短編小説
真夏のプールで3
「し、死ぬかと思った……」
地獄のウォータースライダーから帰還した。
あんなんよく作ったなと言わんばかりの、絶叫アトラクションだった。
とりあえず命が無事だったことを祈りたい。
…………あっ、静歌どうした?
「キャアッ」
「静歌!?」
出口から出てくる静歌
浮かんできたときは、顔だけを水面に浮かべ、何やら顔を赤らめていた。
「うぅ……」
「どうした?」
「今のスライダーで、上の水着が流されちゃった……」
「…………」
あぁ、鬱すぎる
頭を抱えるしかない。
かといって静歌を置き去りにするわけには行かない。
仕方ない、探してみるか
何か行動しようとした俺に……
「えいっ♪」
後ろから静歌が抱きついてきた。
さっきとは完全に違い、生のそれが俺の背中に当たる。
し、しかし静歌、またおまえデカく………ってそうじゃなくて!
「うおっ、静歌!? 何やってんだ!?」
「こうしないと見えちゃうし……」
「だったら水に入って、腕で隠していても………」
「晃輔と一緒にいちゃ、ダメ?」
「うっ……!」
「晃輔ぇ……」
「ぐぐっ……」
わ、分かったから静歌、そんな捨てられた子犬みたいに上目遣いで見上げないでくれ……
め、目のやり場に困る。
お、俺が悪かったから涙目+上目遣いは止めてくれぇ!!!
─────…
「晃輔、大丈夫?」
「ぁぁ……」
静歌の水着を見つけるまでの数分間
周りの視線(全て男子)が凄まじく痛かった。
疲れ果てた俺は、しばらくの間机に屈服したままだったのは別の話だ。
─────…
そうこうしているあいだに、あっと言う間に終了時刻となった
服に着替え、俺と静歌はプールとは反対側にあるテーマパークへと向かう。
兄貴情報によるとここで……
あぁ、予想通りだ。
「………綺麗」
「だろ?」
辺り一面に鳴り響く音
空を見上げれば、様々な色が混ざった花火が打ち上げられていた。
ここの名物らしい
そんな花火を眺めつつ、俺は静歌の手を握る。
静歌も俺に体を預けてくる。
「最近……なかなか一緒に居てやれなくてごめんな」
「ううん、今日は晃輔とずっと一緒にいたし、私は幸せよ♪」
「静歌……」
「私思ったの、晃輔に嫌われてたらどうしようって。最近は全然会えてなかったし、晃輔が忙しいのは分かってはいたんだけど……」
「…………」
「でもね、ようやく分かった。会うだけが恋人じゃないって。会える回数が少なくても、その分愛してもらえれば、それでいいんだって」
「あぁ、そうだな………」
「晃輔………」
背伸びをして唇を突き出してくる静歌
人が居るから、若干恥ずかしいのか
顔がほんのりと赤い。
俺は何も言わず、その唇を塞いだ。
────数分間、じっくりとお互いを堪能した後……
「あ、あのね……晃輔?」
「ん、何?」
「そ、その……こ、この後なんだけど……き、期待しても良いかな?」
「あぁ、期待しててくれ。静歌が良いのなら、いくらでもしてやるさ」
「晃輔♪」
「あぁ」
「もう一回……キスしてもらって良い?」
「もちろんだ。喜んで」
おねだりをせがむ静歌に、俺はもう一度口づけを落とした。
先ほどよりも甘い、長い口づけを
─────今日はとても甘い
夏の一日─────
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!