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愛をばらまいてやろう(政兼+α)
口を開けばやかましいほどに義だの愛だの気概だのと言っていた、あの「愛の武将」直江兼続。
――生まれ変わっても、魂がまっさらに、綺麗にならなければ、根本的なものは変わらないらしい。
相も変わらずうるさい。
「政宗の手料理はいつも美味だな。……ふむ。山犬にも愛はあったか」
「貴様にはもう食わしてやらん」
「なぜだっ!?」
本当に分からないのだろう。墨色の瞳を真ん丸にさせた兼続が、向かいに座る政宗を見つめた。ぽかーんと口まで開けている。
そんな年上の青年を睨みつけながら、政宗は片手で頭を抱えた。言わなければ分からないのか、こやつは。
恥ずかしさと照れ臭さを押し殺し、政宗は口を開いた。
「貴様はわしの恋人じゃ、馬鹿め!」
――言葉の裏に、「愛がないはずがない」と含ませて。
兼続は目をぱちくりと動かした。数秒ほど固まり――ゆっくりと政宗の言葉を咀嚼し、理解して――
「な……ッ、ッ!?」
ぼっと火がついたように彼の顔が赤く染まった。頬どころか、耳までもが赤い。
政宗もまたつられて赤面してしまい、つい噛みつくように叫んでしまう。
「何故そこで赤くなる!? 恥ずかしいではないか!」
「お、お前が……っ、お前から……そんな言葉が聞けるとは思わなくて、だなっ……その……っ」
「…………」
はつらつと朗々とした声で言葉を並べ立てる達者な口はどこへやら。兼続の口調はしどろもどろでたどたどしく、拙かった。
――てっきり、言い包められかねないほどの言葉となって跳ね返ってくるのではないかと思っていたのだが……。
政宗は口元のにやつきを堪えるのに精一杯だった。知っていたが、やはり可愛らしい。
「正直者であるがゆえ、うっかり思った事を述べるその口は相変わらずよなぁ」
「……す、すまぬ……そう、だな。政宗は私を愛してくれているのは、分かっているのだがな。つい、あの時のように、お前に嫌味じみたことを言ってしまう……気をつけねばならないな」
これはしたり……、と、がっくりしたように呟く兼続に、政宗はゆるゆると首を横に振った。
「良い。気にしておらぬわ」
「しかしだな……」
「それがお前の良さでもある。それにな、その……わしらは、前のように嫌味やら憎まれ口やらを言い合う方が、似合いじゃ」
兼続が「ふふっ」と肩を震わさせて笑った。
「……そうだな。私たちにはそれがいいのかもしれない。たまに、喧嘩をするのもな」
「そうだそうだ。だから早く食べてしまえ。冷めればまずくなってしまうぞ」
「そうだな。よし、いただくとしよう!」
元気よく頷いた兼続は、にこにこと笑いながら再び箸を動かし始めた。おかずを口に運んではおいしそうに目を細めている。
政宗はそんな彼の姿を目の保養という名のおかずにして、白米を口に運んだ。
――いつもより、おいしく感じた。
「――という話を政宗から聞いたのだが……しがらみがなくなったせいか、余計に仲良くなってはいないか?」
「そうですね。でも、政宗殿も兼続殿も幸せそうで、私は嬉しい限りです」
「……まあ。あいつが暗い顔をしていなければ、俺は別に構わん」
「? ……では、もし兼続殿が暗い顔をしていた時は――」
「無論、政宗を叩きのめすに決まっている」
「あ、あの! 政宗殿を叩きのめしたら、もっと兼続殿が暗くなるのではないでしょうか……!」
「あ」
「ふふ。兼続殿は愛されていますね。私は、そんな兼続殿と三成殿が大好きですよ」
「……ふん」
いつの時代でも、貴方はこんなに愛されている。
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