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キミに祝福を(♀マス+KAITO)
 ――今、何故このような状態になっているのか、誰か切実に説明してほしい。
 初代男性ボーカロイド、もといカイトはだらだらと冷や汗を流しながらどうコメントしていいのかどうか迷ってしまった。

「あ、の……マスター?」
「ん?」
「なんで俺を押し倒しているんでしょーか……?」

 今現在、カイトはソファにて我がマスターから女性だというのにあり得ない馬鹿力(失礼)で押し倒されていた。そのせいで、自然と見上げる形となっている。
 はっきり言ってイヤな予感しかしないです。マスター。
 その言葉を飲み込み、カイトはマスターの顔をじっと見つめた。そんなマスターはただ笑みを浮かべるばかりで、その、不安しか感じない。
 ごくりと唾を飲み込んで一ミリも体を動かさずに固まるカイトの青い髪を撫で、さらに笑顔を深くする。

「んー……こうしたかったからかな?」
「なんで疑問形ですかッ」
「じゃあ、カイトの誕生日だからかな」

 どきり、と胸が高鳴ると共に顔が熱くなっていくのを感じ、カイトはこのままオーバーヒートするのではないかというくらいの危機感まで抱いた。
 それを知らずにマスターが上からぎゅっと抱きついてきて、ますますカイトは顔を赤くさせる。

「わっ! ちょ、ちょちょっと待っ……マスター!?」
「あはは。カイトってば可愛い」

 マスターにそう言われながら頭を撫でられ、カイトはむすっとふてくされた表情になった。まるで犬に対するそれのように感じられるから。
 まぁ、一応マスターは自分の主というわけなのだが。
 カイトが頬を膨らませているのにクスクスと笑いつつ、マスターはさらに彼の身体を抱きしめる。

「生まれてきてくれてありがとね、カイト。あたし、カイトと出会えて良かった」
「マスター……」
「今まで辛かったよね。心細かったよね。カイトは、わたしにとってサイコーのボーカロイドだから」

 生まれたときはまだ認知度なんて全然なくて。
 歌うために生まれてきたのに、マスターになんて滅多に会えなくて。
 挙げ句、失敗作呼ばわりまでされてきて。
 それは他に量産されたカイト型のボーカロイドにも言えるだろうけれど、やはりここにいる『カイト』はたった一人なわけで。
 カイトはあるはずのない心が暖かく満たされていくような感覚と、目元が潤むのを感じていた。

 ありがとう。
 生まれてきてくれてありがとう。

 そんな言葉が、こんなにも嬉しくて暖かいものだったなんて。

「マスター…マスター…俺、俺……本当にここに来られて良かったです。生まれてきて良かったです。ますたぁ……!」
「うん。うん」

 ぎゅっと力強く抱きしめ返してくるカイトの頭を優しく撫で続けながら、マスターはただじっとしていてくれた。
 そんなカイトが落ち着くまでとことん甘やかした後、二人(正確には一人と一体)は向き合う形でソファへ正座していた。端から見れば妙な構図である。

「さてカイト。まだまだお誕生日はこれからだよ〜?」
「は、はぁ……」
「カイトは二月十四日から十七日まで誕生日期間なんだから、その間とことん甘えても良いよ。もちろん、あたしのできる範囲でだけどさ」

 何か欲しいものある、とマスターが首を傾げながら問うと、カイトは恥ずかしそうに目を逸らしつつもじもじと指先をいじりながら、ぽつりと、

「アイスケーキというものを、食べてみたいです……」

 語尾に行くに従って声が小さくなっていく我がボーカロイドの言葉に小さく吹きだし、マスターは満面の笑顔で頷いてみせた。

「いいよ! じゃあ、さっそく買いに行こうか!」

 明るいマスターの声に、カイトが一気に目を輝かせる。

「はい! 行きます! アイスケーキ買いに行きます!」
「じゃあレッツゴー!」
「はい!」






 ――happy birthday.

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あきゅろす。
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