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石楠花物語小学校時代
友達

ヒュッテ・客室
   麻衣と桃代、掃除をしている。 
 
麻衣「今日はあの子達、車山登山か…」
桃代「ま、登山としてみりゃ大した距離じゃないけどさ。」
麻衣「三年生にしてみれば大した距離だに!!登山経験ない小学校三年生に、いきなり八ヶ岳登れって言う方が無理?ってか、どうかしてるに?」
桃代「まぁ、確かにそうだけどさ…」
麻衣「ところで、」

   徐に掃除機をかけながら

麻衣「昨日の泣いてた子、どーしただら?」
桃代「あぁ、千里君?」
麻衣「千里君?」

   掃除機を止める。

麻衣「あの子千里君って言うだ?」
桃代「えぇそうよ、」

   きょとんと笑いながら

桃代「小口千里君。あの子の名札にそう書いてあったわ。」
麻衣「ほーなんだ…千里君…か。」

   ポワーンとする
   

麻衣(宮川のせんちゃんだったりして…ふふっ、まさかね。京都も広いんですもの。きっと似た子よね。)
桃代「麻衣ちゃん…?」
麻衣「えぇっ!?」
桃代「どうしたの?」

   くくっと

桃代「何か考え事?」
麻衣「いえ、ただ知り合いに似てるなぁって思っただけ。」
桃代「ふーん…。」
麻衣「小口千里君かぁ…名前もなんか雅チックで素敵ね。何か流石京都って感じ。」


車山高原
   時間が経つ。三年生たち、ヘトヘト。

佐久間先生「みんなお疲れ様。よくここまで頑張ったわね、偉いわよ。ではね、」
和裏先生「少し休んだら、下山とする。」
清原「先生、喉乾いた。」
和裏先生「喉乾いた奴は自由に持ってきた水筒の水を飲め。」
園原「先生、お腹すいたぁ!!」
和裏先生「下山までもう少し我慢しろ、どうしてもと言うやつだけは…具合が悪くなっても困る、言いに来い。その代わりどうしてもと言うやつだけだぞ!!いいな。」
千里「先生っ!!」

   恥じらい気味に

千里「トイレ…は?」
和裏先生「頂上には、トイレがない。行きたいのか?」
千里「い、いえ…べつに…。」
和裏先生「ならいい。ヒュッテでトイレ済ませてこなかったやつ!先生の話を聞かんのがいけないんだぞ?下山まで我慢しろ。もし、どうしてもと言う時だけ、それも先生にいいに来い。以上、一時解散。」

   其々、思い思いにバラける。

清原「あぁ、気持ちいい!!僕何か、こんなところで歌でも歌って見たいな!!」
美代「美代はダンスを踊りたい!!」
園原「僕は…」

   千里を見る。

園原「どうしたの、千里君…」
千里「い、いやぁ…何でもないよ。」

   気をまぎらわす様に大声で

千里「あ〜あぁ、あぁあぁあぁあぁ!!」
園原「千里君、それって…」
清原「ターザンでしょ?」
美代「千里ちゃん可愛い、」

   ふふっと笑う。

   やがて時間も過ぎて下山をしている。


ヒュッテ・ロビー
   三年生が帰ってくる。

四人のスタッフたち「おかえりなさいませ。」
千里「おしっこっ!!」

   和裏先生の元へ行く

千里「先生ぇ、」
和裏先生「仕方ない、今話をしようとしたが…先に行ってこい。」
千里「ありがとうございますっ!!」

   トイレにかけていく。先生、僕も、先生私もとどんとんと立つ。

和裏先生「やれやれ…えーいっ!!みんなまとめて先に行ってこいっ!!」

   やれやれと笑う。

和裏先生「なぁ、佐久間先生…仕方のないやつらで…」
佐久間先生「先生っ、」

   耳打ち

佐久間先生「実は私もちょっとお手洗いに…」
和裏先生「先生もですかっ!!はいはい、行って来て下さい。」
佐久間先生「ありがとうございますっ!!」

   トイレにかけていく。

和裏先生「ん、みんないなくなってしまったか…では、私も行ってこよう。」

   結局、全員がいなくなる。


同・客室
   わいわい

千里「あの山の上とっても寒かったもの、結局冷えちゃったんだよ、僕らって…くしゅんっ!!」

   まるこまって震えている。

千里「僕、何も飲んでないのにさっきからおしっこばっかり出る。とっても近い…」
清原「それは僕もだよ、」
園原「僕も。」

   わいわい。

千里「くしゅんっ!!くしゅんっ!!くしゅんっ!!くしゅんっ!!くしゅんっ!!」
園原「ん、千里君どーした?君、風邪引いた?」
千里「なのかなぁ?」
清原「おいおい、大事にしなよ。今の夏風邪って治り悪くて凄くたち悪いみたいだよ。」
千里「えぇ、そうなの?じゃあママに帰ったらリンゴかりんの葛湯を作って貰おっと。」
清原「ん、」
園原「僕もそれがいいと思うよ。」
清原「千里君、お大事にね。」
千里「みんなありがとう。」

   微笑むが、徐々に顔が赤くなり、ぽわーんととろろんとして、二重瞼になってきている。


同・スタッフルーム
   麻衣、櫻子、桃代、梅生。クリームソーダを飲んでいる。

麻衣「くぅーっ、うまっ。働いた後のこれって凄く生き返るぅ!!」
梅生「本当ぉだね、」
櫻子「私も…」
桃代「さぁ、これからの時間はもう誰も来る人もいなければ…時々夜にお呼び出しがかかるときがあるけれど、それ以外は暇だし、私一人でも十分に大丈夫だからさ、櫻子と梅生ももう寝ていいわよ。仮眠をとって。明日に備えるわよ。なにかと言うときには起こすからね。麻衣ちゃん、あなたはもう今日は帰ってもいいわよ。明日又宜しくね。」
麻衣「はいっ、では、桃代お姉ちゃんに、櫻子お姉ちゃん、梅生君、又明日ね、宜しくお願いします。お疲れ様でした、ありがとう、ジュースもご馳走さまでした。」

   帰りの準備。荷物を持ってフロントを出て、上がろうとする。

   そこへ佐久間先生と和裏先生が慌てて血相を変えて階段を降りてフロントに飛んでくる。

麻衣「…どうしたのですか?」
佐久間先生「大変です、早く上へ来てください。」

   そこへ桃代も出てくる。

桃代「何事ですか?」
和裏先生「うちの生徒が一人、突然高熱を出して倒れてしまい、何度も吐いたりしてしまっているんです。」
佐久間先生「戻しと下しが酷いらしくて、お医者様呼ぶべきでしょうか?あぁ、どうすればいいのか…」
桃代「分かりました、すぐに私たちもその子のところへ参ります。」
麻衣「私も行きます!!」

   大声で

麻衣「緊急行ってきますっ!!!」


同・スタッフルーム
   櫻子、梅生も驚いて顔を見合わす。


   他、客室も麻衣の大声とどたばたとしたただならぬ雰囲気に、客同士でガヤガヤと不安そうに騒ぎ出す。麻衣と桃代は、急いで先生たちの案内で後に続く。

同・客室
   前景の人々が駆けつける。千里が布団に寝ている。

桃代「どうしたの?」
麻衣「何があったのですか?」
園原「さっき、お風呂から出た少し後にお茶飲みながらみんなでお話ししてたんだけど…」
清原「千里君、何度もくしゃみしたりしてて…その内お腹壊したってトイレに行ったんだけど…」
園原「戻ってきたら千里君、吐いちゃったんだ…。」
和裏先生「それから症状も酷いみたいで、」

   千里、飛び起きて吐く。麻衣、桃代が背を擦る。

和裏先生「こんな体で何度もトイレに起きるのも辛いだろうと、おむつをさせた。」
佐久間先生「何事?どうしたの?」
和裏先生「あぁ、佐久間先生…」

   全員、おどおど。 

麻衣「とにかく、私救急車を呼びます。こんなに酷いのですもの、病院に行って見て頂いた方がいいわ。」
桃代「そうね、私もそう思います。」
麻衣「私、連絡してきます。」

   部屋を飛び出す。千里、その間にも戻してしまっている。

千里「先生…苦しいよぉ…おぅっ…」

   和裏先生、佐久間先生、千里を労る。

園原「千里君…」
清原「お風呂入ったから余計にいけないんだよ…」
園原「元から風邪っぽかったんだ…。」


同・ロビー
   麻衣、走ってくる。そこに尾上

尾上「スタッフさん、どうしたの?何かあったんですか?」
  
   事情を聞く。

尾上「私も彼の所へ連れて行ってくれるかい?」
麻衣「え、でも…」
尾上「少し役に立てるかも…僕は研修医です。」
麻衣「お医者様…分かりました、こちらです。」

   尾上を案内。


同・客室
   尾上が千里を見ている。 

桃代「先生、どうなんですか?」
尾上「…。」

   診察をしている。

尾上「症状から見ますと…インフルエンザかもしれませんね。」
和裏先生「インフルエンザ…ですか?今時期に?」
尾上「はい。千里君、食欲はありましたか?どのような物を食べていましたか?」
園原「どんな物って…」
清原「みんな僕たちと同じご飯だよね。」
園原「うん…。朝は、パン…高原ミルク、ハムエッグ…。」
清原「そして夜はカレーライス…。」

   千里、ぐったり。

佐久間先生「千里君?千里君っ!!?」

   千里、意識を失う。

園原「千里君っ!!」
清原「千里君!!」
桃代「千里君、千里君?分かる?分かりますか?」
麻衣「千里君、千里君っ!!」

    そこへ救急車の担架。千里、急いで乗せられて運ばれていく。


諏訪中央病院・病室
   千里、容態は安定しているがぐっすりと眠る。

尾上「安心しました、もう大丈夫ですよ。」

   そこへ小口珠子、小口懐仁が岩波幸恵に案内されてやって来る。珠子は赤ちゃんを抱いている。
 
珠子「せんちゃんっ!!ちょっと、せんちゃんっ!!」 
小口「一体何があったんですか?どうしてこんなことに?」
幸恵「検査の結果…。千里君はインフルエンザで間違えありません。」
珠子「インフルエンザ、ですか?何故こんな時期に…」
幸恵「えぇ、この時期何故か今、茅野でとても流行っているんですよ。うちの息子も千里君と同じくらいの年ですが、ついこの間かかってしまって…この子と全く同じ症状が出たんです。」

   千里、薄っすら目を覚ます。

千里「…ママ?…パパ…?」
小口「千里っ!!」
珠子「せんちゃんっ!!」
幸恵「気が付きましたか?」
千里「僕ぅ…」

   少しぽわぁーとして考える。

千里「どうしたの?ここ何処?」

   キョロキョロ

幸恵「病院よ。」
千里「病院?」
佐久間先生「あなたは、凄い熱を出して意識を失ったの。分かる?」
和裏先生「どうだ?吐きっぽくはないか?お腹は痛くないか?」
千里「そうか…僕…」
幸恵「この体ではとてもじゃありませんけど帰すことは出来ないわね。入院手続きをしますので少し、ここでお休みなさい。では、お父さん…」
小口「はい、」

   幸恵、小口、出ていく。

佐久間先生「では、お母さんは千里君が元気になるまで病院の近くにビジネスホテルがありますのでそこへ…」
千里「え?」

   泣きそうになる。

千里「ママ、パパは帰っちゃうの?」
佐久間先生「帰りませんよ。ただ君が治るまで近くのビジネスホテルに…」
千里「いやだぁ!!嫌だよぉ!!」

   しくしく

千里「僕を一人置いていかないでよ!!」
珠子「せんちゃんっ!!赤ちゃんの様な事を言うんじゃありません!!朝になったら又ママも会いに来るわ、だから…」
千里「嫌嫌々、ママ行っちゃあ嫌!!ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、」

   珠子、背を擦る。

千里「ママっ、ううっぷ…」
佐久間先生「小口さん、まぁ、千里君にとって初めての慣れない地への遠出ですし、今の千里君はとても心細いと思いますので…。今日は特別にここに…私から先生にも話しておきますので。」
珠子「分かりましたわ、ありがとうございます…お手数かけます、先生。」

   千里、安心したように微笑んで目を閉じる。

珠子「んもぉ、本当にうちの子は仕方のない子なんだから。ほら、千里、あなたからもお礼を言いなさいよ。」
千里「先生、ありがとう…。」

   照れて恥ずかしそうに布団を被る。珠子、佐久間先生もくすくすっと笑う。


ヒュッテ・スタッフルーム
   麻衣、心ここにあらず。

麻衣「あの子大丈夫かやぁ?何か私、凄く心配…」
梅生「そんなの僕もだよ、」
櫻子「私もよ…でも、病院で見て貰っているからきっと大丈夫じゃない?」
桃代「えぇ。治ったらここへもう一度来てくれるって言ってたしね。」
麻衣「ほいじゃあ…」
桃代「あぁ…他のみんなは予定通り明日、帰るって。でも千里君はあんな体だから、今、ご両親も諏訪へ来てくれているらしいのよ。だから、」
麻衣「完璧に治るまではここに留まるのね。」
桃代「そう言うこと。」

   微笑む。

桃代「これを機にお友達になれればいいわね。」
麻衣「ほーね。お話しできるかやぁ?」

   うっとりと微笑む。

麻衣「千里君か…可愛い名ね…。」


諏訪中央病院・病室
   段々と夜が明ける。千里は落ち着いて熟睡。珠子が添い寝をしている。


ヒュッテ・ロビー
   麻衣、桃代、櫻子、梅生がフロントにいる。そこへ千里、珠子、小口。

四人「ようこそおいで下さいなして。」

   深々とお辞儀をしてから頭をあげる。

麻衣「あ!」

   千里、弱々しく微笑む。

珠子「家の息子がお世話かけました。お陰で無事元気になりました、ありがとうございました。ほら、千里もお礼言って。」
千里「ありがとうございます。」
麻衣「いえいえ、良かったな千里君、」
桃代「千里君が元気になって本当に良かったです。」
小口「では、私達はこれで…」
麻衣「お気を付けて、」
桃代「もう京都に帰られるのですか?」
小口「あぁ。」
桃代「折角なのです、少しの間だけゆっくりしていきませんか?お父様、お母様も折角要らしたんです。」 

   にっこり

桃代「この麻衣ちゃんと千里君は、同い年だし…仲良くなれるんじゃない?」
千里「君も?君は…何処の学校?」
麻衣「私は、この茅野市、宮川長峰小学校ってところだに。君は、京都なんよね?」
千里「うん。」

   少し物思い深げ


千里(宮川長峰か…僕が入る筈だった学校だよね…)
麻衣「ひょっとしてだけど…間違ってたらごめんな。以前、ひばりヶ丘両久保幼稚園にいたこんある?」
千里「えぇ?」
珠子「えぇ、ありますけど…」
麻衣「ならひょっとして…さくら組のせんちゃん?だったりして…」
千里「うん…」

   おどおど緊張気味に

千里「そうだよ…何で?」
麻衣「私っ!!ほれ、覚えとらん?あん時、クリスマス会の練習であんたに助けられたゆり組の柳平麻衣よ。」
千里「わぁーっ!」
麻衣「ちゃんとあん時は言えんかったけど…ありがとな。私を助けてくれて…。」
千里「いやぁ…」

   千里は照れてデレデレ。

麻衣「あんた、今は京都におるんだら?何だかすっかり京都の子になっちまったな。関西の男の子…」

   にっこり

麻衣「ほの、訛りがとっても可愛い。」

   再び悪戯っぽくにっこり

麻衣「私、麻衣ってんの。改めまして柳平麻衣だに。宜しくなして。」
千里「改めて、僕は千里、小口千里です。」

   両親も顔を見合わせて微笑む。

千里(柳平麻衣ちゃん…か。)

   頬を染めて俯き加減でクスクスと一人で微笑む。

珠子「まぁそうだったの!良かったわねせんちゃん。お友達と又会えて。麻衣ちゃんも家の子を覚えていてくれたみたいでありがとう。私もとっても嬉しいわ。」
麻衣「いえいえ。」
珠子「では、折角来たのですもの、このまま帰るのもしゃくね。この近くにホテルとかあるかしら?一泊してくわ。ね、あなた。」
小口「あぁ、それがいい。」
桃代「でしたら…」

   悪戯っぽく

桃代「宜しければうちにお泊まりくださいな。空き部屋もありますし」
小口「そうですか、珠子どうする?」
珠子「私はいいわよ。せんちゃんは?」
千里「うんっ、僕も。」
桃代「畏まりました、では、宿泊手続き致しますね、こちらへ…」

   桃代、両親、カウンターで受付している。

麻衣「せんちゃん、遊ぼ。」
千里「うんっ!!」

   二人、とんでいく。


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あきゅろす。
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