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意外と弱い(4,5,9,10+8)
リビングのテーブルを囲んで、セシルとティーダが睨みあっていた。その様子を、バッツとジタンがにやにやと笑って見守っている。
彼らの手にはトランプのカード。テーブルにはそのトランプの山。
暇を持て余していた四人は、バッツの呼びかけによってトランプのババ抜きをしているのである。そんなのでいいのか秩序組。
そ……と、トランプ一枚を手にしたセシルの手が動く。ティーダが持つ二枚のトランプの間を行ったり来たりしたりして、
「これかな」
左のトランプを取ろうとした瞬間、ティーダの手がぴくりと動いた。
途端、セシルの口元が弧を描く。
「……やっぱり、こっち」
「あぁぁぁぁーっ!?」
右のトランプを取れば、手元のそれと同じ赤のハートの9。その一組を積み上がった山の上へ追加すると、ティーダがジョーカーを手にがっくりとうなだれた。
「ぁぁぁぁ……あー、もー、オレ負けてばっかじゃないっスか。ひでーよ」
「ティーダは顔とかに出てて分かりやすいからね」
「セシルも分かりやすいけどなー」
「えっ」
トランプをかき集めながら放たれたバッツの一言に、セシルは目をぱちくりとさせた。ジタンが「そーそー」と同意する。
全然自覚がなかった。
「……だから僕、ティーダの次に負けていたんだね」
何故だろう、と首を傾げると、ジタンからびしっと指さされた。
「それだよ、それ。その“癖”が出てるんだよなー」
「何かあると首傾げて考えたりするからさ、それで(なんかあんなー)って分かっちゃうんだよ」
「うわ……そうだったんだ」
だからなんだ、とセシルが言うと、バッツとジタンが笑いながら「仕方ない」と返した。
「意外とセシルって弱かったんだなー」
「意外とって……。じゃあ、こういうのに強いのって誰か分かるのかい?」
「ウォーリアとクラウドは強いな。やっぱり」
「えっ!? ウォルもやったことあるんスか!?」
「ないない。クラウドは何回かあるけどさ」
ティーダの驚きように、バッツが苦笑しながらそう応える。
クラウドは冷静ながら案外ノリのいい人物だとバッツ達は認識している。トランプでゲームをする姿が容易に想像できた。
……確かに強そうだ。表情なんて変えもしないで余裕で勝ちに行くに違いない。
「オニオンはやや強め。ティナちゃんは普通って感じかな。勝って負けての繰り返し。ま、オレはティナちゃんに負けっぱなしなんだけどな」
「紳士だから?」
「おう!」
セシルの言葉に、ジタンが元気よく大きく頷いた。常に女性へ華を持たせようとするのが彼らしい。
ティーダが目を輝かせてバッツへと身を乗り出す。だんだんと誰が強いのか興味を持ち出したらしい。
「なぁなぁ、弱い人は? フリオとか?」
「フリオニールも確かに弱かったりするけどさ。意外に弱いのは――」
バッツとジタンが顔を見合わせて、にやりと笑う。
「「スコール!」」
「えっ」
「まじっスか!?」
カードゲームが得意らしいスコールはあまり表情を変えない。こういった心理戦を交えたトランプのゲームにも強いように思えた。
顔になんて絶対に出したりしないよな、スコールって。と呟くティーダに、セシルも思わず同意する。
バッツが「逆、逆」と、手をひらひら振った。
「確かに表情とか変わんねーけど、何かあると目に出るっていうか」
「眉間にシワ寄せたりしちゃうわけ。で、凄みが増す!」
「分かる! 手元にジョーカーあった時なんか、ぜぇーったいに心ん中で(ジョーカーとれよ絶対とれよぜっっったいとれよ)って思ってるんだぜ絶対!」
「で、オレらがジョーカー引かないと(何で引かないんだ!)って思ってるんだぜ、絶対! そしてますます眉間にシワが寄る」
「分かりやすいよな」
「な!」
そう言って腹を抱えて爆笑するバッツとジタンにつられて、ティーダも笑い出した。セシルも悪いと思いつつも、つい小さく吹きだしてしまう。
まさに彼は『目は口ほどに物を言う』という言葉を当てはめたような青年なのだ。何かある度に内心で百面相したりツッコミを入れているのだと思うと、その年相応さに心が和む。
「うっわもう間近で見てみたいっスね。それ!」
「僕も、ちょっと見てみたいかもしれない……」
「だろだろー!?」
「もう面白いのなんのって……!」
四人が肩を震わせて笑っていると、
「……俺がどうした?」
風呂から上がったらしい、ラフな服装に身を包んだスコールが四人を見下ろしていた。次の瞬間、「ぶふっ」とバッツ、ジタン、ティーダが吹き出す。
怪訝そうに眉間へ皺を寄せるスコールへ、セシルは微笑しながら答える。
「トランプのババ抜きやポーカーとか、そういったものに強いのは誰かなって話をしていたんだよ」
「……なるほど……」
スコールの顔が苦々しいものに変わる。キッと鋭い眼光で睨まれたバッツとジタンが、さらにけらけらと笑い出した。仲良しな彼らにしてみれば、もう慣れたものなのだろう。セシルとティーダは苦笑するしかない。照れ隠しである事は承知している。
「なぁなぁ、スコール! 一緒にババ抜きしようぜ!」
「そういうのはパスだ」
「「けちー」」
「うるさい」
「生き抜きも必要っスよ、スコール」
「あんたな……」
二人にティーダも加勢に加わり、スコールがセシルへ助けを求めるような目線を向けた。「なんとかしてくれ」と、その目は雄弁に語っている。
セシルは小さく肩を竦めた。セシルだって、彼とゲームをしてみたいのだ。
「僕からも頼むよ。……ダメかい?」
「……っ」
まさかの展開に、スコールがたじろぐ。
「おれとジタンは抜けるから、一回だけセシルとティーダと三人だけでやってみろって!」
バッツの駄目押しに、スコールが「……少しだけだぞ」とぼそっと呟いた。やりぃ、とジタンとティーダが小さくハイタッチし、セシルは嬉しそうに目を細めた。
「それにさ」
バッツが、悪戯っ子のような笑みを口元に浮かべた。
「ティーダには余裕で勝てるだろ?」
その言葉に、スコールの目がティーダを一瞥する。それから、その滅多に笑わない彼が好戦的で挑発的な笑みを浮かばせる。
「……確かに、ティーダには負ける気がしないな」
「なんだよそれ!? ひっで!」
ぜってー負けねぇっス!
勝手に言ってろ。
そんな十七歳コンビの会話を背景音楽にして、バッツとジタンがセシルへ笑ってみせた。
「楽しいだろ?」
「セシルも楽しんでるか?」
「うん。ものすごく」
セシルも笑って頷くと、二人の笑顔がますます深くなった。
今日は、平和だ。
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