B 「……ん?」 そこまで考えて、俺はふと何かひっかかりを覚えた。 虐待の過去と、幸せな現在。登場人物は、羽岡と、章さんと。 「どうしたの奏汰」 「いや……」 口では言葉を濁しつつ、頭では浮かんだ疑問について必死に思考を巡らせる。 今羽岡が幸せな生活を送っているというならば、母親は。羽岡の心に深いトラウマを作り出した、あの羽岡美和子は、どうなったのか。 気にはなったが、口に出してはいけない問題な気がして。俺はぐっと唇を引き結んでなんでもないと言いきった。 以前羽岡は言っていた。父と二人暮らしだど。ならば形はどうあれ母親との関係は断ち切ったのだろう。それで良いじゃないか。 頭を振って不安を断ち切り顔を上げる。羽岡と目が合うと、彼女はぷっと吹き出した。 「何変なことしてるのよ」 口元を押さえつつ笑いが堪えきれていない羽岡。その動きに合わせて長い髪がさらりと揺れる。 月を溶かしたような、輝く白銀の髪。光に当たると淡く光るそれは、その理由を知ってもなお、綺麗だと思った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |