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珊瑚
12


庭でニーナと手遊びをしていた奏流は、ふと家の窓を見る。

頭を抱えて悩んでいる様子のタッカーがいた。



(タッカーさん、いい人だよね)



ニーナに微笑む姿は、良い父親のそれだった。

家族を養うために(名誉や研究費を含んだとしても、)取ったのであろう国家錬金術師の資格。

それを維持しようと研究に躍起になるのは理解できる。

いや、尊敬すら浮かぶ。



なのに、なのにこんな人が、自分の奥さんを使って練成をして、

人語を解する合成獣(キメラ)を造るに至ってしまったのか。



奏流はふいに、膝に乗せたニーナの小さな体を抱きしめる。



(人の本質は、他人には分からない。分からない)



今回の査定で、行き詰ってしまったら。

自分の娘を使って、練成をする可能性が、あるのだ。



部屋にはちらっと見たが、練成陣や法則のサンプルが幾つも散らばっていた。

あの中には妻を使ったときのも――娘を使おうとして書き上げたものも含まれているかもしれない。



「おねぇちゃん?」


不思議そうな顔をしてこちらの顔をニーナが覗き込む。



妻を練成獣に変え、そのまま死なせた時に、後悔はあったはずだ。

残酷な話だが、「妻ではなく、別の人間で作れば良かった」とか。


魂の入っていないニーナの体を作り続けることになるぐらいに。


あの逆さまの人間が張り付いた合成獣を想像して、ぶるりと体を震わせた奏流。



おねぇちゃん?とニーナが再度繰り返した。

はっとなって奏流はにこっと笑いかけて抱きしめる力を強めた。

ぎゅーっとされたニーナはきゃっきゃと笑う。



「おねぇちゃん?どうしたの?」

「んー・・・ニーナがかわいくて抱きしめたくなっただけー。次なにしよっか」

「お絵かき!」



ニーナは開けっ放しの窓から見える机に乗った紙の束とクレヨンを指して言った。

そっかー、と奏流は優しくニーナの頭を撫でた。



「何描くのー?」

「おとうさん!」



とっくに決めていたかのように嬉しそうに答えたニーナの、

きらきら笑顔に圧された奏流はそっか、と短く答えた。



奏流の腕からぬけたニーナは、ぱたぱたと玄関に走っていった。


それを見送った奏流はまた一角の窓を眺める。

悩みと疲れの溜まった表情の男が、ドアの開く気配がした瞬間に、父の姿に変わった。




あんなにいい人なのに。

こんなにかわいい子を育てた人なのに。

こんなに良い子に愛される人なのに。


それを裏切る選択を、してしまうことになっている。




残酷だな、と考えつつ、

奏流はニーナの帰ってくるのを静かに待っていた。




―――明日は雨―――






−−−−


あの逆さまの人間が張り付いた合成獣、とは、旧アニメで出てきたタッカーの合成獣の事です。

旧アニメ見てない方はすみません・・・。


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あきゅろす。
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