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とある一日の朝の光景(4,10)
「セーシルッ! なにしてんスか?」
「あ。ティーダ」
薄く開いていた戸口から顔を覗かせたティーダが見たのは、寝癖で絡まってしまった髪を必死に梳かしているセシルの姿だった。
見られたのが恥ずかしかったのか、セシルは恥ずかしそうに苦笑を浮かべる。
「ごめん。ちょっと手間取っちゃって……」
「オレは気にしてないからいいっスよ。大変そうだなぁ」
「まぁね」
ふふ、と笑うセシルに、ティーダは何か閃いた顔で彼の元へと駆け寄ってきた。キラキラした目で右手を差し出す。
きょとんと首を傾げるセシルに、
「オレが髪梳くよ」
「え?」
「っていうか、やりたい。セシルの髪、触ってみたくてさー。すっげー綺麗だし、さらさらしてて触り心地よさそうっス!」
「何だ。それくらい言ってくれればいいのに」
セシルの言葉に、ティーダの表情がぱあっと明るくなる。そんな人懐っこさがどこか犬を連想させ、可愛らしく思う。
尻尾があったら千切れんばかりにブンブン振っていそうだ。
「じゃあ今言う。セシルの髪触ってみたいから、セシルの髪透かせてほしいっス!」
「うん。お願い」
セシルが手にしていた櫛がティーダへ手渡される。うきうきとした顔でそれを握り、銀に輝く髪を一房手に取る。
瞬間、ティーダが「うわー」と顔をしかめた。
「すんげー絡まってる!」
「でしょう? 僕の苦労、分かった?」
「分かった」
よーしやるぞー、なんて声をあげて、ティーダが丁寧に慎重に櫛で絡まった髪を解いて優しく梳いていく。
大雑把にやるどころか、その手はいつになく真剣で。ひっかかって頭皮を引っ張らないように少しずつ寝癖をなだめていく。
そんなティーダを見ながら、セシルはどこか穏やかな気持ちでのほほんと大人しく座っていた。
手馴れているなぁ、と感じ、そういえば彼は身嗜みに気を遣う方だったっけ、と思い出す。朝、よくスコールと一緒に洗面所の鏡と睨めっこしている場面を何度か目撃したこともあるし。
だからか、とセシルが納得しているうちに、
「できたっスよ」
終わったらしい。
元通りになった自分の髪を見て、セシルはティーダへ微笑みを返した。
「ありがとう、ティーダ。助かったよ」
「へへっ。どーいたしましてっ」
ニッと歯を見せて笑うティーダの顔が、ずいっとセシルへ迫った。
反射で距離を離すように仰け反ったセシルへ、彼はいつものように人懐っこい雰囲気で告げる。
「もしセシルがイヤじゃなかったら、これからも俺が髪梳かしてもいい?」
「えっ……」
「いや、セシルがイヤじゃなかったらっスよ?」
「うん……」
目を見開くセシルにティーダがわたわたと両手を振って言葉を繰り返す。が、それでも困惑は消えない。
……しばらくして、セシルは柔らかくふわりと微笑した。皆が好きな、優しい笑顔だ。
「ティーダがいやじゃなかったら。お願いしてもいい?」
「オレはイヤじゃないっスよ! つーか、先に言ったのオレだし! よろこんで!」
「ありがとう」
純粋に喜びをあらわにするティーダを、セシルはニコニコと温かい眼差しで見上げていた。
それから、ティーダは何かとセシルの部屋に行っては寝癖を直して髪を梳くようになったのだった。
あ と が き
発端は『セシルの髪って絡まったら大変そう』っていうイメージから
何故ティーダなのかは、お洒落さんなところありそうだから、そういうの気にしそうだなぁって。スコールは気恥ずかしくてできなさそうだしw
ティーダかわいい←
セシルまじ秩序のお兄さん
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