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嫉妬に濡れた@(×兼続+三成※R-12。未遂。酷い
兼続は、一枚の紙切れを手に普段近づく事のない荒れ果てた空き家の前にやってきた。
眉を潜めつつ、紙切れの文面に目を落とす。
『この場所まで来られたし ただし 誰にも悟られぬよう』
自分の文机に置いてあったので自分あてなのは分かるが、誰が書いたのか、兼続にはさっぱり見当がつかない。
ただ――何かある。それを確かめるために、兼続は危険を承知でここまで来たのだ。引き返すわけには行かない。
「……よし」
紙切れを懐にしまい、今にも崩れ落ちそうな門をくぐった。先にある屋敷の中へ足を踏み入れて、薄暗い空間を睥睨する。
人の気配は――八人。どうやら複数のようだ。表情を引き締めて、兼続は声を張り上げた。
「ここに来るよう書いたのはお前達か! 私に何の用だ。あるあらば姿を見せるのが礼儀であろう!」
瞬間、四方八方から下品な笑い声を響かせて男達が姿を現せた。兼続が予想していた通り、八人。
身構える兼続を、リーダーらしい男が上から下へと舐めるような視線を走らせる。それは不気味な恐怖を連れて兼続の背筋に冷たい汗を伝わせた。
にやり、と男が笑う。
「噂どおりの男だなぁ……直江兼続さんよ」
「何の用だと訊いている。質問に答えぬとは不義に値するぞ」
兼続の鋭い眼差しが男を射抜く。だが、男は怖気づく様子もなく「ああ、用事な用事」とケラケラ笑った。
「てめぇよぉ、上杉謙信のー、色小姓してたんだって?」
「い、いろ……?」
ぽかんとした顔で聞き返しかけ――兼続の顔は真っ赤に染まった。
羞恥ではなく、怒りに。
「そのような事があるはずないだろう! あのお方は毘沙門天に全てを捧げていた。噂だとはいえ……無礼ではないか!」
「あーはいはい分かった分かった」
だだでさえ声が大きい部類に入る兼続に大声を上げてほしくないのだろう。男は手をひらひらと手を振って言葉を遮り、
「――でも、アンタはどうなんだ? 誰かに“ご奉仕”してたんじゃねぇの?」
「そのような……ッ」
「俺らと同じ下級武士の生まれだったくせに……大層なご身分にまでのし上がってよぉ……」
一方的な嫉妬。憎しみ。それによって曲がりに曲がった憶測を並べ立てて勝手に怒りを募らせていく男に対し、兼続は言葉を告げずに唇を引き結んでいた。言ってしまえば、さらに相手の怒りに火をつけるだろうと考えたからだ。
ああ、分かった。と、男の節くれだった手が兼続の顔に触れる。
「やっぱりあれか? こぉんなきれーな顔してるからか? それでいろんな奴たらしこんでたんだろ」
――事実、後の時代で「長高く容儀骨柄並びなく、弁舌明に殊更大胆なる人なり」と語られるほど、兼続は容姿端麗で才知ある武将だった。
白い肌もさらさらとした黒髪も、墨色の瞳も、ふっくらとした唇も彼の魅力の一つだ。その清い意志も。
軍略から政治から取り仕切る才能。教養の高さ。誰もが惹かれてやまない武将――直江兼続。
ただ、一筋縄でいかないのがこの男だ。
「汚らわしい手で触るなッ!」
バシッと、兼続が男の手を振り払う。そのまま、流れるような動きで懐から愛用の護符を取り出す。
「私を愚弄するなら好きなだけするといい。私は揺るがぬ。お前達のような下劣な不義の輩になど、私の心を汚す事はおろか、折る事もできぬ!」
「テ、メェ……いってーじゃねぇかよッ!」
下級武士とも言えど武士は武士。力強く空を切り裂いて繰り出された拳をかわし、兼続は護符を投げつけた。剣のような鋭さを持ってそれは、素早く避けた男の頭を掠めていく。
もう一枚……と、懐に手を入れ、
「暴れんなよ」
「!」
喉元に、小刀が突きつけられた。
頭[かしら]に反抗したのだ。黙ってみていられなかったのかもしれない。上背のある兼続よりも背の高い男が、自分を見下ろしていた。
案外、自分は頭に血が上っていたのかもしれない――と、兼続は顔をしかめた。
「……にしても、本当に良い顔した野郎だなぁ。そんな噂が流れるのも頷ける」
はあ、と吐きかけられた息がやけに酒臭い。顔を動かせば刃が当たるために、避けたくても避けられない。
身動きできないからか、他の部下達もしげしげと兼続を観察する。
「こんないい顔の奴なら抱いてもいいかも」「いい遊びになりそうだよな」「いいのかよ、上杉の執政だぜ?」「いいんだよバレなきゃ」
「与介ぇ、どうする?」
どうやらそれが頭の名前らしい。与介と呼ばれた男が、兼続の髪結いの紐を解きながら白い歯を見せて笑う。
「決まってんだろ。イロイロ溜まってるしなァ……」
ぱさり、と結い上げていた兼続の黒髪が、肩へと落ちた。
冷たく、告げる。
「脱がせ」
「なっ!?」
冗談じゃない!
群がってくる男達の手から逃れようと大男の脛を蹴飛ばすがびくともしない。さらに腕を退かそうと手をかけて力を込めても、こちらもぴくりとも動かない。
自分の力に相手が負けていると分かった男が、兼続を後ろから羽交い絞めにした。小刀がなくなったために命の危険はなくなったが――
違う意味で危険に晒されている……!?
「離せッ! やめろ、私に触るな不義な輩め! く……ッ」
「あーあーうるせー」
「んぐ……!?」
与介が兼続に噛ませた手ぬぐいは頭の後ろで結ばれ、外せないようになった。必死に声をあげるが、くぐもったそれしか出てこない。
これから何をされるか分からない。未知の恐怖に、体が、心が震える。
激しい攻防の末に、ようやっと着物の合わせ目が解かれて引き締まった上半身が露わになった。
今度こそ、兼続の顔が羞恥に赤面する。
「おっ。いいじゃんいいじゃん?」
戦[いくさ]でついたのだろう、体についた傷跡すら美しい。そろりと這わされた手は冷たかった。
その冷たさにびくりと肩を跳ねさせる兼続に、いくつもの笑う声が重なって響く。
「感じた? やらしいねぇ」
「ん、んん……ッ!」
「さぁーて……」
懸命に睨みつける兼続の前で、与介が腕を組んだ。
「どう料理してやろうか……?」
続く
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