しどろもどろのアイ・ラヴ・ユー



指先が冷たい。固く組んでいるにも関わらずそこに風が通る。君は僕を不思議そうに見上げながら白い息を吐いていた。わかっているんだ、ここは寒い。だから俺はもっと暖かいところへ行きたくて、きっとそれは君も同じで、寮の暖炉の前なんかが最適なんだろう。あそこは非常に心地良い。心地良い場所なら他にもあるのだけれど。星が澄んだ冬の空気の中で己を主張する。俺にもああ出来たら。行方知れずになった言葉は春になるまで俺の元へは帰って来ないつもりなのだろうか。それだと俺はとても困るのだけれど。もう朝はいらないなくても良いからこの時間をもう少しくれ。春までとは言わない。ただ俺からいなくなった言葉が帰るまでだけで良いのだから。いよいよ君は俺から目を離し夜空を見上げる。瞳にその満点の星々を閉じ込めて放さずに。いや、星さえその瞳のなかにいるのに俺は君の瞳には映らず隣に座るのみだ。もどかしい。もどかしい。君が俺の言葉を連れ戻してくれないだろうか。俺が懸命に探しても見つけられないけれど、君なら言葉から君のところへ行きたがるんじゃないだろうか。いい加減手は限界で、風が通る感覚さえ消え失せたようだ。俺は一体何をしている。この寒空の下君はただのひとつも寒いと不平を漏らさない。今度は舞い始めた雪に心を奪われ、必死に掴もうとする。もちろん捉えれば溶ける。だから君は追い続けるのだろうか。なら俺も溶ければ君が追い続けてくれるのだろうか。否、俺は溶けないし、溶けるわけにもいかない。だから俺は雪にはない星にはない言葉で君を捉え続けなければならないのだろう。本当は寒くなんかない。吐く息が白くても、周りに雪が舞っていても、俺達には魔法という暖かなコートがかかっていたはずだ。そしてもうひとつ、俺には君という手袋もあるはずなのに、ならどうして冷たいのだろうか。言葉を持たない今の俺にそれを理由付ける術は無く、ただ冷たいと感じるばかりだ。何故。言葉よ早く帰ってきてくれでないと俺はどんどん冷たくなる。きっと俺だけだ。君はついに雪からも目を離し、淡い光を放つ三日月にひたすらに目をやっていた。俺もつられて目を向ける。黄色い白。白い雪。白い赤い青い黄色い星々。闇は黒だ。君の瞳も今は夜空を閉じ込めて、深い深い底の見えない黒さを湛えているに違いない。三日月はその空を引っかいたかのように鮮烈に、美しく浮かぶ。ああ、俺は今やっとひとつ言葉を思い出した。君を見て、そうしたら君も俺を見た。
「綺麗だね」
美しい、これは俺が探していた言葉の一つ。俺はそう言った君にああと返事をした。途端に君がこんな寒空の下で暖かく笑うものだから、俺は言葉という言葉を全て思い出した。おかえり。帰ってきてくれてありがとう一番必要な言葉。

「愛してる」
 
















俺達の寒空は愛という暖炉と君という手袋をようやく見つけ出した。




20080229_吾風



あきゅろす。
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