珊瑚 18 「はい。あの子の具合は・・・・・・そうですか。はい。ありがとうございます。ではまた・・・」 がちゃん、と奏流は軍のそこそこ優秀な電話を少々乱暴に切った。 あの子・・・ニーナは、今だこんこんと眠り続けている。 心臓にも脳にも異常は無く、呼吸はしているし、点滴で栄養は取ってるが、意識はどうしても戻ってくれない。 原因を突き止め、それを取り除くことがこの旅の最大の目的と言ってもいい。 (原因・・・・・・・) なんとなく、は分かっているが。 アレキサンダーも、少ない食事と排泄、休眠のとき以外はちっとも動かないそうだ。 まるで石像のように、じっとニーナの傍らに佇んでいるのだとか。 これはまるで・・・ (洗脳・・・精神的な障害・・・・・・・) 対処しきれない苦痛や重荷を背負ったとき、自己消失や失神などを起こすことがあるというのは聞いたことはある。 平安時代とかのお姫様が血とか死体とかを見てあれ〜・・・とか言って気を失うようなあれ。 そしてちょっと真面目に勉強してみれば・・・ 出てくる出てくる、 ウツ病、パニック障害、ストレス障害、エトセトラ。 ・・・たとえば、感受性豊かな小さな子供が、 目の前で、父親を殺されたりしたら・・・ ・・・その感受性豊かな子供と、 その瞬間に、精神と肉体を共有していたのなら・・・ 考えたくもない。 そう言うように、頭を振る奏流。 こればかりは傷の男≪スカー≫を怨む。 (・・・あのとき) (涙を流したのは・・・ニーナだったのか。アレキサンダーだったのか。それとも・・・) 気休めにしかならないが、花を贈り続けるのは、せめてもの行動。 目覚めたとき、何も無いがらんとした部屋では不安しか要素が無いだろう。 だから病院に無理言って犬を居座らせ、唯一の家族をそばに置きたかったのだ。 (神様どうか。あの小さな娘の未来を殺さないで) そんな事を思った自分に、 人間とは、自分とは、随分と都合のいい生き物だと自嘲する奏流。 自分という存在が不安定であり、神様のご加護によって生きているといっても良いことを知っていてなお、 神への祈りを続けるのだから。 (・・・・・あの子の運命を、あなたに委ねられなかった私をお許し下さい。) けれど、後悔はしていない。 たとえそれが、あの子の苦しみを引き伸ばしただけであっても。 怨まれることでも。 助けられるかもしれない命を、助けたかった。 だから助けた。 それだけでは、無責任だといわれたとしても。 (ただ突っ立っているだけなんて、簡単には出来ないのだから) [*前へ][次へ#] |