遠藤探偵事務所の事件譚
Day2-2
警察の事情聴取を終えたのは、もう昼近くだった。
クタクタになった遠藤と砂羽は、あの場所へと逃げ込んでいた。
カランコロンカラン〜
『こんにちわぁ!遠藤と砂羽ちゃん来てますか?』
みーきゃん警部がやってきた。
だいたい2人が居ない時は、ここbar胡蝶蘭に探しにやってくる。
ピノはニッコリ笑い迎い入れた。
『あら♪みーきゃん警部。来てるわよぉ♪』
「みーきゃんさん!一緒に食べますか?」
砂羽はいつもの席で、のりたま定食をモグモグしながら答えた。
『あ!じゃぁ私も貰おっかな!え〜と…サムギョプサル定食ください!』
砂羽の隣に腰を掛け、ふぅ〜と一息つく。
まだ開店前なのよぉ〜と文句を言いながらピノはキッチンへと向かった。
barというより、もう定食屋にしたほうが儲かるのではないかと思う。
「みーきゃんさん。リナ助さんの事件どうなってるんですか?」
『それがねぇ…目撃証言が全くないのよぉ』
お手上げと言った感じで眉をひそめる。
「太虎さんの事件と何か関係あるんでしょうか?」
『まだそれはわからないけど同一犯でしょうね恐らく。でね…一つ気になることがあるの』
みーきゃんは砂羽に顔を近ずけた。
『左手が無いの』
「左手が?」
うぇッという顔をした砂羽に向かってみーきゃんは話を続ける。
『そう。左手。体がバラバラに切り離されててね、いくら探しても左手だけが見つからないのよ』
それにしても残忍なことを軽く言ってのける。
そこに痺れ…ないし憧れもしない。
「…なんかみーきゃんさんが言うとスタンプラリー感覚に聞こえます…」
『あら?集めるっていう点では似たようなもんよ!』
いただきまぁす!と出された定食を食べ始めた。
この状況で肉を美味しそうに食べる辺りが警部としての格を感じる。
「で、ほかに分かったことは?」
ああ…と箸を置き警察手帳を開いた。
『死亡推定時刻は昨夜の深夜2時頃。首に絞められた後が残っていたから恐らく絞殺。その後、体を5箇所切り落とされてるわ。これ結構時間かかると思うし、発見された時間を考えると女1人じゃ無理ね。だから犯人は男かもしくは複数犯…握ってた指輪は今まだ調べてる途中で持ち主は不明』
こんな所かなぁと警察手帳を畳む。
「今回は面白いポイント無かったんですかぁ?」
太虎の突っ張り棒の件もある。
ニヤニヤしながら冗談混じりに砂羽が言った。
『ないないない!太虎さんみたいなケースは稀よ稀!別に変な物握って無かったし…もしかしたら犯人にとっては太虎の時と違って予想外な殺人だったのかもねぇ』
どうやらみーきゃんは太虎の件とリナ助の件は連続殺人と見ているらしい。
砂羽は、ふ〜んという顔で残りののりたま定食を食べた。
『てかさ、遠藤来てるんじゃないの?』
キョロキョロと辺りを探すが見当たらない。
「ボスならあそこに居ますよ」
砂羽が指差す先はカウンター席の端っこ、椅子の下だ。
湿った空気を纏った遠藤は、膝を抱えてなにやらブツブツ呟いている。
「なんでこんな俺は不幸なんだ…何が悲しくてあんな酷い物を直視しなきゃいけないの?俺悪いことした?真面目に生きてきたよ?給食残したから?レーズンパンの日だけ給食残したから?!」
『…なんなのこの生き物??』
ブツブツブツブツ…
「てか中学生で給食ってなんだよ。もう弁当でいいじゃん…思えば何もない青春時代だった。女の子と初めて喋ったのなんて『遠藤君、鼻くそついてるよ?鼻引きちぎるよ?』だったもんね。そう考えたらさ、碇しんじ君なんて幸せだよね。中学生にして男の憧れパイロットに選ばれるしさ、綾波様のパンツまみれになるわ、生おっぱい拝むは揉んじゃうわ、ツンデレビンタ食らうわ…幸せじゃん!三次元でそんな中学生居ないよ?!うだうだ言わずにさっさと乗ってさっさと戦って死ねよぉ…」
ブツブツブツブツ…
『どうしたのこの人。もう死んじゃうの?』
「そろそろ頃合いですかね」
砂羽は棒でツンツンと遠藤をつつく。
『ねぇねぇ遠藤さん。なんか気付いたことなかったの?』
みーきゃんは完食した定食をピノに渡しながら話しかけた。
「それはお前らの仕事だろぉが…」
「声ちっちゃ!いつまでブー垂れてんですかボス!」
砂羽は無理やり遠藤を引っ張り出し、4人掛けのL字ソファーに座らせた。
「はぁ…こんなおおごとになるなら依頼なんて受けなきゃよかったよ。バラバラってなんだよ。切ってる奴の気持ちが知りたいわ」
『私はあなたの脳内の方が謎だらけなんだけど…』
砂羽とみーきゃんもソファーへ座った。
「警察が無能すぎんだよ!!」
『なんですってぇぇ!!!』
ギャーギャーと揉み合いになる2人。
「2人共落ち着いてください!!さもないと砂羽特製にぎりっ屁の刑ですよ?!」
砂羽は間に入って両手をグーにしてつき出す。
「『すでに臭いわぁ!』」
くっさ!くっさ!とソファーで転がる2人に両手をつき出して追いかける砂羽。
シュールな光景である。
「わかったって!もう止めてくれ!」
分かれば宜しいと手をパンパンと叩きソファーに座り直す。
「ねぇボス。みーきゃんさんの話しは聞いてました?」
「ちゃんと聞いてたよ…」
「なんか気付いたこととか無かったんですか?」
「お前らそんなだからダメなんだよ」
遠藤はチッチッチと人差し指を振った。
「あのな、右手で指輪握ってたわけさ。普通証拠隠滅なら持ってくの右手だろう?なんで左手だけ持ってくんだよ。…左手のほうが犯人にとっては重要だったんだよ」
ふんふんと砂羽とみーきゃんが近寄る。
「それは何を意味するのか…犯人は…」
「『犯人は?!』」
「左手マニアだ!!きっと今頃ヤホーとか楽チンとかネットオークションで左手マニア相手に売り捌いてるはずだ!俺達の出る幕じゃない!今すぐサイバー犯罪課に任せて手を引くべ…ぶへっっ」
「さぁボス〜アザイヤ行きますよぉ♪遼さんと蒼さんの事情聴取行きますよぉ」
砂羽は首根っこを捕まえて胡蝶蘭を後にした。
『ねぇママ。あの2人大丈夫かしら?』
『大丈夫よ♪大丈夫〜♪』
趣味のベリーダンスを踊りながら2人を見送った。
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