A ふと顔を上げれば、町並みが一望できた。 あぁ、ここから飛び降りられたら、どんなに楽だろう。 「…………とぶ?」 そう、飛ぶ。 飛び降りてしまえば。 「らくになる……」 その言葉は、酷く甘美な魅力を持っていた。 脳の奥がすぅっと冷える。 ――そうだよ、飛んでしまえば、楽になる…… ふらりと立ち上がる。 引きずるようにしてフェンスに歩み寄る。 フェンスを掴むと、錆びたそれがギィと音を立てて軋んだ。 下を覗き込めば、豆粒のような大きさの車が往来している。 「……―――」 大きくひとつ深呼吸して、目を瞑る。 そして勢いをつけてフェンスを飛び越え―― 「――死ぬの?」 ――ようとして、止まった。 _ [*前へ][次へ#] [戻る] |