【01/撫でる楽しみ】
同じ高校へ進学して、大学もお揃いにして、出来る限りの時間を一緒に過ごそう。
なんていう馬鹿みたいな約束を実行する僕らの、二度目のラストスパート。
センター試験三日前、ハレルヤが突然僕の部屋に飛び込んで来た。
「ど、どうかした?」
「わっ、悪ぃアレルヤ。どーっっっしてもわかんねぇとこあってよ……」
苦笑いを浮かべて低姿勢でそう言うハレルヤに、僕はふわりと微笑んだ。
試験の十日前くらいから、ハレルヤが僕に気を遣うようになった。
同じ大学ではあるものの、学科が違い倍率も僕の方が上だからだろう。模試で絶望的な判定を貰っているわけではないし、正直そこまで気を遣ってくれなくても良い。君は君らしく、僕に遠慮なく接してくれ。
「どこ? 国語?」
「……ああ、古典」
「ふふ、まただね」
「うっせぇ」
ベッドに座って教科書を広げたハレルヤ。その向かいに腰を下ろし、僕はハレルヤの視線を追った。
ハレルヤの苦手な古典が、僕は得意だった。
僕の苦手な数学は、ハレルヤの得意なものの一つだけれど。
なるべく分かり易く教科書の内容を教えてあげれば、ハレルヤはふんふんと頷きながら知識を吸収していく。
その様子を見ることは僕の楽しみの一つだ。
不意にハレルヤが手を叩き「分かった……!」と目を煌かせた。
何度このやり取りを繰り返して来ただろう。
僕は緩む口元をそのままに、ハレルヤの頭を右手で撫でる。
「よく出来ました、ハレルヤ」
「ガキ扱いすんな、バーカ」
モヤモヤが解消されたことが余程嬉しかったのか、ハレルヤが歯を見せて笑ってくれる。
その可愛い笑顔を見ながら、僕もまた嬉しさに笑顔を作った。
(090209)
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