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石楠花物語小学校時代
かぜっぴき

   (翌日)

宮川長峰小学校
   登校の生徒が歩く。そこに麻衣、磨子

麻衣「磨子ちゃん、おはよう!!」
磨子「あ、麻衣ちゃんおはよう!!」
麻衣「昨日はありがとう、楽しかったな。元気?」
磨子「見ての通り!!」

   二人、笑う。

磨子「でも健司、きっとあの後家でくたばったわね。」
麻衣「言えてる…」


岩波家・健司の部屋
   健司、ベッドの中に入ってモゾモゾ

幸恵の声「健司、これ、健司!!いつまで寝ているの?もう学校よ、早く起きなさいっ!!」
健司「んー…っ」
幸恵「んもぉっ!!」

   階段を上がり、部屋のドアをグイッと開ける。

幸恵「健司っ!!」
健司「んー、お母さん…おはよう…」
幸恵「おはようじゃありませんっ!!早く…」

   布団を剥がす、健司、丸こまる。

幸恵「これっ、」

   健司の体を起こそうとして触れる

幸恵「あら?」

   健司の額に手を当てる

幸恵「健司、あなた…」
健司「お母さん…俺、頭痛いよ…」
幸恵「ちょっと待ってなさい、」

   下に降りてからすぐに戻る。

幸恵「これ!」

   体温を測らす。 


幸恵「まぁ…38.5!!こんなにお熱が…いいわ、仕方ない。今日は学校はお休みなさい。全くもう…」

   腰に手を当ててため息。

幸恵「昨日あんな無茶するからですっ!!お母さんは知りません、自分で学校にお電話なさいっ!!」

   出ていく。

幸恵「後で鍋焼うどんを作って来ますからちゃんとお食べなさいね。」
健司「はーい…」

   布団を被って目を閉じる。


小口家・千里の部屋
   千里と珠子。千里、ベッドに寝ている。

珠子「せんちゃん、でもママとパパとのお約束でしょ?学校へ少しでも顔出しに行きなさいね。」
千里「えー…どうしても行かないとダメ?」
珠子「えぇ、どうしても。」

   千里の手を引いて起こす。

珠子「さぁ、もしどうしても具合が悪いようなら帰っておいでなさい。」
千里「でもママ…僕、頭痛いよ…くらくらするよぉ…」
珠子「顔出すだけでも登校したことになるのよ。ほらっ。」

   千里、泣きそうな顔で着替えをして鞄をしょうと、マスクをして家を出ていく。

 
上川城南小学校・教室
   金子先生がいる。千里、ほわーっとしながら入ってくる。

千里「おはようございます…」
金子先生「あ、小口君おはよう…」

   千里、席につく

金子先生「君、どうしたの?」
千里「何でもありません…大丈夫です。」
金子先生「そう?」

   心配そう。

金子先生「まぁいいわ、それでは出席をとります。」

   名前を読んでいる。一人一人手をあげる。

金子先生「後藤秀明くん、」
後藤「はいっ、」
金子先生「小平海里くん」
小平「はい、」
金子先生「永田眞澄さん、」
眞澄「はい、」
金子先生「北山マコさん、」
マコ「はいっ、」
金子先生「鈴木真亜子さん」
真亜子「はいっ、」
金子先生「小口千里君、」
千里「…」
金子先生「小口千里、」
千里「…」
金子先生「聞こえていますか?小口千里君?」

   千里、ハッとしてキョロキョロ

千里「は?はい…はいっ!?」

   教室、クスクス


   授業が始まっても千里、心ここにあらず。


同・体育館
   跳び箱をしている。

金子先生「それでは次、後藤君っ。」
後藤「はいっ。」

   見事に跳び箱を飛ぶ。

金子先生「宜しいっ。では次、小口君っ。」
千里「…」
金子先生「小口千里君っ!!」
千里「はいっ…」

   位置について、笛の音と共に走り出すが、跳び箱の前で倒れてしまう。

千里「…」 
金子先生「小口君っ?小口千里君、どうしたの?ちょっとっ!!」

   駆けつけてきて千里の体を抱く。

金子先生「?」

   額に触ったり脈を図る。

金子先生「やだっちょっと君、熱があるじゃないの!!」

   千里、朦朧と目を開ける。

金子先生「いつからなの?朝から?」
千里「はい…登校前から…」
金子先生「具合の悪いときは無理して登校なんてしなくていいのよ!!どうして学校に来たの?」
千里「ママが…だって…僕のママが行けって…」

   ぐったりと眠る。

金子先生「今日はこれでもう帰ってゆっくりお休みなさい。おうちの方に連絡入れますからね。それまで医務室においでなさい。」

   千里を連れて体育館を出ていく。クラスメートガヤガヤとなる。

岩波家・健司の部屋
   幸恵、健司

幸恵「さぁ健司、では行きましょう。」
健司「えー…また行くの?嫌だよ俺…」
幸恵「まずはこうしてお熱を下げちゃいましょうね。それからゆっくりとお家で寝ていなさい。」
健司「はーい…」

   幸恵、健司に背を向ける。

幸恵「ん、おんぶする?」

   健司、恥ずかしそうに小さく頷く。

健司「ん…」

幸恵「でもまぁ、その前におうどん食べましょうか?力少し付けないとね。」
健司「ふーん…」


   しばらく後、健司、鍋焼うどんを食べている。

幸恵「どう?」
健司「とっても美味しいよ。でも…」 

   顔をしかめる

健司「これ食べたら本当に行くの?どうしても行かなくちゃダメ?」
幸恵「あなたのためなのよ。」
健司「…分かった。行くよ。」


蓼科温泉・女性用サウナ
   健司と幸恵。

健司「ねぇ、俺いつまでお母さんと入るの?」
幸恵「あら、もう一人で入れるの?」
健司「…。」
幸恵「うちのお風呂もまだ一人で入れないくせに。もう怖くはないの?お背中一人で洗える?」
健司「やめてよぉ…ほいだって…」

   小声で

健司「休みの時とか、俺くらいの年代の子はもう誰もいないじゃん…」

   汗びっしょりで顔真っ赤。

健司「お母さん、お茶飲みたい…」
幸恵「お、汗が出てきたわね。お熱は?」

   額に触れる。

幸恵「大分下がったかしら?上がりましょうか?」
健司「うんっ…。」

   二人、サウナを出る。


同・脱衣室
   着替える二人

幸恵「健司、どう?」
健司「うん、もういい。」
幸恵「そう、良かった。でも、家に帰ったらゆっくり寝てなくちゃダメよ。」
健司「うんっ。」

   話をしながら出ていく。


小口家・千里の部屋
   苦しそうにベッドで横たわる千里。近くに珠子。

珠子「せんちゃん、どうして我慢なんかしたの?ママは決して我慢してまで学校にいなさいなんて行っていませんよ。」
千里「だって…」
珠子「もう、そんなに具合が悪ければ顔出すだけで良かったのに。」
千里「ふぅぅぅっ…」
珠子「しょうがない子ね…昨日マラソンなんかに出て無理するからです。何か食べれる?」
千里「いらない…」
珠子「何か少しでも食べなくちゃ行けません。待っててね、今、雑炊か何か作ってくるわね。」

   出ていく。千里、寂しそうに布団に潜る。

千里(退屈だな…暇だな…頭痛いな…)

   近くにはCDデッキ

千里(何か聞こうかな…ん!)

   近くにはCDもある。

千里(チョコミント!!)

   少し赤くなってウキウキとCDをセット。CDが流れ出す。

千里(いい歌だよなぁ、この人たちって…その上、)

   にやにや

千里(可愛いよなぁ…)

   そこへ珠子

珠子「せんちゃん、お素麺煮てきたわよ。」
千里「あ、」

   正気に戻ってCDを消す。珠子、お膳をつくって土鍋を置く。

珠子「はい、せんちゃん。どーぞ。」
千里「ありがとう…」
珠子「何?」

   ニッコリ

珠子「又、チョコミント聴いていたの?」
千里「う、…うん…」
珠子「せんちゃんはチョコミントが好きねぇ。」

   フフっと笑う。

珠子「あなたもやっぱり現代を生きる男の子なのね、ほら。冷めない内に、食べれるだけお上がりなさい。」
千里「うん…」

   怠そうに起き上がる。

千里「頂きます。…」

   素麺を啜る。

千里「美味しい…」
珠子「ゆっくり食べなさい。」

   笑って出ていく。


岩波家
   麻衣、磨子。

麻衣、磨子「えぇっ、風邪?」
幸恵「そうなのよ、折角誘っていただいたのにごめんなさいね。今朝から熱があるのよ。」
麻衣「ほーですか、」
磨子「残念…」
麻衣「なら健司に、早く元気になるようにって伝えてください。」
幸恵「えぇ、ありがとう。なら、あなたたちもゆっくりね。」
麻衣、磨子「はいっ。」

   二人、家を後にする。


原村
   歩く二人

麻衣「ふーん、健司風邪かぁ…大丈夫かやぁ?」
磨子「きっとマラソン、飛ばしすぎたのよ。自業自得だわ。」
麻衣「まぁ、磨子ちゃんって薄情なのね!!」

   磨子、悪戯っぽく。

磨子「でもさ、折角原村まで来てこのまま帰るのも癪じゃん。遊んでこうよ。」
麻衣「ダメよ。学校の先生も両親も言っとるらに?学校が終わったら寄り道せずにまっすぐ帰れって!!」
磨子「じゃあこれは?寄り道って言わないの?」
麻衣「これは一言声かけたからいんよ。」
磨子「ふーん…」

   前方から清水千歳

麻衣「あ、」
清水「お。」

   立ち止まる。

清水「健司の友達?」
麻衣「えぇ、あんたも?」
清水「うん、僕は健司と同じクラスの清水千歳って言うんだ。これからあいつの家に言ってこれ、」

   連絡袋を見せる。その中にパンとデザートのゼリー。

清水「届けに行くんだ。」
麻衣「ふーん、健司、学校もやっぱり休んだんね。」
清水「何?君たちもやっぱり健司の家行ってきたんだ。」
磨子「うん、遊びに誘おうと思ったんだけど、風邪引いて熱がかなりあるって断られた。」
清水「そうか…じゃあ、僕は行くよ…」

   走っていく。

清水「又どっかで会ったらよろしくな。」
麻衣「イェッサァー!!」
磨子「およっと。」

   歩き出す。

磨子「仕方ない、じゃあ麻衣ちゃん、一旦家に帰ったら別のところで遊ぶか?横井とみん子誘ってさ。」
麻衣「ほーね。」

   バス停へと行く。


小口家
   眞澄がベルを押す

珠子の声「はいっ?」

   開ける。

珠子「あらっ、眞澄ちゃん。」
眞澄「千里君、今日早退しちゃったのでソフト麺と牛乳プリン届けに来ました。」
珠子「まぁまぁわざわざありがとう。ちょっと待ってね。」

   家の奥へ行って袋をもって戻ってくる。

珠子「何もないけどこれ、良かったら食べてね。」
眞澄「わぁ、ありがとうございます!!」

   にこにこ

眞澄「千里君に早く元気になるようにって伝えてください。…それでは。」

   丁寧に頭を下げて出ていく。珠子、微笑んで入っていく。

珠子の声「せんちゃん、せんちゃん、今ね、眞澄ちゃんが来てくれてソフト麺と牛乳プリンを持ってきてくれたわよ。」

   千里の部屋へ入っていく。


同・千里の部屋
   千里、目を閉じている。

珠子「せんちゃん、プリン食べる?」
千里「今は何もいらない…ママ…頭痛いよぉ…」

   すっかり弱気に泣き出しそう。珠子、千里を看病しながら封筒の中身を見ている。

珠子「っ!?」

   府と動きが止まってプリントと千里をまじまじ。

珠子「せんちゃん?」
千里「何?」
珠子「ママ、今はせんちゃん具合が悪いから怒りませんけど?」

   千里、薄っすらと目を開けてギクリ、珠子、テストの答案を千里に突きつける。

珠子「何をママが言おうとしてるか分かったわね。さぁ治ったらみっちりお説教ですよ。覚悟なさい、」
千里「ひぃーっ!!!」

   咳き込む。

千里「ごほっ、ごほっ、ごほっ、」

   珠子、背を擦る。

千里「ママ…」

   飛び起きる

千里「僕、気持ち悪い…」

   直後、吐き出してしまう。


柳平家・三つ子の部屋
   麻衣、糸織、紡。

紡「ふーん…健司君、熱出したの?」
糸織「あの子はしょっちゅう何かと風邪引いてるよな。」
麻衣「確かに…ほいだもんで健司の母さん、健司にこの間からスイミングやらせたらしいに。」
糸織、紡「スイミング?」
麻衣「えぇ。風邪引きにくい強い子にするためですって。」
紡「ふーん。でもまぁ風邪もさ、この間の無茶なマラソンもあるかもしれないけど、一番の原因はほのスイミングじゃないだ?」
麻衣「えぇ?」
糸織「ほーほー、慣れんこんやってさ、疲れとストレスが来たんよきっと。」
麻衣「あぁ…」


小口家・千里の部屋
   千里、やっと落ち着く。

珠子「せんちゃん、急にビックリしたわ。大丈夫?」
千里「うん…もう平気…収まったよ…」
珠子「なら良かったわ…大丈夫かしら、」

   キョロキョロ

珠子「インフルエンザや食中毒じゃないわよね?一度お医者様に…」
千里「大丈夫だよ、ママ…いつもの事だろ…僕、熱が出ると必ず一回は吐いちゃうだろ…」

   ベッドに横になる。

珠子「ゆっくり休んで、せんちゃん…さっきからずっと行ってないけどおしっこは?行きたくないの?」
千里「行きたくない…」
珠子「しっかり布団かけて…汗かくことね。ストーブ、つけてくわね、何かあったら又呼びなさい。」

   出ていく。

千里「ママっ?」
珠子「何?」
千里「あのさ?」

   恥ずかしそうに手招き。千里、珠子に耳打ち。

千里「お願い…」
珠子「んまぁ!!」

   微笑む。

珠子「でもいいわ、今は具合が悪いから…特別ですよ。ちょっと待ってね。」

   部屋を出ていく。千里、心配そうな顔になる。

千里(でも、困っちゃった…どうしよう、もうすぐ音楽会の楽器選考会なのに…ピアノの競争率は激しいんだよ…僕、ピアノやりたいよ…)

   布団に顔を埋める。

千里(僕、ピアノが出来ないんなら音楽会なんて出たくないっ!!)

   そこへ珠子

珠子「はいせんちゃん、あったわよ。昔おじいちゃんが使っていた…尿瓶」

   千里、顔を真っ赤にして口の前に指を立てる。 

千里「シッ!!ママ声が大きいよ!!」
珠子「ごめんごめん、」
千里「んもぉ、いくら子供とは言え、僕の性格知ってるだろ?僕はナィーブな男の子なんだ!!」

   声を潜める

千里「それじゃあ耳打ちした意味ないじゃん…そんな大きい声で言われちゃあ、読者のみなさんにも聞かれちゃうだろ。」
珠子「そうね、ごめんなさい。今度からは気を付けるわ。」
千里「んも、頼むよ。」
珠子「皆さんも…せんちゃんの秘密は、内緒にしてあげてね。」

   口の前に指を立てる。

上川城南小学校・教室
   数日後。千里、マスクをして登校。

金子先生「はいみんな、席について。これから、音楽会の、楽器選考会を始めたいと思います。今年の音楽会の曲目は…」

   黒板に書く

金子先生「ドイツ舞曲と、歌は唄に決まりました。では、」

   様々な楽器の候補者が手をあげ、どんどんと決まっていく。

金子先生「それでは次、ピアノを希望する人…」

   眞澄、千里を始め、他五人の女子が手をあげる。

金子先生「では、じゃんけんね。みんな前へ出てきて!!」

   七人、黒板の前へ出る。

千里(あー、ピアノ…僕はピアノをやりたい…でもどうしよう、僕、じゃんけんに弱いんだ…)

   そっと手の皮をつねる。

千里(パーか…よしっ。最初はグー、か?)
七人「グーとパーで別れましょ。」
千里(そっちかぁ!!)

   千里はパー、他はみんなグー

千里(ん?)
全員「別れたよ!!」
金子先生「それでは、ピアノは今年は小口君に決まりね。」
千里(ぼ…僕?僕…僕、僕だ!!)

   嬉しさに涙が込み上げる

千里「やったぁ!!」
金子先生「小口君、嬉しいのは分かるけど、とりあえずは落ち着きなさい。」
千里「はい、ごめんなさい…」

   席についてもるんるん。

千里(やったぁ、僕がじゃんけんに勝っちゃったなんて…なんか夢のようだよ…嬉しいな…嬉しいな。)

同・廊下
   給食時間。千里、後藤と共に給食当番でお汁を運んでいる。

後藤「でも千里、お前ってじゃんけん強いな、一抜けだぜ?」
千里「まぐれだよ…僕普段はじゃんけんって弱くて負けてばかりなんだ。でも、今日は何故か勝っちゃった。」
後藤「ふーん、お前のほの“やりたぁーいっ!!”って思う強いプライドが勝ったんじゃね?」
千里「へへっ。」
後藤「てかお前ってピアノ弾けるんだな。」
千里「うんっ。あれ、話してなかったっけ?」

   鼻をクンクン

千里「でも、今日の給食はなんだっけ?とてもいい臭い…」
小平「今日は、ナポリタンミートソースとメンチカツ、フルーツ酢の物だよ。」
千里「へぇー、海里君、よく全部メニュー覚えてるんだね。」
小平「給食の事ならみんな何でもチェック済みさ。」

   小粋に。千里、咳をする。

小平「お前、まだ咳出るな。」
千里「うん…今回の風邪なかなか治らないの…」

   咳をしている 

後藤「大丈夫か?」
千里「うん、大丈夫。熱ももうないし、お腹もペコペコだから。ただ少し、鼻と喉が…だけ。」
後藤「又ぶり返すなよ。」
千里「気を付ける、ありがとう…」

   行列、教室に入っていく。


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あきゅろす。
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