[携帯モード] [URL送信]

silversoul*ls
05.優しさで沁みる傷

名前は荷物を受け取った後、荷物を持っていない方の腕をそっと前に向かって伸ばした。
いつでも人の事ばかり心配しているような、そんなとても優しいひと。親の居ない自分には眩しすぎた位。


――――『僕、伊澄って言います。』



『僕の事、本当の父親と思ってくれていいからね、』


最初に此の店に拾われた時に掛けられた言葉が脳裏によぎる。
此の家も、キミが帰ってくる家なんだからね、とそう嬉しげに微笑む姿が浮かぶ。
結局一度も父、と呼んだ事は無かったけれど。けれど親が居たらこんな感じなんだろうな、と思っていた。
店長の腰の辺りにそっと腕を絡ませる。布越しに感じるあたたかい体温。暖かい。


「今までありがとう――――・・・・父さん」


ぎゅ、と抱きしめれば驚いたかの様に、腕の中で彼の身体がふるふると震えているのが判った。
やはり父と呼ぶのは迷惑だっただろうか、と心配に思い名前は上を見上げる。すると名前の傷だらけの頬にぽたり、ぽたりと何か緩やかに落ちてくる温かい水。その温かい液体は、彼の眼鏡の奥の優しげな瞳から溢れ出ていた。


「ちょ、伊澄さ「ごめんね・・・・」



「いってらっしゃい・・・・・・名前」


最後に名前を強く抱きしめて。
名前もそれに応え、控えめにきゅ、と抱きしめ返した。
そして今まで見たことがない様な、満面の笑みをふわりと見せてこう言った。




――――行って来ます!






[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!