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遠藤探偵事務所の事件譚
Day1-6

そろそろお昼の時間だ。
太陽も真上に来ようとしている。

初動捜査もひとしきり終えたのか、屋敷内は静まり返っていた。

玄関ホールの大きなガラス扉の向こうには美しい薔薇が咲き誇っている。
鳥の鳴き声まで聴こえてきて、とても殺人があった場所とは思えない。


遠藤と砂羽はソファーに座って、るりが運んできた出来立てのコーヒーに舌鼓する。

「うん。旨い。るりさんコーヒー入れるの上手だねぇ」

何故最初からコレをださなかったのだろう。

『ふふ…ありがとうございます』

「私も好きですこの味!苦味があって渋みは少なめ…これはコスタリカタラスですか?」

『はい!よくご存知ですね!』

「お前すげぇな」

「こう見えて私コーヒーにはうるさいんですよ?…って、ゆっくり頂きたい所なんですが事件の話が先です。発見した時の状況を聞かせてくれますか?」

砂羽がメモを取りだし姿勢を正す。



『はい。今日は朝から執事のストさんと2人体制の勤務でした。朝食の時間になっても降りて来られない太虎様が心配になって私は書斎に向かいました』

「いつもは時間通りに来るの?」

『はい。太虎様は時間には厳しい方ですので、私がお屋敷に勤めるようになってから1度も朝食に遅れた事はありません』

「で、書斎に行ったのはるりさん1人で?」

『そうです。ストさんは配膳がありますのでその時は調理場にいらっしゃいました』

「ふむ…で、書斎に入ったら太虎が死んでいたと」

『いいえ…書斎には鍵が掛かっていました。扉を叩いて呼びかけてみたのですが、返事が無かったので不審に思い、合鍵を取りに行き扉を開けようとしましたが…鍵がまわりませんでした』

「鍵が壊れてたってこと?」

『違うんです。実はこの屋敷の扉の鍵は特殊で、内側にも外側にも鍵穴があります。普通の扉と違って部屋の中からロックするにも鍵が必要なんです。で、部屋の中の鍵穴に鍵を刺したままにしてあると外側からは鍵が回らない仕組みなんです』

「鍵を刺したままにすることでドアチェーンを掛けるって感じだね。じゃ部屋の中の鍵穴には鍵が刺しっぱなしだったってことかぁ」


「ねぇボス…これって推理用語で言う密室ってやつですよね?」

「そうだな…なんか密室殺人とか非常に僕には重荷な事件なんですけど…密室なんて不思議のダンジョンくらいでしか体験したことないよ」



『えと…続きいいですか?』

「「どうぞどうぞ」」

ダチョウ倶楽部のように手を差し出す二人。




『私1人ではどうにも出来ないのでストさんに事情を話して一緒に書斎まで来てもらいました。そしたらストさんがドアに体当たりしてくれて、やっと扉が開きましたが、部屋の中では…太虎様が…私がもっと早く異変に気づいていればこんなことには…』

うつむいたるりのスカートが涙で色を変えていく。



「もういいですよ、るりさん」

可哀想に思ったのか、砂羽はるりの背中を擦った。















(え〜と…一体なんなのこの状況…めっちゃシリアスじゃん!作者本気じゃん!!当初は『相変わらずバカだなぁ』『また書いてねぇ☆』程度で終わらせるんじゃなかったの?!このままやっぱり太虎は生きてましたぁ〜やったぁ!で終わりでいいじゃん!ラストに竹内まりあとか流しときゃみんな納得するって絶対!)








(…私は一体なにを言っているんだ。)









「そんなとこで何をブツブツ言ってるんですかボス」

部屋の片隅で三角座り。
負のオーラ全開の遠藤。

「もぉさ、やめようよ…俺にこんな推理小説の主人公なんて無理だって。」

人差し指で床にのの字を書く。

「ボスが書いてる訳じゃないでしょうが!私達は作者の書くストーリーのままに動いとけばいいんですって!むしろ作者のほうが道のりの長さにビビってるんですって!このままじゃ結末まで行くのに何十ページになるんだってちびりそうになってるんですって!」


「でも死体とかグロすぎるよぉ〜もっとさぁコミカルに行こうよぉ〜『死体に突っ張り棒握らせてみました☆テヘッ』ってコメディぽくしてるけど、俺全然笑えないからねぇ!」

涙目になりながら砂羽の胸元を掴みブンブン揺さぶる。


「もう!止めてください!大変なのはこの物語書いてる作者だけなんですから気にしない気にしない!」

遠藤を引き剥がし、乱れた服を直しながら砂羽は更に言う。

「いいですかボス?私達はただのフラグ回収要員なんです。書かれるまま動くだけの簡単なお仕事なんですよ?出来ますよね?」


微笑みながらスッと砂羽の右手が差し出された。

「砂羽…」

遠藤は砂羽の手を取った。

「俺は間違っていたよ…君のお陰で目が覚めた!行こう!真実の向こうへ!!」

「ボス!!」

あはははははははは♪

2人は光の差し込むビルの向こうへと走りだした。

よぉし!俺たちの冒険はまだまだこれからだぁ!!


♪あなたを連れさぁ〜る〜あの人の影〜にぃ〜♪


〜fin〜













「「って、終わらすな!!」」

「ほんと真面目に書かないと10年くらいかかりますよ。そこまで付き合えませんからね」




すまない(作者)


では話しを本筋に戻そう。


「発見時の状況はだいたいわかりました。で、形式的なことなので気にしないで答えてくださいね。17日午後9時頃、るりさんは何処にいましたか?」


『昨日はこのお屋敷での仕事が終わってから英会話教室に行ってました。時間は午後7時から午後10時までです。そのあとはお家に帰ってすぐに寝ました』


なるほど。
これは英会話教室に行けばすぐに裏がとれるだろう。


「辛い時なのに色々聞かせてくれてありがとう。で、執事のストさんにも話しを聞きたいんだけど居るのかな?」


『警察の事情聴取があるので屋敷内には居ると思いますが……あ!ストさん!』


るりは立ち上がって手を上げた。

視線の先に身体をひねると、燕尾服に似た黒のスーツを着こなした、これぞ執事という感じの男性が扉の前に立っていた。
スッとした立ち姿が品格を感じる。


視線を感じたのか、ストはこちらへと歩み寄ってきた。

『ストさん。こちら探偵の遠藤さんと砂羽さんです。太虎様の事件を調べてくださることになりました』

「どうも。遠藤でぇす♪キラリン☆」

「そして砂羽でぇ〜すっ♪てへ☆」


ギロリ…


睨まれた…


第一印象は大切だ。





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