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嫉妬に濡れたA(×兼続+三成※R-12。未遂。酷い)
「くそ、世話の焼ける……ッ」
苛立ちを滲ませた表情でつかつかと刻み足で歩く赤茶毛の男――石田三成は、どこか悔しげに小さく舌打ちをして、手元のくしゃくしゃになった紙切れを睨みつけた。
こんなに綺麗な字を書く人物を、三成は一人しか知らない。
『少し用事ができた。出かけてくる』
間違いない。我が友、兼続のものだ。上杉の屋敷にある彼の自室にぽつんと置いてあったのだから、当たり前ではあるのだが。
嫌な予感がして来てみればこれだ。兼続は何か厄介な事に巻き込まれている。三成はそう直感した。彼は嘘をつけないのだ。だからこそ、隠し事が苦手ですぐにばれてしまう。
誰が来るかも分からない部屋にあった置き手紙――それが必要なほどの長い時間、兼続はどこかへと出掛けたのだ。もし誰にも知られずに帰宅できたら、この手紙は自分で処分するつもりだったのだろう。
残念な事に、それは三成に見つかってしまった。
「俺に隠し事ができると思うな……分かりやすすぎるのだよ、お前は」
――何とか目撃情報を拾い集めて後を辿れば、三成の目の前に荒れた空き家が現れ、そこには最近誰かが中に入った痕跡が残っていた。生え放題の草が人に踏まれてくたびれている。
間違いない。ここだ。
三成は護身用の小さな鉄扇を手に慎重に近づき――――
扉が開いた。
「兼続!」
逆光でよく見えないが、日に照らされて赤く輝く茶の髪と小柄な背丈は間違いない。兼続はまさかの人物の登場に目を見開いた。
「んんんん……!」
「い、石田三成ぃ!?」
予想外の珍客にどよめく中、部下の一人に「ぐぁ!」三成の小さな鉄扇が直撃した。
怒号が飛ぶ。
「貴様ら……俺の友によくもこんな狼藉を働いたな……!」
兼続の姿は、今や中途半端に着衣が纏わりついている状態だった。しかも、床に四つん這いに組み敷かれている。
仲間思いで熱い魂を秘めている三成にとって、その光景を目撃して怒り狂うのは当然だった。
しかし――相手は八人。三成は、武将とはいえ、それ以前に彼は文官である。頭を働かせる事が仕事である彼には力がない(秀吉を片手で持ち上げたと聞いた事はあるが)。
さらに鉄扇を取り出すが、それは護身用であって戦で使う巨大なものではない。長さも足りなければ強度も足りない。
そして多勢に無勢だった。
「んんんんっ、んー! んー……!」
「馬鹿ッ、俺が友を見捨てると思うのか!」
通じたのか。
台詞はかっこいいのだが、如何せん状況がまずい。兼続を取り押さえる大男を含めた二人と与介を引いているとはいえ、三成は五人を相手に立ち回っているのだ。
攻撃力のない武器では、戦で使う鉄扇のようにはいかない。
「っと、捕まえたー!」
「離せ屑がッ!」
右腕を取られてもがく三成の姿が、人垣の隙間から見えた。
与介が、笑う。
兼続に「噂」を持ち掛けた時と同じ顔だった。
「あんたもきれーな顔してるんだなぁ。あ。それであの鬼左近を取り込んだんだろ? そうだろ?」
――確かに、三成もまた容姿端麗で、「女性のよう」「体が細い」と、非常に武将には似合わない容姿をしていた。そして、豊臣に最後まで忠義を貫いた義の武将であったと、後の世でそう評価されるようになった。
肩にかかる赤茶毛の髪。鋭さを持った茶の瞳。引き結ばれた薄い唇。細面な顔立ちで、線の細い、細くすらっとした体格――確かに、三成は美男の部類である。
頭もよく教養もある。周りから比べれば陰るかもしれないが力もあり、さらにそれを上回る知能があり、内に秘めた熱いものがある。それが石田三成という男だ。兼続はそんな三成に惹かれて友となった。
――どうやら、与介は人の神経を逆撫でる事は得意らしい。
「そんなわけないだろう痴れ者が!」
「……あーあ、顔はいいのに口が悪いたぁもったいねぇ」
「黙れ。貴様の汚い顔から吐く言葉など聞きたくも」
バシィッ
今のは何の音だ――そう考えてから、兼続は唖然とした。三成の左頬が赤く腫れている。
ぶたれたのだ。あの与介という男に。
「っ……様……!」
「うっせーよ」
三成の長い髪をわし掴みにして、兼続の下へと突き飛ばす。微かにブチッと音がして、彼の赤茶の毛が勢いに負けて抜けたのだと遅れて理解する。
どたんっと床に倒れる三成を二人の男が押さえつけた。自由な足がバタバタと暴れ、それを与介が足首を掴んでやめさせる。
「んんんっ! んー! んー……!」
「おいおい動くなって」
友を助けようともがきだす兼続を、大男が力をこめて床へと押し戻す。護符を取り出そうにも手を動かす事すらできない。
与介が二人の顔を交互に覗きこむと、ふむふむと何度も頷く。
「どっちも上玉じゃねーか……せっかくだ。楽しもうぜ」
舌なめずりをする男が、まるで獲物を喰らう蛇を彷彿とさせた。
続く…
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