【22/料理】(ハレソマ+ライアニュ)
休日と比べれば人は少ないが、そこそこ混んで来た平日正午のレストランで、二人用の席にてハレルヤはアニューと向かい合っていた。アニューは和風ドレッシングのかかったサラダを一口食べ、幸せそうに頬を緩める。これでテーブルにある全ての皿が空になった。
「今日は和風ドレッシングを買って帰ることにします。あと夕飯は和風ハンバーグに決定です」
「いや、どっちも今食ってたじゃねぇか」
「ライルにも食べて欲しいから」
ハレルヤは眉間を寄せながらも「あ、ああ、そうかい」と返事をする。どうやら今日のアニューは洋風朝食から、昼食・和風ハンバーグと和風ドレッシングをかけたサラダ(普段はホワイトドレッシングだ)夕食・和風ハンバーグ以下同文になるらしい。
彼女がお昼にそれらを食べたことなど知らないライルは、おいしいぜアニュー、と笑顔で言うのだろうと思った。ハレルヤはその様子を想像し、なんとも言えない気持ちに表情を歪ませる。
「どうかしました?」
「お前さ、もう少しこう、たまには自分のために過ごしたらどうだ?」
「……私のために、ですか?」
専業主婦アニュー・ディランディは、首を傾けて疑問を口にした。それに、専業主夫ハレルヤ・ハプティズムは「そうだよ」と少し苛立ちを孕んだような答え方をする。
「いっつもいっつも朝から晩までライルライル言ってんだろ」
「ハレルヤもソーマソーマ言ってるわ」
「言ってねぇ」
「言ってます」
むう、とアニューは唇を尖らせる。アニューが和風ハンバーグを食べた理由は、昨日テレビを見ていたライルが『和風ハンバーグが食べたい』とぼやいたからだった。確かに、昨日料理番組でしていた和風ハンバーグはおいしそうだった。
「三食中二食が同じなの何度目だよ」
「……それは、正直わからないですけど……」
「…………」
しょんぼりと肩を落として俯くアニューに、ハレルヤは溜め息を吐く。
通路を通り過ぎる店員と目が合った。傍から見れば喧嘩した恋人に見えるのかもしれない。
「た、しかに、ハレルヤが言うように、知ったらライルもあなたみたいに言うと思います」
でもっ、とアニューは力強く言って顔を上げる。
「ライルのため、は、私のため、ですからっ」
ハレルヤは少し目を丸くした。不覚にも、彼女のその意見に納得したからだ。
暫し思考を巡らせてから、頬杖をついてハレルヤは小さく呟く。
「…………確かになぁ」
「え?」
「テメェがヒトにそんなこと言える立場かよ、って思っただけだ」
「てめぇ、って、わ、私っ?」
すみません、と再び顔を下げてしまったアニューを笑い、ハレルヤは立ち上がる。
「違ぇよ、自分って意味の方だ」
「ど、どういう意味ですか!」
バッグを持って慌てて立ったアニューは、口の両端を不自然に曲げながらハレルヤの背を追う。レジの手前で振り返ってそんなアニューを見たハレルヤは、にやけてしまうのを我慢しているんだなと理解する。
「俺、昨日の夜もペペロンチーノ食べてんの」
アニューがついに我慢しきれず口元を手で覆った。
店員が伝票をせっせと打っている。ハレルヤは財布から五千円札を出し、キャッシュトレイに置く。
「小銭ねぇわ」
「あっ、はい、大丈夫です、あります。それより、なんで昨日の今日でペペロンチーノを?」
きらきらと光るアニューの瞳は、恋愛話に花を咲かせる女子高生のもののようであった。
「辛さが足りん、って言われてよ」
合計金額が表示された途端、アニューは待ち構えていたかのように小銭を出してくれる。ハレルヤは釣銭を受け取りそれを財布に突っ込む。レシートを貰おうとしたアニューを遮り、店員へ必要ないことを伝えて店を出た。
「す、すみません。いつも有難うございます」
「辛くねぇって言われても、そもそも俺は甘党で、ソーマの野郎とは味覚が違ぇのに。あいつは俺にどうしろっていうんだよ」
「ハレルヤこそ、自分のために過ごしたらどうです。辛いの我慢するの大変じゃないですか?」
アニューが肩を震わせている。ハレルヤは、すっかり立場が逆転したなと内心でごちた。
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