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なくした喪失感(1,8)
情けない……。
敵から身を隠せる場所まで逃げ、岩肌に背を預けながら、スコールは唇を噛み締めた。
土埃や煤[すす]が彼の服や顔を汚し、至る所に切り傷や火傷が見られるが、一番酷いのは利き手である右腕を負傷してしまった事だろう。
これでは、戦う以前にガンブレードも握れない。
息をする度に喉が痛む。もしかしたら、イミテーションが放ったファイアのせいかもしれないな――と、スコールは眉を潜める。
何もかもが致命的で、今の自分が惨めに感じてしまう。SEEDであるならば、こんなミスなどあってはならないというのに……。
そう思えば思うほど、悔しくて悔しくて堪らなかった。
「くっ……」
まずは移動しなければ。血を滴らせる右腕を庇い、スコールは立ち上がりかけ――
死神のイミテーションに見つかった。その手からは、すでに光球が生まれている。
間に合わない!
「しま――」
これまでか、とスコールが諦めかけた瞬間、
「はぁッ!」
目の前で光が弾けた。
歪な悲鳴をあげて文字通りに砕け散っていくイミテーションを背景に、彼の薄氷のような淡い青の瞳がこちらを見つめていた。
「無事か?」
「…………ウォーリア」
ぽつりと漏れた仮初めの名前に、彼――ウォーリアがゆっくりと武器を下ろし、安堵したように目を細めた。
未だに状況が読み込めずに目をしばたたかせる少年に向かって、ウォーリアが声をかける。
「ティナがかなり複数の敵と応戦している君の気配を察知したのだ。後退していると知り、気づけば私は君を助けようとホームから飛び出したようだ」
「『ようだ』って、アンタ……自分の事だろう?」
先程まで危機的な状況であった事を忘れ、スコールは思わず半眼になってしまった。自分の気持ちも量れないのかアンタは。そう言い募ってやりたいが、助けてもらった手前、言うのは憚[はばか]られる。
そんな少年の様子を知ってか知らずか、ウォーリアがさっとスコールの体へ目を走らせた。
ついで顔をしかめる。
「これは酷いな。すぐに手当てをしなければ」
「こんなの、どうって事……ッ、ゲホッ」
息を吸った途端に喉に痛みが駆け抜け、スコールは顔をゆがめた。軽く咳き込めば、今度は体の傷に響く。
辛そうにヒューヒューと喉を鳴らす彼を、ウォーリアがどこか不安げな瞳で見下ろす。
何故――そう思う前に、スコールは彼から抱き上げられていた。
横抱き。つまりは「お姫様抱っこ」というやつを。
「お、下ろせ……!」
「駄目だ。君は自分が思っている以上に酷い怪我をしている。それに、ここは安全な場所ではない。新たなる敵が来る前に撤退した方が良い」
「……了解」
妙な反発信が芽生えかけたが、彼の言っている事は間違いなく正しくて、スコールは不服そうにしながらも小さく頷いた。
歪みの出口へと進む。その間は終始無言で、スコールの居心地を悪くさせた。怒っているのかいないのか、ウォーリアの無表情な顔からは窺い知る事はできない。
落ちたりする事がないようにしがみつく少年に、ウォーリアが目線を真っ直ぐ前に向けたまま言葉を放った。
「君が後退しているようだと聞いた時……私は、また仲間を失ってしまう≠ニ思ったのだ。……おかしな話だ。君達はちゃんと生きているというのに」
「…………」
ウォーリアには記憶がない。もしかしたら、彼はかつて、失われた記憶の中で大事な仲間を失った事があったのかもしれない。それを心が覚えている――だからか、とスコールは納得した。
あの不安そうな目はそういう事だったのか。
「……もしかしたら……そうした経験を、したのかもな……」
「もしそうならば、私はもうこのような思いを、なるべくならばしたくない。させたくはない」
スコールを抱えるウォーリアの指先に、力がこもったような気がした。
「だからスコール。君も無茶は禁物だ」
「アンタもな」
きっと、誰もがそうした喪失感を抱えて生きているのだろう。
思い出せない記憶の中でちらつく黒髪を思い出し、スコールは光の騎士の首へ腕を回し、ぎゅっとしがみついた。
「……君に言われるとは思わなかったな」
「…………悪かったな」
あ と が き
「スコールのピンチ」を書いた結果、589にするつもりがちゃっかりウォーリアさんがその座を奪っちゃってました(違)
お暇様抱っこなんてしちゃって仲間大好きウォーリアさん何してんの(お前だろ)
意外とシリアスに。
仲間をなくした喪失感というのは、きっと012で味わったものなんじゃないかなー…と。
皆それぞれいろんなものなくしてますよね
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