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幸せな酸欠(6000HIT/めに様)


「えー、ちげーよ。雲雀はさ、あのツンツンしてるとこが可愛いんだって!」

校内の見回りから帰ってきて応接室のドアに手をかけた瞬間、部屋の中から脳天気な大きな声が聞こえてきた。
声の主自体は、それはもう悔しいけれど知っている。
勝手に応接室に侵入されるのにももう慣れた。
そこまではいいとして、何をまた騒いでいるんだあの馬鹿は。

「そりゃあ、俺に笑いかけてくれる雲雀だって可愛いのな!……鼻で笑われる事のが多いけど……って、そうじゃなくて!」

コロコロと変わる声音と一緒に、次々と表情を変える様が思い浮かぶ。
ああ、もう、頭が痛い。

「俺は雲雀の、誰も寄せつけねー!て感じなのに、意外と優しいとこが好きだぜ!お前も分かるだろ?」

それにしても、誰に向かって話しているのだろうか。
大方被害にあっているのは、あの草食動物か忠犬だろうと僕は予想を立てる。
彼らを助ける訳ではないけれど、邪魔者はすぐにでも応接室から出ていってもらおうと思い、扉を開けた。(僕は自分の部屋に入るのを、どうしてこんなに躊躇っていたんだか)

「ねぇ、ちょっと君……」
「だよなー!お前もそこだよな、ヒバード!」

注意しようと思って開いた口と、踏み出した足が一時停止する。
…………予想外、だった。
誰かを相手に(もしくは最悪独り言)で話しているのだろうと思っていた声の主・山本武はソファーに座り、目の前の机の上にいる黄色い鳥と話していた。
ヒバード相手に同意を求めていたのかとか、鳥と何故そこまで意気投合出来るのかとか、そこってどこだ、とか、突っ込みたい事がたくさん山ほど溢れてくる。

「あ、お帰り、雲雀!」
「オカエリ、オカエリ!」
「…………」

鳥と息ぴったりで満面の笑みを浮かべている山本に、本格的に頭が痛くなって僕はとりあえず自分の椅子に座る。

「…………君、何、してたの」

ようやく絞り出した言葉は、あっさりとしていた。
というより、これ以外に言葉が見つからなかった。

「ん?ああ、ヒバードと雲雀のどこが好きかについて語りあってたのなー」
「……鳥、と」
「? ああ!」

何かおかしいか?と爽やかな笑顔を向けられ、僕は何も言い返せない。

中学生にもなって鳥と盛り上がるなんて、いや、中学生だからまだ許される、のか?

僕が頭痛を抱えながら悶々としていると、山本がヒバードの頭を指先で撫でる。

「お前はいいよなぁ、雲雀に愛されてるもんなぁ」
「ヒバリ、スキ!」
「そっかー。……俺は雲雀が好きだけど、雲雀はそうでもねーみてーでさ」

ぴく、と僕の思考が山本の言葉を唱える。
……何、言ってるの、こいつ。

「俺が雲雀に抱きつこうとしてもいっつもトンファーで殴られるし、一緒に昼飯だって食ってくんねーし、放課後だって一緒に帰ってくんねーし……」

トンファーで殴るのは恥ずかしいから。
一緒に昼食を食べないのは、君と草食動物達との関係を気にしてるから。
一緒に帰らないのは、部活帰りの君といるところを部員に見られたら、山本が気まずくなるかと思ったから。
だというのに、こいつは、何にも気付いてないの……!

「雲雀に愛されてるお前が羨ましいよなー……」

机の上に突っ伏している山本を、ヒバードがファイト、ファイト、なんて言って慰めている。
でも何、この馬鹿。
僕がどれだけ君を好きなのか、これっぽっちも分かってないだろう……!
むかつく。
思い知らせて、やりたい。

「山本武」
「んー?」

椅子から立ち上がり、馬鹿の前に仁王立ちする。
仕方ないから言葉にしてあげるよ。
君の単細胞な脳には、行動だけじゃ伝わりそうにないから。

「どうかしたのか、雲雀?」

笑ってる、けど、その笑顔が少しだけ切なさを帯びている。
本当にもう、馬鹿じゃないの。

「……僕が、勝手にこの部屋に入っていいって思っているのは、君だけ、だから」
「え……?」

急な発言に山本が戸惑うのがはっきりと分かる。
これから言う事に頬が熱くなる。
けれど、言い出してしまったのだから、止まらない。

「だから、ねぇ、もっと愛されてるって自覚、持ちなよね」
「えっ……」

ああ、言ってしまった……!
普段は言わないようなセリフのオンパレードに、恥ずかしくて山本の方を向けなくなる。
ぽかん、と山本が口を開けているのがわかって、恥ずかしさが増幅される。

「ひば、り」
「……僕、どうか、してた」
「え、え、」
「もう1回、見回り、行ってくる」

そのまま逃げるようにして応接室から出ると、扉をピシャン!と閉める。
しばらく心臓がバクバクしてて、まともに歩けそうにない。
ドアにもたれかかって、はぁ……と深く溜め息をついていると、ようやく現実に戻ってきたらしい山本が、わあ、わあ、と叫び出すのが聞こえてきた。

「ヒッ、ヒバード……」

ドア越しに聞こえる声が、面白い程に震えている。

「ヒバード!俺、雲雀にっ、雲雀がっ……!」
「オメデトー」
「ヒバードォ!!」

鳥とまた、君は何をしているんだと頭を抱えたくなる。

けど、まあ、こんなのもたまにはいいじゃないかと、僕は自分に言い聞かせて、熱った顔を冷ます為に屋上に向かった。





幸せな酸欠
(雲雀、今度は愛してるって言ってくれよ!)
(調子にのるな!)










めに様より6000HITキリリクで「中学山雲+ヒバード・甘」でした。
まずはとてつもなく遅くなってしまった事に謝罪を……本当にすみませんでした!
あとヒバードの存在が妙に薄い気がするような……!
愛だけは込めさせて頂きましたので、どうにか受け取ってもらえれば、と!
このたびはリクエストありがとうございました。

桐ノ木 圭


タイトルは人魚様よりお借りいたしました。



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