短編小説
IF〜聖夜の夜に〜(悠輔×悠)
「ハッ、ハッ、ハッ……」
悠輔は今、必死に足を動かして走っている。
とは言うものの、とある目的地に遅刻しそうだからだ。
「くそっ、間に合ってくれよ!」
────…
「えっ、本当ですか!?」
不意にかかってきた一通の電話。
悠輔は相手の話す内容に、やや興奮気味に受け答えていた。
「今日の午後……六時からですか? 分かりました!」
ガチャリ
「………ふふふ」
何だコイツ?とか思われそうな笑い声をあげる悠輔。
悠輔自身、自分で言ってて恥ずかしくないのかと、思うのに笑いが止まらぬのは何故だろうか。
「ひゃっほう! やったぜー!」
飛び跳ねながら、階段を降りようとするのだが。
「ワハハ……うぉっ!?」
ズダダダダダンッ
ジェットコースターが急斜面を一気に滑り降りるかのように、一気にショートカットして一階までたどり着く。
もちろんだが、体は痛い。
ってか正直な話、笑えるもんじゃない。
「いって〜。腰を強打した……」
「何を踊っている?」
「ん、あぁ晃輔か。何でもないよ」
「んなわけあるかっ。そんな壊れた兄貴は、兄貴に何か良いことがあったときにしか見たことない……」
「あぁ、母さん。今日の晩飯何?」
「人の話を聞けー!」
────…
「よぉし、後は取りに行くだけだから、部屋でゆっくりしてるか!」
何気なく、テレビをつけてみる。
と、クリスマスらしいクリスマス特番をやっていた。
ぼけーっとしながら見ていると、悠輔の目に入ってくるものがあった。
(ん、確かこれって……)
テレビに向かって首を傾げる姿、一体どんな風に見えただろうか、少なくとも変態に見えたってことはないだろう。
(でもこれは、今日だけらしいし……よし!)
「……お?」
その刹那、テレビの音に紛れて、よく聞き慣れた着信音が、耳を突き抜ける。
発信者は部活の仲間らしい。
悠輔は電話を手に取り、楽しそうに話し始めたのだった。
────…
「ってあんな余裕かましてたのに、結局これかよー!」
話に白熱しすぎて、待ち合わせ時間をすぎてしまったのだ。
目的の店で、約束の品を貰う時間には何とか間に合ったもの……。
残念ながら悠との待ち合わせ時間には、間違いなく遅刻となりそうだ。
「はぁ、はぁ……」
「あ、悠輔くん!」
「ご、ごめん! 遅くなっちまった」
「本当に……悠輔が7時00に待ち合わせって言ったのに……」
(うわー、これ怒ってるかな……)
目をつむり、若干ムスッとした悠の顔からは若干の威圧感を感じてしまう。
しかし、遅刻したのは自分のせいであるため、素直に過ちを認めるしかない。
「ごめん……友達と話し込んでてつい……」
しょぼーんと頭を垂れる悠輔に対して、悠はニコリと笑う。
「いいよ。たまには仕方ないよ、遅刻なんて」
「あ、あぁ」
「でも、次からは気をつけてね?」
「はい、すいません」
痴話喧嘩らしきものが終了し、悠輔はとある話を持ちかける。
「えっ? そんなとこにいくの?」
「あぁ、ダメかな?」
「ううん、ダメじゃないよ。行ってみたい」
───悠輔が行こうと言ったのは、とある山のこと。
この時期に山、どう考えてもおかしいのだが、何故こんなところを選んだのか────
しかし、その答えはすぐに分かることとなった。
────…
「うわぁ……綺麗だね〜」
「あぁ、しかも今はどうやら人も居ないみたいだし。俺達二人きりだけってことだな」
────そう
悠輔が提案した場所とは────
クリスマスの告白スポットとして、有名な場所だったのだ。
「悠……」
「うん?」
「俺がここまでこれたのは悠やみんなのサポートがあったからだ。ありがとう」
「急にどうしたの?」
いつもより雰囲気が大人びている悠輔に、悠は疑問を持ちながら返事を返す。
哀愁ただよう悠輔の顔つきは、どこか別人のように見えてしまう。
「ここってな、親父が母さんに告白した場所なんだよ」
「えっ……そうなんだ。でもそれと今日は関係ないんじゃ……」
「関係大ありだよ、悠」
「?」
「俺なりのケジメって言うのかな? 今日ここで悠にどうしても伝えたいことがあるんだ……聞いてくれるか?」
────流れる沈黙。
刹那、悠輔は話し始めた─────
"不器用な言い方だけど、これは俺の想いだから、しっかりと聞いてほしい。
私、榊悠輔は────
世界の誰よりも
桐島悠という女性を愛しています。
俺と一緒に……
これからの将来を………
ずっと────
ずっと共にして欲しい"
それだけ言い終わると、悠輔は悠に近づいて、薬指にソッと指輪をはめた。
光り輝く指輪が、悠輔の想いを物語っている。
────ほかの誰にも言わない、悠へだけのメッセージ。
─────これから生涯を共にしようという、不格好なりに悠輔が考えたプロポーズだった。
「バカ……」
「返事聞かせてもらえるかな?」
「こんな指輪渡されたら……断れる訳ないじゃない……」
「そりゃそうだよ。俺だって悠を誰にも渡したくないんだ。断らせるつもりなんて、毛頭ないよ」
ニコリと意地悪そうに笑う悠輔。
「私だって愛してるよ、悠輔くん。……いや、悠輔♪」
「────まだまだ未熟な俺だけど……絶対に幸せになろうな」
「うん♪」
月夜が照らすクリスマスの夜。
無数の星たちが見つめる下で────
「んっ……」
二人は誓いの口づけを交わした。
〜Fin〜
※この物語はフィクションです。
本編とは全く関係ないのでご注意を。
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