遠藤探偵事務所の事件譚 Day3-1 【探偵をしていて辛かったことはありますか?】 「そうですねぇ…逆にここに依頼に来る人こそ辛い気持ちを抱えているんではないでしょうか…それを解決に導くのが俺達の仕事です」 【遠藤さんが尊敬している方はいらっしゃいますか?】 「そりゃもう金田一耕助ですね。彼は憧れの人です。でも最近では俺の推理力が彼に近づきつつあるので怖いとさえ感じる時があります。越えてしまうのも時間の問題かな?なぁ〜んて」 【では最後になりますが、折角ですので金田一耕助にちなんでアニメでも有名な金田一少年のあの『じっちゃんの…』ていう名台詞、お願いできますか?】 「わかりました。…目線はこのカメラでいいのかな?では…」 オホンッ 「じっちゃんになりかけてっ!……うぉぅ」 『それを言うなら「じっちゃんの名にかけて!」でしょーが!バカなの?』 遠藤がビシッと人指し指を突き出した先にみーきゃん警部と砂羽が冷たい目線で立っていた。 「いいんですよみーきゃんさん。実際にじっちゃんになりかけてますから。むしろボスはもうじっちゃんですから」 砂羽は冷蔵庫からポカリを出しみーきゃんに渡した。 『あんた一人で何してたの?』 ポカリを受け取りながらみーきゃんは言う。 「なんか探偵の功績も上がってきたし、そろそろ情熱大陸とか出てやってもいいかなぁって。いわゆるイメージトレーニング?なんか録画しといた佐村河内守の回が思いのほか良かったから…」 『いつの録画よそれっ』 「ボスもあんなビフォアアフターみたいな変身したいんですか?」 「あの人もバカだよねぇ〜【おぎやはぎ】とか【品川庄司】とか【矢野兵藤】とか居るんだから、俺らも2人で佐村河内でぇ〜すとか言っときゃよかったのに」 『そんなのまかり通る訳ないでしょ』 みーきゃんは乱暴にソファーに腰かけた。 「てゆうかさ、戻ってくるの早くない?昼くらいになると思ってた」 時計を見るとまだ午前9時前だ。 昨夜遅くまで飲んでいたので寝不足と二日酔いのせいで目の奥が痛い。 「遼さんがね、ほんとに朝日と共に出頭してきたんです。だから早いですけど戻りました」 砂羽はスッキリした顔で言う。 よかった。落ち込んでは無さそうだ。 「そうか。ところで、Miraさんと目しぱさんの情報なんかわかった?」 視線をみーきゃんに振る。 『それが全く…蒼さんの事情聴取してもMiraさんの居場所は知らないの一点張りで。経営してた八百屋もここ何日かは店を閉めてるらしくてね、自宅にも帰ってないみたい。あ、指輪のことは遼君から聞いたから今からもう一度蒼さんのマンションに行って話聞こうと思ってるわ。きっと何か知ってると思うから』 蒼さんは事情聴取には応じてるようだ。 それにしても何がしたいのかまったくもってわからない。 「目しぱさんは?」 『こっちも情報ほとんど無し。定住してる住まいも無いみたい。それと、どうやらあちこちで偽名を使ってたらしいわ。それも1つや2つじゃなくて複数。だから情報が錯乱しちゃって』 「そっかぁ…こっちは地道に調べるしかなさそうだな」 『それと、ここ最近太虎さんと目しぱさん接触してたらしいの。噂によるとなんか揉めてたとか…ハッキリ見た人には会えなかったんだけどね。私達が考えてる以上にあの2人は険悪みたいよ。でもそう遠くには行ってないはずね』 そんなとこか…と、警察手帳をポケットにしまい足を組み換えた。 「なんか前進してんのか後退してんのかそれとも進んでないのかわかんねぇな」 デスクにシャーペンをコツコツしながら考えていた。 「あ、そういえば……」 遠藤は昨夜のマッチのことを思い出した。 太虎の書斎にあったマッチと昨日出会った女性にもらったマッチの事。同じマッチである為2人は接点があるのではないかと全て話した。 『あんた……』 「いやほんと偶然なんだ♪探偵の勘?っていうの?天性の才能?いやぁ〜まいったよね♪」 『あんた……何を勝手に現場の証拠物件持ち出しとんじゃぁい!!』 殴られた。 飛んだ。 そして壁にめり込んだ。 『ゼイゼイ……まぁいいわ。どうやらいい方向に転んでるみたいだし』 手をパンパンと払い座り直す。 「お前なぁ…手加減っての知ねぇのか?返すよぉ〜マッチ返すから」 『もういらないわよっそんなの!!あんたの指紋でベタベタな上にもうほとんど残ってないじゃない!!そんなマッチ何の役にも立たないわよ!』 みーきゃんは奪ったマッチをゴミ箱に投げ入れた。 「ちょっと〜それまだマッチ1本残ってるんだから捨てんなよ〜もったいない」 「これ私が貰ってもいいですか?」 砂羽がゴミ箱からマッチを拾い上げた。 「私、ハルさんの連絡先知らないしもらっときますね!探偵にとっては指紋うんぬんよりも証拠が命です。なんかの役に立つかもしれませんしね」 砂羽は自分のデスクにマッチをしまった。 『私もハルさんに話聞きたいんだけど他の事件も重なってて思うように動けないの。任せていいかしら?』 「高いよぉ?」 「あの、みーきゃんさん。こっちは殺人なんですよ?なんとかならないんですか?遼さんの無実も早く晴らしたいんです」 『ごめんね砂羽ちゃん…お役所仕事なんてこんなもんよ。結局は上には逆らえないものなのよ』 「……」 「大丈夫。俺達でやっとくよ」 砂羽は諦めたようだ。 やっぱり遼が心配なのだろうか。元気がない。 「ああーーー!ボスはタバコ吸いすぎです!マッチ使い終わったら禁煙です禁煙!」 「それは無理な相談だ!タバコは俺の体の一部なの!」 元気のないフリだった… タバコに火をつけた遠藤に飛びかかってきた。 あっという間に2人はもみ合いになってしまう。 『もぉ騒がしいのはいつもの事だけど、砂羽ちゃんがバカに汚染されないかそれだけが心配だわ…ねぇ!そろそろ私、仕事戻るから!またなんか分かったら連絡してねぇ〜』 みーきゃんは事務所を出ていった。 一通り喧嘩も終わり作戦会議だ。 「さてと、今日は蒼さんに指輪の件聞かなきゃいけなかったんだけど、アイツが事情聴取するなら今行っても無駄足だよね。きっと警察だらけだもんね」 砂羽は遠藤が昨夜書いた【今日やることリスト】を見ていた。 「そうですねぇ。先にBの太虎さんの屋敷行きますか?マッチのことストさん何か知ってるかもしれないし。てかなんですか?この叫び声の件って…」 「そうか。砂羽はるりさんのアリバイ確認行ってて知らないのか。なんかね、最近深夜に屋敷内で叫び声みたいなのが聞こえるんだって。でも人の声でもないしなんの音なのかわからんらしい」 「なるほど。ちょっと気になりますね。確認しといてもいいかもしれません」 あとは蒼に会いに行き、メインディッシュのハルさんという流れだ。 「んじゃまぁ行きますか!」 遠藤と砂羽は太虎の屋敷へと向かった。 「ハルさぁぁん!待っててね〜サッサと終わらせて、君の王子様がすぐに行くからねぇぇぇ〜♪」 「キモ」 【Next】 [戻る] |