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石楠花物語小学校時代
新しい生活

宮川長峰小学校・教室
   湯田坂先生、千里。

湯田坂先生「それでは、突然ですが…今日からこのクラスで勉強をすることになります、転校生を紹介します。小口君、自己紹介を。」
千里「はい、初めまして。京都から来ました小口千里です。皆さん今日から宜しくお願いします。」

   大きな拍手。

湯田坂先生「ありがとう。じゃあ小口くん?」

   席を案内している。

 
   (休み時間)

健司「ふーん、転校生って男だったんだね。お前、幼稚園のチビだろ?小口千里ってんだ。俺、改めて健司。岩波健司。宜しくなして。」
磨子「私は磨子。田中磨子だに。」
末子「末子だよ、吉岡末子。」
横井「俺は哲仁、横井哲仁だ!宜しくなっ。」

   じわじわにやにや

横井「お前幼稚園のチビなんだって?女みたいだな…苛め概がありそうなやつだぜ…」
千里「え、え、えぇ?」
磨子「これっ、てつ!!」

   頭を平手打ち。

横井「痛ってぇ!!」
磨子「こんなやつのいうこん気にせんでいいでね。」
末子「安心しな、口ではこいこん言ってるけど根はうんといいやつだで。」
麻衣「あんた…」

   千里をまじまじ

麻衣「ここで又、会えるなんて奇遇ね。」
千里「あ!麻衣ちゃん!」
麻衣「ほ、私は麻衣。せんちゃんずら?」

   みんなに

麻衣「なぁ見て、この子が以前に話した車山ヒュッテのせんちゃん。幼稚園のせんちゃんでしたぁ!!」
全員「へぇー。」

 
同・帰り道
   前景の人々。千里を交えて帰っている。楽しそうにお喋りして笑っている。

小口家

千里「あ、じゃあ僕んちここだから…みんなきょうはありがと。又明日ね。」
健司「は?」

   家と千里を見る。

健司「お前、この家の子だったのかよ?」
千里「うんそう。ここ、僕のおじいちゃんの家なんだ。じゃあね。」

   手を振って家に入る。

   他五人、ポカーンとしていつまでも千里を見つめている。


小口家
   それから何ヵ月もの月が過ぎていく。


   1999年2月。
   千里、泣いている。小口、珠子も集い、中には吉三。亡くなっている。

千里「おじいちゃん、おじいちゃんっ!!」
小口「父さん…」
珠子「ついに…お亡くなりになってしまったわね…」
小口「あぁ…仕方ないよ、病気だったし、何しろとしも年だ。長生きしたよ。」
千里「おじいちゃんっ!!」

   泣き崩れる。
 
   静かに家族葬が行われる。千里、涙を拭う。小口、優しく千里の肩を持つ。


千里の夢の中
   千里、駄々っ広い古い和室で眠っている。武家屋敷のよう。

千里「ん、…ううっ…ん?」

   薄目を開けて辺りをキョロキョロ

千里「あれ?ここは何処だろう…ママ?パパ?」  

   枕元で足音。

千里「誰?」

   箪笥や棚の引き出しを開ける音。姿はない。 

千里「ねぇ、誰なの?ここは一体何処なの?返事してよ!」

   とたんにシーンとなる。

千里「っ!!?」

美代の声「千里ちゃん…千里ちゃん…」
千里「その声は…美代ちゃん?」
美代の声「美代を置いていかないでよ…どうして美代を置いて行っちゃうの?美代に一言も知らせてくれないの?」
千里「ごめん、美代ちゃん、ごめんよ…だからお願い…もうやめて…」
美代の声「千里ちゃん…もう美代の事なんか、嫌いになったの?忘れちゃった?」
千里「そんなことないっ!!」
美代の声「約束したわよね…大きくなったら千里ちゃんのお嫁さんになるって…。でもね、美代はもう大きく離れないの…」

   千里、強く目を閉じる。声はだんだんと大きくなる。

美代の声「だからね、美代…千里ちゃんが大きくなるまで待ってるね…千里ちゃんが大きくなったら…」
 
   千里、思わず目を開ける。千里の目の前に美代がいる。

美代「結婚しようね。」
千里「ひぃーっ!!!」

   美代の隣に吉三も立って薄笑いをしている。

吉三「千里…なぜわしの死に際に立ち会わなかったのじゃ…わしはずっとお前を待っていたのに…。」
千里「おじいちゃんっ…」

   布団に潜る。

千里「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!!」
 
   泣いて震えている。


同・和室
   珠子、小口と川の字で眠っている。千里、汗びっしょりではっと目覚める。


同・縁側
   千里、小口が腰掛けている。珠子、おねしょ布団を干している。

珠子「んもぉ、せんちゃんったら又おねしょして…」
千里「ごめんなさい…」
小口「大丈夫、千里…その内に治るさ。まだこの子も三年生なんだし、珠子、そう焦ることもないよ。新しい環境にもまだ馴染めていないだろうし…な、千里。」
千里「…。」

   珠子も縁側に腰を下ろす。

珠子「でも心配なのはあれよ、せんちゃん、おじいちゃんが亡くなって以来、ずっと魘されてるみたいですもの…」
小口「そうだな…それは私も心配だ…。ちょうどいい、じゃあ、これを期に…」


宮川長峰小学校・教室
   卒業式の日。

湯田坂先生「と言うわけで、たったの三ヶ月でしたが、小口千里君は又転校してしまうことになりました。」
千里「折角みんなと仲良くなれると思ったのに、とても寂しいです。でも、僕の転校先は諏訪市の城南小学校です。茅野からは遠くはないみたいなのでみんなよかったら又遊びに来てください。ありがとうございました。」
麻衣「当たり前ずらに!!」

   立ち上がる。

麻衣「私達はへーあんたと仲良しなんだだもん!!きっと遊びにいくに。だもんでほんときには又遊ぼうな、ね、みんな。」
全員「うんっ!!」
千里「みんな…」

   涙ぐんで微笑む。

千里「ありがとう…。本当にありがとう。」

   頭を下げる。

千里「皆さん、先生っ、お世話になりましたっ!!」
湯田坂先生「小口君、本当に短い間だったけど楽しかったわ。元気でね、城南小学校に行っても頑張るのよ、逞しくて優しい子になってね。」
千里「はい、先生っ。先生のお言葉、肝に命じます。」

   湯田坂先生、ふふっと笑う。

湯田坂先生「君ってなんか、時々古風な言葉遣いをするわね。」
千里「え?」

   クラスメート、全員も笑う。

千里「えへへっ、ふふ。」

   千里も泣き笑い。


小口家
   諏訪市城南。

小口「千里、何度も何度もすまなかったね…。でも、今度はもう大丈夫だよ。しばらくここに落ち着こう。今度からは、新しく明るい、家族五人だけの生活を始めていこうね。」
珠子「そうね。ね、せんちゃんっ。良かったわね、やっと落ち着けるわね。」
千里「うんっ、」

   深呼吸をする。

千里「ここもとってもいいかも。僕好きになっちゃうな。寧ろ京都よりもいいかも。」
珠子「うふふっ、まぁこの子ったら!!」
小口「このぉ、全くついこの間までブーブーいって泣きべそかいてたやつが、順応性のいいやつ!!」

   千里の髪の毛をいたずらっぽく撫でる。

千里「痛いっ、痛いよちょっとパパぁ、やめてくれよぉ。」

   笑ってふざけ合いながら一家、新しいアパートへと荷物を入れると共に自分達もわいわいガヤガヤと、千里は少しはしゃぎながら無邪気に入っていく。


   終わり。




   





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