わった。
「こりゃヤバイな!屋敷までダッシュだダッシュ!」
遠藤と砂羽は駆け出した。
偶然出会った2人のご婦人。
偶然貰ったお土産物。
この出来事がきっかけで、バラバラだった糸が繋がり始める。
むしろ複雑に絡んでゆくのだった。
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