C いつまで経っても一向に喋ろうとしない俺を不信に思ったのか、羽岡はここに来てやっと、微かに無表情を崩した。 動いたのか動いていないのか、見ていなければ全く気付かないほど僅かに首をかしげて、ゆっくりと口を開く。 「……それとも、死なないの?」 すっと一歩羽岡が踏み出す。 反射的に、俺は一歩後退する。 「………ッ」 背中にあったフェンスにぶつかり、ぶつかられたフェンスはガシャンと割に合わない大きな音を立てた。 ――おかしい。どう考えたっておかしい。 俺は今まさに自殺しようとしている人間なのに。 そんな人間を目の前にして、どうしてそんなに冷静でいられるんだ? 普通の人間の反応じゃない。 こんなにも狼狽している俺を見ても、羽岡は僅かに眉を寄せるだけで全く顔色を変えない。 そんな様子から、俺は羽岡に畏怖の念すら覚えた。 何故羽岡を恐ろしいと思うのか、その理由は薄々俺も気が付いている。 でも、受け入れるのが怖くて、俺は恐々を断ち切るように頭を振って叫んだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |