遠藤探偵事務所の事件譚
Day1-7
静まり返るホールの一角。
ヒソヒソと作戦会議中だ。
「ボスから話してくださいよっ」
「アホかっ。こういう調書取りは大概にして助手的ポジションの仕事だろうがっ。だからお前が聞けっ」
ソファーには遠藤 砂羽 、向かいにストが座っている。
るりは警察の事情聴取があるとかで席を外した。
ストの第一印象が恐ろしすぎたのか、遠藤も砂羽も完全に萎縮してしまっている。
「なんで私ばっかりに押し付けるんですかっっ!もとはと言えばボスが受けた仕事でしょぉ?しかも助手っていうのはサポートが仕事なんです。良きタイミングで『へぇ』とか『よいしょ』とか上手いこと相槌打ってあげますから早く話し聞いてください!ほらっ!」
「セコいですぅ〜!いつも主人公の俺差し置いて前に前に出たがるキャラなのに、都合悪い時だけサブキャラ面するの止めてくださいぃ〜」
『私はやってない…』
「ボスはやってないんじゃなくてやらないんでしょうが?!」
『私はやってない…』
「やる・やらないで揉めんのやめてぇ?!『のこのこ俺の部屋まで付いて来といて何いってんのお前?』みたいな感じやめてぇ!」
『私はやってない…』
「いまさらやってないとかバカにしないでよねっっ!私…初めてだったのに…責任取りなさいよねっっ!………て、アレレ???」
『私はやってないんだっっ!』
ストの声がホールに響き渡る。
「あの…ストさん??」
遠藤は突然の出来事に顔を引きつらせながらもドウドウとストを宥めた。
『私のせいじゃない…私のせいじゃないんだよ…』
頭を抱えて溜め息をついている。
遠藤はコーヒーを一口飲みストに話しかけた。
「俺達、別にストさんを疑ってるとかそういう訳ではなくて少しお話を聞かせて欲しいだけなんです」
『わかっております…取り乱してしまってすみません。あまりに突然の出来事で混乱しておりまして』
そりゃそうだろう。
自分の身の周りで殺人が起きるなんて、めったに出合うことではない。
「俺達はるりさんから事件調査の依頼を受けて調べています。少しだけご協力頂けますか?」
ストは静かに頷いた。
「ありがとうございます」
まず遠藤はるりから聞いた死体発見当時の状況を説明した。
「発見時は今お話した感じで間違いないですか?」
『はい。わたくしは調理場で朝食のタラモサンドを作っておりました。あ…タラモサンドと言いますのは、わたくしの故郷の名物料理でございまして大変美味しいサンドイッチでございます。作り方はジャガイモを蒸しましてマヨネーズとタラコを絶妙な感じで混ぜ合わせます。ただ、この混ぜるタイミングといいますのが大変難しゅうございまして…』
「あの…それはまた次回でいいです…」
『そうでございますか?』
なんだかとてもションボリしている。
見かけによらずお茶目な人だ。
『太虎様の書斎の鍵が開かないと、るりが調理場に駆け込んできましたので一緒に書斎へ向かいました。鍵は確かに掛かっておりました。呼び掛けましてもお返事がありませんでしたので、わたくしがドアを破りました』
「で、死体を発見したと。警察にはストさんが電話を?」
『いいえ。るりでございます。わたくしはすぐに太虎様に駆け寄りまして脈を確認いたしました。そしてドア付近で震えていたるりにすぐ警察と救急車を呼ぶように声を掛け、わたくしは心臓マッサージを…』
「電話というのは何処のを使いましたか?」
『太虎様の書斎にある電話でございます』
「では発見時から1人きりになる時間はなかったということですね?」
『はい。ずっとるりと行動しておりました』
恐らくこの証言に嘘は無い。
遺体を調べた時、引きずって動かしたり衣類を探った形跡は一切なかった。
電話も書斎から掛けられていたことが確認されている。
「気になってたんですが、ストさんは何をそんなに怯えているんですか?」
砂羽が不思議そうに訪ねた。
『それは…』
「なんかあるなら話してもらえませんか?」
『実は…事件のあった夜、私はゴミ収集作業員のリナ助さんと飲みに行ってたんです。で、その時…屋敷の鍵を掛け忘れてしまって…』
「まじですか…てことは屋敷内は出入り自由?」
『面目ない』
そうなると誰でも侵入は可能ってことになる。
密室の上に不特定多数の容疑者。
みーきゃんの言う通りやっかいな事件だ。
後はストのアリバイをリナ助という人物に確認しなくてはならない。
「リナ助さんにお会いすることはできますか?」
『はい。夕方にゴミ回収に来るはずなので』
時刻は昼過ぎ。
夕方もう一度屋敷を訪れてみよう。
「時間結構ありますねボス。私は英会話教室に行ってるりさんのアリバイ確認してきますね。あと借用書に書いてあったMiraと目がしぱしぱするとゆう人物についてみーきゃんさんに聞いてきます。」
「サボんなよ」
「サボりませんよ!先に事務所戻っててください!あとで私も戻りまぁ…」
砂羽は忍者のごとく走り去った。
あまりの速さに語尾が聞き取れなかった。
「じゃストさん。俺も一旦事務所戻ります。夕方また来ます」
『あの!遠藤さん。参考になるかどうかわかりませんが一つ気になることが…』
ストが腕を掴んで引き留めた。
「どうかしました?お金貸してくださいってことなら俺には無理ですよ?」
『そういうことじゃなくて…実はここ数ヶ月、夜中に屋敷のどこかから妙な声が聞こえるんです』
「妙な声?ってどんな声が聞こえるんですか?」
『簡単に言えば叫び声でしょうか。でもキャァという声でもなく。もちろん翌朝は別段変わったこともないですし、太虎様も何もおっしゃいませんのでわたくしも詳しくは…猫の声なのかもしれませんが』
猫の鳴き声と叫び声を間違えるもんだろうか?
「わかりました。それも合わせて調べてみます」
『お願いします!…それともう一つ…』
なんだかストは言いにくそうに近寄ってきた。
『先程は女性がいらっしゃったので言えなかったのですが、実はリナ助さんと飲みに行ったというのは嘘でして…本当はリナ助さんの家で…その…秘蔵DVD観賞を…遠藤さんも男ならおわかりでしょう?』
モジモジと小声で話すスト。
女性の前では言いにくいDVD。
アレしかない。
「ああ?………ああ!なるほど!ストさんも隅におけませんなぁ!」
このこのぉと肘でつつく。
ストは、いやぁ///と頭を掻く。
「時にストさんや。その秘蔵DVDとやらを借りることはできるのでござろうか?」
そっと耳打ちする。
『…遠藤さんもお好きでございますね』
顔を近づけ合いグフグフと笑い合う2人。
相性は大変良いようだ。
ストはすぐさまDVDを取りに行き遠藤に渡した。
「おっしゃぁ!夕方まで俺は彼女とランデブーだぁあぁぁあぁ!待ってろよ俺のベイビーちゃ……」
渡されたDVDを抱きしめ、音速の速さで屋敷を後にした。
あまりの速さに語尾が聞き取れなかった。
類は友を呼ぶ。
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