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遠藤探偵事務所の事件譚
Day2-1

「眠いよぉ〜ダルいよぉ〜帰りたいよぉ〜」

時刻は午前6時50分。
遠藤と砂羽は太虎の屋敷前でリナ助を待っていた。

「もうボスうるさいですよ!近隣の人に怒られますよ!」

「だってさぁ、何が悲しくてこんな早朝から出掛けなきゃいけないの?鳥もチュンチュンうるさいしさぁ…」

「私は朝鳩のホーホーホッホってのが気になりますけどね」

砂羽はるりが差し入れてくれたというミモザサンドにかぶり付く。
朝が早い遠藤達のために作って持ってきてくれたようだ。

「俺のまで食うなよ!」

遠藤はサンドイッチを掴み取る。

野菜のたっぷり入った玉子のサンドイッチ。
るりの故郷の定番料理らしい。

「うま!このタマゴサンドうま!」

「ボス!これはミモザサンドですよ!」

タマゴサンドは野菜が入ればミモザサンドに転職するのか。
それにしても野菜が入るだけでこんなにも旨くなるなんて驚きだ。

遊び人→パラディンの転職くらい驚きのランクアップ。

ダーマ神殿いい仕事する。
あ、パンだからラーマ神殿か?


「ねぇボス。考えたんですけどリナ助さんがストさんを庇って昨日一緒に居たって嘘の証言してるってことは無いですか?」

「なんだそりゃ」

「たとえばストさんが犯人で、それを知ったリナ助さんが自分の家に来てたと嘘の証言をしてるってことです」

「いや。犯行があった時間、ストさんはリナ助さん家に行ってたってのは間違いないな」

「なんでそんなこと言い切れるんですか?」

「DVDだよ」

「??」

砂羽は訳がわからない様子で遠藤を見ている。



「昨日借りたDVDな、ストさんも気付いて無いみたいだけど恐らくアレは海賊版だ。今、本物にはすごいプレミアがついてて高く売れるの知ってっか?ストさんの本物をリナ助さんが昨日会った時に海賊版にすり替えたんだろう。パッケージもズレがあるし、上手く誤魔化そうとしてもこのDVDは数量限定…シリアルナンバーまでは…誤魔化せない」

遠藤は鞄から2枚の同じDVDを出す。
シリアルナンバーまで同じだ。


「それ…ボスも持ってたんですか?!」

「俺をなめんなよ?買った時の20倍の値段が付いてんだ!毎日眺めて磨いて…どんな海賊版でも見抜いてやんよ!ほんとは偶然俺のDVDとナンバーが一緒だったから気づいたんだけどなぁ」

腰に手を当て、わっはっはと笑う。

「でもそれがどうしてリナ助さんが嘘を付いてないってことと繋がるんですか?」

「アホか。良く考えてみ?殺人犯を庇ったら殺人幇助になるんだ。結構なリスクだよ?リナ助さんは友達のストさんにまでDVDすり替えなんて姑息なことする人だ。そんな相手にリスクおってまで嘘つくと思うか?」

「…思いません」

「だろぉ?ストさんが思うほどリナ助さんはストさんのこと友達だなんて思ってないんだよ」

砂羽も少しションボリする。
寂しい話しだが、それが人間だ。


「…でも!ストさんのDVDがもともと海賊版だったのかも!」

「それも無い!借りた時、DVDが入ってたHMVの袋にレシートが入ってた。予約表もね。買ったのは事件のあった夕方。あんなデカイ店舗が海賊版なんて売らないよ。買ったその足でリナ助さん家行ったんだろうな」

ストはきっと同じ趣味の友達だからリナ助が大切なのだろう。
だからこそ買ったその日に2人で見ようとしたのだ。

「まさかボス。それ確かめる為にDVDを?」

「たまたまだよ、たまたま」

ふ〜ん…と砂羽は遠藤を見ている。

「なに?見直しちゃった?」

「違いますよっっ!!」


プイッと顔を反らし残りのミモザサンドを食べた。

「てかさ、リナ助さん遅くない?」

時刻は7時5分を回っている。

「確かに…ちゃんと7時って約束したんですけどねぇ…」

砂羽は辺りを見渡す。

「もしかして忘れてんじゃないの?おじぃちゃんだし」

「まさかぁ♪……ちょっと電話してみましょうか?」

心配になったのか砂羽は携帯を手に取った。

プルルルルルル…
数回コールするが出ない。

「おかしいなぁ…」

電話を切ろうとする。

「砂羽!ちょっと待て!」

遠藤は砂羽から携帯を奪い取る。

「ちょっ!なんなんですかっ!」

「しぃ!…なんか聞こえないか?」

耳を澄ますと何処からか音が聞こえる。
2音階という電子音であるが、恐らく着信音だろう。

「この音どこから…リナ助さんでしょうか?リナ助さぁ〜ん!何処ですかぁ〜!」

リナ助から返事は無い。
着信音が聞こえるくらいだ。
近くに居る。

「なんか物凄く嫌な予感がするよ俺」

携帯はまだ繋がっていた。
遠藤は一度電話を切ると、音は止まった。
リダイアルすると、また音が聞こえてきた。

「間違いないな」

電話を繋いだまま音の在りかを探す。
どんどんと音は大きくなっていく。

50メートルほど歩いた場所にそれはあった。

「ここから聞こえますよね?」

「リナ助さん家ってナウいなぁ」

「いや、絶対違うでしょ」

そこはゴミ置き場だった。
山積みのゴミが乱雑に置かれている。
着信音はこの中から聞こえてくるようだ。

「リナ助さんたらぁ…け、携帯を…ゴミと一緒に…す、捨てちゃうなんて…お茶目だなぁ…はははははは」

「?!ボス…なんか…血の匂いしませんか?」

「誰だよっ!どこの奥様が生肉そのまま捨てちゃったんだよ!生ゴミだよ!腐ってんだよ!生ゴミだって言ってくれよぉぉぉ」

「……現実逃避終わりましたか?じゃ…ゴミ退けますよ?」

ゆっくりとゴミの山から袋を退ける。


ゴドリッ…


見覚えのある一部が、切り離されて落ちてきた。

「手だな…」
「手ですね…」

硬直状態の2人はゴミ山から視線を感じ恐る恐る顔を上げた。

そこにはこちらをジッと見つめるリナ助の顔があった。

正確に言えば…

顔だけだった。



うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



猛ダッシュで近くの電信柱に隠れる。


「あんだけ言ったじゃん!せめて死体はコミカルにしようって!せめて額に『肉』とか書いといてよぉ!肉どんだけ探しても無いじゃん!しかもなんで太虎さんの時よりグロテスクになってんだよぉ」

「そんなの私に言われてもしりませんよっ!!」

「突っ張り棒にダメ出ししたから?!怖い怖いって文句ばっかり言ったから?!何の復讐なのコレ!」

遠藤はここぞとばかりに泣き叫ぶ。

「もしかしたらなんか今回も握らされてるかもしれませんよ?」

「もぉいいって…警察に任せようよぉ」

「私達は探偵です!警察に邪魔される前に調べちゃいますよっ!」

遠藤を置いてズカズカと死体に近寄る砂羽。
女は強い。

「砂羽ちゃ〜ん。なんか見つかった?」

電信柱の影から遠藤が声を掛ける。

「ボス!やっぱりなんか握ってます!」

砂羽はリナ助の握られた拳を力一杯こじ開ける。

「お前…勇気あんなぁ…」

「コレ…リナ助さんが言ってた屋敷前で拾った指輪ですよ!」

遠藤はすぐさま砂羽の元に行き確認する。

「これがそうか…何の特徴も無い普通のプラチナリングだな」

「ボス。内側になんか掘ってありますよ?」

【R to A】

「イニシャルでしょうか…」

「指輪だし恐らくそうだろうな」

Rという人物からAという人物に贈った物だろう。

「とりあえず写真撮っといて。指輪は警察に押収されるだろうし」

「わかりました」

砂羽は遠藤のスマホで指輪の写真を撮った。

「じゃぁ私は警察に電話してきますね」

砂羽は青い顔で少し離れた場所へ移動する。
さすがの砂羽も女だ。
長時間死体の側も堪えたのだろう。


はぁぁぁ…

ため息をつきながら遠藤はリナ助を見た。

「こっち見んな!」

八つ当たりのようにリナ助に向かって言う。

「なんであんた殺されちゃったの?しかもなんでこんな酷い殺され方しなくちゃなんなかったの?…あれ??」

リナ助の口元に何か付いている。

(メモの切れ端??)

そっと引き抜いてみる。
真っ白で何も書かれていなかった。

(犯人の目的はこのメモなのか?)

一応写真を撮り、切れ端を元に戻した。


「ボス!すぐ警察来るみたいなんでここで待ちましょう」

砂羽が戻ってきた。

「帰ろうよ…こんなとこで待つの拷問だよ?俺の精神的ライフはもう0なんだよぉ」

「ダメですよ!事情聴取受けなきゃでしょ?」

「じゃタバコだけ吸わせてくらさい…」

遠藤はトボトボと離れた場所へ行きタバコに火をつけた。








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