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Gintama
あいつを好きな君を見る僕を見る君は。(銀桂←高)



白で統一された病室に高杉は今日も足を運んだ。
学校からそのまま来たので、だらし無く学生服を気崩して、スクールバックを肩にかけている。
ここにきた目的の人物が大人しくベッドで寝ていることを確認すると、高杉は小さく息を吐いて、病室の入り口に置いてある消毒液に手を濡らすと、手を何度か擦り合わせたあと、中に入っていった。
4人部屋の一番奥、窓から病院の中庭が見える位置に桂は寝ていた。
何日か前に、この場所にいた患者は、もうすぐ退院だからと言って、ここを譲ってくれた。
桂の横のベッドが空になっている。その患者は今頃元気になって病院の外にいるのだろう。
高杉の脳裏に、初老の男性の顔が浮かんだ。話の内容が桂と妙に合う、賑やかな人だった。
高杉が空のベッドから視線を桂の方に戻すと、まだ静かな表情で眠っていた。
今日はこのまま、起こさずにいよう、そう思って自分の座るパイプ椅子を開いて、ベッドの側にある簡易机に通信教育の教材を並べた。
高杉はいつもここで勉強しつつ、夜まで桂に寄り添っている。
高校受験も近いなか、県立の進学校を目指している高杉を、桂は塾に行くように説得したが、高杉はそれを断って、代わりに通信教育教材を頼むことにした。

「本当に大丈夫なのか?晋助はサボってばかりいただろう。一年や二年の勉強もきちんと教えてもらったほうがいいんじゃないか?」
「大丈夫だって言ってるだろーが。今回の学力テストだって学年トップだったし、受かるのに塾なんて行くのが馬鹿らしいだろ。」
そうは言ってもなぁ。と桂はまだ何か言いたそうにしていたが、高杉は頑として聞き入れなかった
そのかわりと言っては、同級生の坂本を家庭教師につけてくれたこともあった。もっとも、高杉が一人で問題集を解く間、隣で勝手に喋っているだけだったが。
「あねーに生意気坊主じゃった晋助が真面目に高校に入ることになるとはのー。」
妙にしみじみとした口調で、そう言われたとき、一度だけだったが、酷く狼狽した。
違う、真面目になった訳ではない。桂のためにちゃんと高校に入ろうとかこれ以上世話をかけられないとか、そんなんじゃない。
高杉は今、何処にいるのかわからない白髪頭の飄々とした奴を思い出して握っていたシャープペンを強く握った。

「銀時?」
不意に聞こえた微かな声に高杉はハッと顔を上げた。桂の大きな目がこちらを見ていた。
「晋助だったのか。今日も来てくれたのか、すまないな。」
「・・・・別に。寝てたんだろ、邪魔したな。」
「構わん。ちょうど晩御飯の時間が近いから。」
「ああ、あのまずい飯」
「こら、失礼なことを言うもんじゃない」
桂は手をあげて、そのまま口元に当てると、内緒だぞ、本当は少し家のご飯が食べたいんだ。そう言って微笑んだ。
「銀時のチャーハン、おいしかったなあ。」
また、その名前。
高杉はあからさまに不機嫌な顔になると、ベッドサイドからりんごを取り出して、剥いてやるよ。
とナイフを持った。
するすると、皮は切れることなく続いていく。
上手くなったなあ。と桂が満足げに呟く。
最初のころはいつ手を切るかハラハラして、皮か食べる部分かわからなかったもの。そうだな、今度はウサギにしてくれ晋助。
煩いくせに勝手なことばかり言ってくる。
高杉は林檎を一欠、桂の口につっこんだ。
ああ、おいしい。
シャリ、シャリ、小気味のよい音をたてて桂は林檎を食べた。
「ウサギってどーやって作るんだよ?」
「知らない」
「あっそ」
ふい、と高杉は桂から目を逸らした。桂がまた、昔を懐かしむような目をしていたから。決まってこういう時はあいつが桂の中にいるんだ。
昔は、桂が調子を崩した時にはあいつがかいがいしく世話を焼いていた。隣で熱い手を握っているだけだった無力な自分。
あいつを頼りにしていた桂。
「ありがとう晋助。今日はもう帰っていいから」
桂の声で意識がこちらに戻る。
帰ったほうがいい。今日の夜は雨が降るらしいから。
わかった、と高杉は大人しく頷いた。荷物をまとめると、何も言わないまま病室を後にした。
これから桂はまた泣くんだ。あいつがいなくて泣くんだ。
思わず乱暴な歩き方で長い廊下を歩いていく。
桂は、お前がいなくなって俺の前じゃ一度も泣かなかった。辛いのに、寂しいのに、俺を守ろうとしてたから泣かなかったんだ。
知っているか、銀時。あいつ枕の下にお前と撮った写真入れてるんだ。
桂は元々細い腕に点滴いっぱい刺されてて、外に出ていないからますます白くなってるんだ。血管が細くなって針がさせなくて、何回もするもんだから青黒い跡が沢山残ってるんだ。
知ってるか、銀時。
あいつ、お前が、ずっと帰って来るって信じてるぞ。何をしてるんだ、ばかやろう。
高杉が病院の外に出ると辺りは既に日がおちて真っ暗になっていた。
いつ切れるかわからないうな危うい電灯の下に、高杉が今一番会いたくない白髪の人物がいるような気がして、思わず目を見張った。
気のせいだ。
もう、あいつに頼りたくない。力を借りなくても桂を守れるぐらい、強くなる。
銀時を身勝手だ、いい加減だ、無責任だ、と罵りながら、どこかでは頼っていた自分を嘲るように高杉は鼻で笑った。
ぽつり、鼻の頭に冷たい雫が落ちてきた。
雨粒はみるまに増え、学生服を黒く染めていく。
高杉は焦る様子もなく、どこかのんびりした足どりで、雨の中を歩いていった。


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