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世界警察CB2(110110)
ニール・ディランディ。二年前に突如失踪した男の名だ。
当時彼は、ティエリアをかばい右目を失明したところだった。故に狙撃手として仕事がこなせず、密かにストレスを溜めていたと、思う。
ハレルヤは、電気屋の向かいに位置しているカフェから、外観を眺めながらニールのことを考えていた。横断歩道を人々が歩んで行く。付近に赤毛の姉妹の姿はない。勿論、ニールの姿も。
「本当に来んのかよ」
「知らねぇよ。それが判るなら張り込んでねぇ」
テーブルの向こう側にいるライルが答える。
ライルがここにいれば、電気屋へ現れるニールもどきは確実にニールということになり、行動にも迷いが生じない。ライルはというと、店員と姉妹へ武力介入する任務を背負っていることもあり、カフェへ行くことを快く承諾してくれた。
「もし本当に兄さんだったら、最初になんて言うんだよ」
「それはこっちの台詞だ。おめぇは十年以上音信不通なんだろうが」
「だがお前は恋人だ」
「恋人か。あっちはもう、そう思ってねぇだろうがな」
はっ、とハレルヤが笑いをはいた。ライルは目を瞬かせると、コーヒーを一口飲んでから、真剣な表情でハレルヤを見やる。
「十年以上会っていない俺が言っても意味ねぇかもしれねぇが、兄さんはそういう男じゃねぇと思うんだが」
ライルの言い分に、少し俯き気味のハレルヤは首を縦に振る。その様子を見たライルは呆れ気味に「自信でもないのかい」と訊ねる。
「ねぇよ」
ハレルヤは頬杖をついて改めて電気屋を見やる。そしてガラス越しの世界の変化に気付き、ハレルヤは目を剥いた。
電気屋の一階ロビーに赤毛の女二人が目に入った。
「あの姉妹っ、」
「来たのかっ?」
ハレルヤはテーブルを叩いて立ち上がり「遅ぇんだよ!」と声を張る。グラハムとの戦闘で受けた打撲が痛いだの、そういうことはどうでもいい。
「待てっ、ハレルヤ!」
「っ、なにしやがる!」
突如手首を掴んで来たライルを睨み、ハレルヤは舌打ちをする。真摯な瞳でこちらを見上げるライルは、財布を握り締めて「すまん」と言った。
「先日アレルヤが食いまくったせいで、今の俺には金がない」
「……ああそうかい」
分かったよ、とハレルヤは肩を落としてスーツのポケットから携帯を取り出す。電子マネーの残高はまったく分からないが、生憎財布は持ち合わせていない。俺はやるぜ、と胸中で呟いた。
伝票を片手にレジへ向かうと、レジで財布を開いて凍り付いている男がいた。ハレルヤとライルは、彼を見た途端、同じように身体を固まらせ――そして我慢できずに声をあげた。
「ニール!」
「兄さん!」
「っ!」
深刻な顔をしているニールがこちらを向く。どんな戦場でも汗一つかかなかったニール・ディランディが、今、冷や汗を額に浮かべていた。ハレルヤは思わず唾を丸呑みした。
「ど、どうかしたかよニール……」
「……ハレルヤ、」
世界警察らしく緊張感のある再会だ、などと思っている暇はなかった。
ニールは財布をコートに突っ込むと、ハレルヤの右手を両手で握った。二年前と何も変わらない恋人に見つめられ、思考が停止する。
「すまん、金を貸してくれ。今の俺には金がない」
ライルが「おお」と感嘆の声を発した。
十年以上会っていなくとも確かに双子だと、溜め息を吐きながらハレルヤは思った。
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