短編小説 悠輔の夢〜Yusuke's Dream〜(プリマ☆ステラ) 「よぉい……」 ────パァン! 空気を切り裂く、火薬音。 陶山学園陸上部、部員26人で活動している。 ────今は短距離ダッシュの時間、夏の大会を二ヶ月後に控えた俺達三年生は、部活動も終わりを迎えるとあって、今まで以上に熱が入っている。 三年生最後の大会だ、悔いは残したくないのだろう。 顧問がいない時には手を抜くこともあった後輩達も、今やがむしゃらにトラックを駆け回る。 ─────俺の名前は榊悠輔、陸上部部長。 そして、100m走の選手だ。 中学を含めると約五年間………長いようで短かった時間が、あと二ヶ月で終わろうとしている。 ────これが終わってしまえば、俺達三年生はいよいよ自分の目標へと突き進んでいくことになる。 進学か、就職か……それは人それぞれだ。 俺はどちらにするのか正直悩んでいた。 スポーツ入試、いわゆる実技試験で入るか、一般入試で入るか………はたまた就職になるのか………選択肢は二つだが、夢は数え切れない。 ────みんなは自分の将来について考えたことがあるだろうか………。 少なくとも目標を完全に決めて、それに真っ直ぐ突き進む………そんな人は少ないだろう。 実際、俺も将来を決めたわけでもない。 進路希望書はいつも『未定』として出している。 なぜなら、将来を決めていないから。 単純明確、単にそれだけ。 だがこれからはそうもいかないだろう、優柔不断な考え方は自分を後悔へと導く………近い未来、決めなきゃいけないことだ。 「おらーっ、もっと声出せよー!!!」 「うぃーっす!」 気分転換と言っては何だが、大きな声をだし、もやもやした感じを吹き飛ばす。 ─────約束を交わした、必ず一番になると………しかし一番になったら俺は将来どうなるのだろうか? そもそも、ただのニートのようになっているのかもしれない………。 ─────しかし、迷っている俺の将来を決めさせたのはとあるテレビでの、ある男の言葉だった。 ─────… 『ふわぁ……眠っ……』 時計の針はすでに零時を周り、日付は次の日へと変わっていた。 何となく、テレビをつけてみると、ちょうどプロ野球選手の特集をやっていた。 プロになるために苦労したことが、語られる。 『育成選手として、スタートを切ったわけですが……野球を辞めたいって思ったことはありますか?』 『ちょうど……二年前ですかね……メジャーのマイナーリーグでやってたんですが……その時の環境に慣れないし、登板しても打ち込まれるし、正直辞めたいって思いましたね……』 マイナーとはいえ、プロの一員だ。 アメリカのマイナーでは月給は低ければ10万とも聞く。 その中で結果が出なかったから、正直辞めたいと思っても不思議じゃないだろう。 『でも実際、今や日本球界屈指の中継ぎとなったじゃないですか? もし辞めていたらここまでの成長は無かったんじゃないでしょうか?』 ────次の言葉に俺は心をひかれた。 "やっぱり……好きなんですよね、野球が。 どんなに辞めたくても、好きなことを嫌いになれるはずがありませんから………それに好きなことを続けなかったらそれまでですから……自分の夢が無いなんてないんです、好きなことをすることで将来の道を切り開くことが大切だと思います。 やらない偽善ならやる偽善って言いますよね。 だったらやるべきです、自分が頑張っていることをひたすら頑張れば良いんです。 好きだから頑張れるんです! その頑張りを無駄にしてはならないんです、頑張った分だけ結果は出ます! 実際、僕がそうじゃないですか? 将来はやりたいことをすればいいんです。 ────自分がこれなら頑張れる、この夢を叶えたい。 将来ってのはそこから始まります、だからこそひたすらに頑張って欲しい。 どんなにつらくても、やれば必ず報われる。それは真実です。 夢は叶うものじゃなく、叶えるもの……僕はそう信じています。" ────… 「元気足りねぇぞ、お前ら!」 「ゆ、悠輔先輩が元気すぎるんすよ……昨日今日でどうしたんすか?」 「何でもねぇよ、ホラ、10本目行くぞ!」 ────だったら俺も陸上を続けていく。これからもずっと………。 全国一位になったなら、次は世界一位だ。 俺は迷わない。 今を精一杯生き、そして陸上の為に命を懸ける。 夢は叶うものじゃなく、叶えるもの。 将来も決まるものじゃなく、決めるものだ。 俺は将来絶対に陸上で世界大会に出る。 留学でも何でも良い、俺は身体を鍛え続ける。 そして最終的には世界一をとる。 ────だからこそ、俺は走る。 ラインが引かれたレーンの上を、この道が、この夢が─────ずっと────続く限り。 そして────世界に榊悠輔を刻み込むために─────。 [*前へ][次へ#] [戻る] |