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silversoul*ls
06.回想の後での珍訪者


長い回想を終え、深く息を吐く。
最後に伊澄に撫でて貰った頭に触れ、名前は「おなかすいたな…」と小さく呟いた。
伊澄さんの熱めでいて少し濃いお味噌汁が飲みたい。
情けない、未練たらたらじゃないか・・・と名前は自分に苦笑した。

まあくよくよしていても仕方がない、と気を取り直し、頭を軽く振った。最後に出ていく決意をしたのは自分だし、何より己の性に合わない。
幼い頃から男ばかりの所で過ごしてきたのもあり、女らしくないどころかそこらの男よりの腕っ節が立つであろうことも自覚している。
小さい頃、近所の子供の連中におとこだおとこだと囃し立てられ、泥まみれになりながらも喧嘩しては連勝を納めていたのも今では懐かしい記憶だ。まあ今でもやっている事は余り変わっていないのだけれど。


「とりあえず、当分はここで寝泊まりするとして…問題は食うもんだな、食い物」


実のことをいうと、伊澄さんの所を出てから碌な物を口にしていない。
最初こそ名前も最後に手渡された給料をちまちまと使っていたのだが、それもすっかり底をつきてしまい、最近では噴水から湧き出ている水で無理矢理持たせている。
名前とて本当はもう少し栄養のある物を取った方が良いとは思うのだが、如何せん此処、かぶき町周辺にそんな自然が溢れている訳もなく。
しかし人様のゴミを漁る事にも、今となっては時代錯誤と言われるかも知れぬ矯持――侍としての矯持が其れを許せなかったのだ。
因みに風呂等も入れる訳がなく、3日目あたりから襲い来る不快感に我慢が出来なくなった為、せめてもと人目のない夜間に噴水で水浴びして済ませているのが現状だ。


(草…草は流石にな。生態系も狂ってきてるし、)


名前がそこまで思考を巡らせたとき。


キキィッ、と言うブレーキ音を響かせ、闇夜の中を滑る様に一台の車が名前の直ぐ近くに停車した。


 

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