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遠藤探偵事務所の事件譚
Day2-6

遼のマンションから15分ほどの距離。
狭い路地裏にそこはあった。

【クラブ怒無】

ドムと読むらしい。

賑やかだったマンション付近とは違って道端も狭く、大人2人すれ違うのがやっと。
ビルとビルの間に存在する沢山の店は、ほとんどが看板も窓も無く店前には若者達が座り込み談笑していた。

雨も降っていないのに濡れた路面には、煙草の吸殻や空き缶が散乱している。
太陽など当たらないここ一体は、恐らく眠ることはないのだろう。


「あれかな?」


砂羽が指差す先にはボロボロの看板があった。
わざとなのかどうか、看板を照すライトも切れかかっていてチカチカと点滅している。

入り口は螺旋階段を降りた地下のようだ。
暗すぎて先が見えず入るのをためらう。
重低音の音楽が扉から漏れだし地上の遠藤達にも聞こえてくる。


「マジでこんなとこ入んの?」

「仕方ないでしょ?だじゃれん坊さんには聞きたいことが沢山あるんです!このチャンス逃せません!行きますよ?」


ため息一つ、遠藤は砂羽に続いて階段を降りた。







『見ない顔じゃん?↑』

階段下で男に声をかけられた。
どうやらここでお金を払うようだ。

「あっしぃ〜遼のマブダチぃ〜みたいなぁ〜」

砂羽はなんともダサい馴れない言葉で対応する。
いつも使わないから非常にダサい。
雰囲気だけで話しているようだ。

『マジでぇ?!↑遼にこんな真面目そうなツレ居るなんてマジ聞いたことねぇしぃ↑』

「うっそ〜あっしが真面目に見えるぅ〜超ウケるんですけどぉ〜」

『てかさぁ遼の奴マジ店辞めたの聞いてねぇのぉ?↑』

「どんだけぇ〜」

『だしょぉ?↑女選り取りみどりだし金貰えるし酒飲めるしこんないいバイトマジ無いじゃん?↑辞めるなんてネオバカじゃぁん↑』

「超ウケるぅ〜」

『だしょ?だしょ?↑まぁ楽しけりゃいいじゃん?みたいな?↑』

「マジックス〜」

『後ろの兄ちゃんもマジ楽しんでってねみたいなぁ↑』

「ウケる〜」


ウェェイウェェイウェェイ!と拳を合わせる砂羽はを尻目に遠藤は店内に入った。




(うるせぇ…俺こゆとこダメなんだよね…)


人混みでごった返した店内の壁にもたれてため息をつく。
フロアは人で溢れていて、恐らく7.80人は居るだろう。
ギュウギュウ程ではないが、空いている訳でもない。
フロアで踊る人、座り込んで会話してる人、それぞれが思い思いの時間を楽しんでいる。

入り口付近にも人だかりが出来ており、周りの音も大きすぎて会話さえままならない状況だ。

「ボス!とりあえずカウンターでなんか飲み物貰いますかぁ!!」


疲れきった遠藤を心配して砂羽が耳元で叫ぶ。
返事もめんどくさいと、遠藤はコクリと頷きカウンターへ向かった。


横一列に10人ほどが座れるカウンター。
待っていると言ってたはずのだじゃれん坊はまだ来てないようだ。
遠藤と砂羽はカウンターの中程に座った。


『何飲むの?』

バーテンらしい男が声をかけてきた。

「俺マミー」
「私はポカリで」








『……坊や達はおうちに帰ってマミィのおっぱいでも吸ってな!』

ドンッと中身が溢れそうな勢いでハイネケンを2本カウンターに叩きつけて舌打ちしバーテンは去った。


「おぅおぅ最近の若者はすぐに怒るねぇ。ジョークじゃん」

「私ビールダメなんですよねぇ」

砂羽は嫌そうな顔で遠藤の方にビールをよこす。

スピーカーの角度が上手く設置されているのかカウンターは入り口ほど音は気にならない。
相当腕のいい音響屋が居るのか、音は全てフロアの中心に向かっている。
回りにあるボックスシートの客を見ても入り口ほど大声で喋ってる様子がなかった。


「ねぇボス。遼さん、ここの仕事辞めたって入り口の人が言ってましたね。居場所ちゃん聞けるでしょうか…今のところ一番の容疑者な訳ですし逃亡している可能性もありますよね?」

「疑うのは話し聞いてからだよ。人を疑うことばかりしてると心が腐っちまうよ?」


遠藤はハイネケンを一口煽る。
渇いた喉がみるみる潤ってゆく。







「…あのボス?気になってたんですけど、この店来てからめっちゃカッコつけてません?壁に凭れてウザみたいな顔してみたり、ちょっとカッコイイ台詞言ってみたり。渇いた喉が潤っていくぅぅてなんなんですか!あと、そのビールビンの持ち方?堂本剛のマイクの持ち方くらいウザイんでやめてもらえますか?」

「渇いた喉のくだりは心の声なのになんでわかんだよ?だってさぁ〜怖いじゃん!こゆとこはナメられたらおしまいなんだよ?怖いんだよクラブってぇ。拉致されて売られちゃうよ?」


「んなわけ無いですよ!いつの時代ですかほんとにもう…」

「ま、全てはだじゃれん坊さんに話し聞いてからだな」

「カッコつけ遠藤の話し揉み消しましたね?」


どうでもいいですけど、とカウンターに頬杖をついた。



『いつものくれや』


遠藤と砂羽の視界の端に一人の男が入ってきた。
その男はカウンター席一番奥に座り煙草を吸っている。

だじゃれん坊か?!


遠藤と砂羽はそっとその男に視線を向けた。



「「…………」」


男はモヒカンに袖の千切られたジージャン。
B'zの稲葉さんバリの革のショートパンツにウォレットチェーンがつけられている。


「ねぇ砂羽。あれって僕らの時代に居る人じゃないよね?世紀末覇者がおられる国の人だよね?」

「いや、恐らくこの世界の人です。ヒャッハー語じゃなく日本語喋ってますし、なにより額に1.2.3って番号書いてませんもん」

それにしても昭和というには新しいし平成というには古い。
こちらから声を掛けるにもだじゃれん坊だと決まった訳じゃないので動きにくい。
これからのことを考えると揉め事は避けておきたい。


おまたせしました、と男の前に『いつもの』が置かれる。

カップヌードル シーフード味だ。

男はおもむろに蓋を剥がす。


『おいコラにぃちゃん。俺はいつものって言ったはずだ。』

訳がわからずバーテンはとまどっている。

『見てみぃコレ。日清さんが!日清さんがこの線までお湯を入れてくださいって導いてくれとんのに完全に上回っとるやないかぁぁ!』





「「………」」


男はカウンター越しにバーテンの胸ぐらをつかんで、あぁ?!コラ!あぁ?!と睨みをきかせている。
騒ぎに気がついた数人の客がチラホラこちらを見ている。

「ヤバイですよボス。このまま騒ぎが大きくなるとだじゃれん坊さん探すどころの話しじゃなくなりますよ?!」

「マズイな…」








『どう落とし前つけてくれるんじゃコラァ!』

フロアはざわつき始めていた。
ヒートアップする男はカップヌードル シーフード味をカウンターに叩きつける。

「ここは一旦帰らない?あれ、だじゃれん坊さんじゃないかもしれないしさ…」

「…いや。ボスあの人だじゃれん坊さんみたいですよ」

ほら、と砂羽の指差す先を見ると男の二の腕にタトゥーがあった。



駄蛇霊上等



「あれどう読んでも【だじゃれじょうとう】ですよね…」

「マジでか…めんどくさい奴だなぁ。なんとかこの状況納めないと…う〜ん…」








『お前日清さんなめとんのけ?!日清さんはカップヌードルだけやない、UFOもあるんやぞ!【Uはうまい.Fは太い. Oは大きい】の略なんやぞコラァ!あぁん?!でも俺は敬意を込めて【Oは美味しい】と略しとるんじゃワレェ!』


もう言っている意味がわからない。
しかし怒りも収まりそうもない。

『そやからカップヌードルの線にも意味があるんや。ここまでが一番美味しいんやでって教え解いてくれとんのに、それを上回るお湯やと??土下座せんかいコラァ!…あかん。お前じゃラチあかんわ!上のもん出せやコラ。……ん?』


カウンターに乗り上げそうな勢いのだじゃれん坊の手元にスーっと何かが流れてきた。


カップヌードル カレー味だ。


【あ…あぢらのおぎゃくさまがらです…】
胸ぐらを捕まれたままバーテンは指差した。
その視線の先には


「「よっ☆」」


目頭の横でピシッとピースを決めてニヤついている遠藤と砂羽が居た。


『お前ら…』

「どうも。フィンセントでぇす☆」
「どうも。ファンゴッホでぇす☆」


バーテンを離しただじゃれん坊は2人に気づいたのかカップヌードル カレー味を握りしめて近寄ってきた。


『お前ら…』

「先程はどうも。時間通りですね」

『お前ら…』

「早速ですがお話しを…」

だじゃれん坊は俯いたまま震えている。
顔を見ようともしない。
人違いか?

「…だじゃれん坊さん、ですよね?」


砂羽はソッと顔を覗きこんだ。



『お前ら…』







『これスープヌードルやないかぁぁぁ!(怒)』





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あきゅろす。
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