[携帯モード] [URL送信]
サードニクス-夫婦の幸福-。【1】




【サードニクス-夫婦の幸福-】






「なあ、XANXUS……本当によかったのかぁ?」
「しつけえ」

何度目かもわからぬスクアーロからの問い掛けに、些か煩わし気にXANXUSは短く答えた。これ以上聞いたら機嫌を損ねてしまうと察して、スクアーロは渋々尋ねるのをやめた。

「……本当は来たくなかったのかカス」
「ちがっ、そぉーじゃねえ!!」
「なら何だ」
「贅沢過ぎて少し、落ち着かなかっただけだぁ……おまえと2人きりで出掛けるのなんて久しぶりだし、ましてや泊まりときてる」

「…………」
「贅沢過ぎてこえぇくらいだ」

そう言って穏やかに微笑むスクアーロはこの外出が主の突然の思い付きであると信じて疑わなかったが、そんなスクアーロの様子にXANXUSは微かに眉を動かした。……大体、思い付きなんかで泊まり掛けでわざわざジャッポーネに何て来るかよ、明日はてめえの誕生日だろうが気付けカス――そんな主の思いも虚しく、当の本人は全くもって気付く気配が無い。
それ程までに、自身への執着が薄かった。


「結構雰囲気のある旅館だなぁ」
「悪くねえ」

考えるだけ無駄であると思い、XANXUSは思考を停止させた。隣を歩くスクアーロは感嘆を溢しながら付近の旅館と見比べて、小さく一つ頷いた。
それから、XANXUSに続く様に自動ドアを潜り抜けて靴を脱いだ。出迎えて来た係の者に靴を預けて受付で簡潔に名前のみを告げると、直ぐに合点がいった様子で頭を下げた。程無くして女将が奥から出て来ると、二人を部屋まで案内した。その間スクアーロはキョロキョロと館内を見渡し、自分達以外に客が居る気配が無い事に疑問を覚えたが、ピカピカと輝く滑らかな木造の廊下やその彩りに満足して、前を歩くXANXUSを愛おしむ様に眺めた。二人きりで出掛けるのが久しぶりだからきっと、温泉に連れて来てくれたのだ。以前ヴァリアーの皆と来た時にオレが温泉を気に入ったのを覚えて居てくれたのだとスクアーロは感激したが、半分は不正解である。
未だに自分の誕生日を忘れ切って居た。

「ごゆっくりどうぞ」
「おう」

深々と頭を下げて襖を閉める女将を見送った後、スクアーロは手にしていた大きめのボストンバックを下ろした。二人の荷物は全てこのボストン一つに纏めてあったので、当然XANXUSは手ぶらである。

「少し休んでから行く?もう行く?」
「……行く」
「了解、上着寄越せよ」

スクアーロはハンガーを手に取りXANXUSのジャケットを受け取ると、皺にならない様にと上から下へと幾度か掌を滑らせた。続け様に自らのジャケットも脱ぎ、ハンガーに掛けて壁へと預ける。
それから互いに服を脱いで浴衣に着替えると、部屋を後にした。



「此処って何個くらい温泉あるんだぁ?」
「知らねえ」
「じゃあ、行ってからのお楽しみだな。楽しみだぜぇ!!」

「はっ!泳ぐなよカス」
「誰が泳ぐかあ!!」

わいわいと(主にスクアーロが)騒ぎながら訪れた露天風呂には誰も居なかった。貸し切りとあって、益々と気分が良くなったスクアーロは袖に入れておいた簪を取り出して口に咥えながら帯を解く。羽織っていた浴衣を籠の中にそうっとしまうと下着を剥ぎ取った。XANXUSも服を脱ぎ終え、二人は湯気の立ち込める浴場へと足を踏み入れた。炭色の岩を詰めた床の感触が馴染みの無いそれで、スクアーロは幾度か足踏みをした。

「なんか気持ちいいなぁ、これ」
「さっさと洗え、いつまでも突っ立ってたら身体が冷えるぞ」
「それもそうだな」

「……オレに構うな、自分でやる」
「そーかあ」

スクアーロの視線が物言いた気な色を浮かべた所でXANXUSは制し、残念そうにしながらも素直に諦めた。隣同士、並んで座りながらシャワーを頭に当てて手際良く髪を洗う。備え付けのシャンプーが髪に合わなかったのか、僅かな違和感を感じるものの仕方無しにとコンディショナーを髪に馴染ませた。あっという間に流し終えれば髪を一纏めに捻り上げ、持ち込んだ簪でそれを固定する。長い前髪と僅かな後れ毛が濡れた肌に張り付いた。
視線を感じて目を向ければXANXUSが此方を見詰めて居た。

「どうしたぁ?」
「別に」
「あ、背中。背中流してやるよ、なっ?」

「ああ」

スクアーロは深く追及するでも無く、いそいそとXANXUSの背後へ回ってタオルを泡立てた。丁寧な手付きで背中を擦り、次第に欲が出たのか肌を合わせながら手を伸ばして重ねる様に腕もなぞる。右手でXANXUSの左手を掬い、手早く洗うと反対も同じ様にした。未だに制止が掛からない事をいいことに、首筋から胸板へタオルを滑らせて脇腹へ落ち着いた頃に漸くと腕を掴まれた。予想通りの制止に、あっさり従う。

「もうちょいだったのになあ、残念」
「調子に乗るな」

いつもの事だと馴れた調子で軽口を叩き、小さな笑みを溢した。主に無言で突き返されたタオルで身体を洗い終えると、シャワーを掛けられた。

「おっ、サンキュ。手のとこ掛けてくれよ」
「ほら」
「ありがとなぁ、おかげで綺麗になったから早く入ろうぜぇ!!」

XANXUSはスクアーロの身体を纏う泡を流した後、手元に当てて遣りタオルを洗う手伝いをした。濯ぎ終えたタオルをキツく絞って、いよいよだと瞳を向ける。明るい洗面台から少し離れた露天風呂へ二人は歩いて行く。
仕切りの扉を開いて訪れた露天風呂は薄暗い。


「落ち着く雰囲気があるなぁ」
「ああ」

湯船に浸かるとXANXUSの腕が回され、スクアーロは寄せられるままに身体を預けた。触れ合う肌と心地良い湯加減、時折そよぎ頬を撫でる風と陽が落ちて彩り始めた街並み。そのどれもが平穏を思わせた。

「XANXUS……ありがとなぁ?こうしておまえとゆっくり出来るなんて」
「オレがそうしたかっただけだ」
「それでも、ありがとな」

「構わねえ」

どちらとも無く見詰め合い、唇を重ね合う。視線を交えながら舌を絡ませるとXANXUSは腰を、スクアーロは彼の頭を抱き寄せてその行為に夢中になっていった。微かに零れる熱のこもった吐息が夜風に浚われる。

「……はぁ、ハァ……XANXUS、ぁ……待て、揉むなぁっ」
「何を言ってやがる、少し触っただけでもうこんなにしやがって」
「う゛あぁ……ア、誰か、来る……」

「来ねえよ」
「ん゛ん……、」

敏感な其処を捕らえられ弄ばれて、スクアーロは微かに頭を振った。誰かが入って来るかもしれないと告げても相手にして貰えず、堪える様に唇を噛み締めた。先端の窪みを爪でグリグリと刺激され、小さく身体は跳ねた。熱に魘された瞳は潤み、湯船で染められた肌は意図せずXANXUSを誘う。


「……いいんだろ?」
「はぁ……ハア、」
「答えろ」

「ん゛ぁっ、――いい、……XANXUSッ、もっと……もっと、」
「ああ、“もっと”だな?」

元より『ダメ』と言われて止まるつもりも更々無かったXANXUSではあったが、それでもこうして己を欲して強請って見せる恋人の姿は何度見ても飽きるモノでは無かった。薄く色付いた白い肌と、髪を纏めてフェミニンな色香の漂う項と“男”の眼。そのどれもが絶妙なバランスでこの男――S・スクアーロを形作り、XANXUSを捉えて放さない。
幾重も唇を重ねて、指先は愛戯を施し、熟れた華を溶かしていく。

「う゛、ァ……熱ィよ、ハァ……のぼせ、そ……だぁ、」
「しょーがねえな」

XANXUSはスクアーロの身体を自らの上に移動させて腰を支えてやる。露になった火照った肌を夜風が撫でて、心地良さに緩慢に双眸を細めた。
縁に片手をつき、スクアーロはゆっくりと腰を沈めていく。右手は主の昂りへ添えて、逃さぬ様にと支えて体内へ呑み込んでいった。

「あ゛あアァ――……はあっ、あっ、ア……ボス、」
「はっ、……違ェだろ、」
「――ぐっ、XAN……ッ、XANXUS、」

「そうだ」

根元まで収まり切るや否や、XANXUSは添えていた手でスクアーロの腰を掴むと浮力を利用して乱雑に揺さぶった。湯が縁で弾けて水音を立てながら揺れる。体内を掻き混ぜるそれと共に中まで湯に侵されて、スクアーロは奥まで隈無く洗われている様な錯覚を覚えた。抜き差しされる度に彼とは別の物が体内へ入る感覚に、堪らない気持ちにさせられる。
悦ぶ様に全てを呑み込みながら乱れる姿に満足して、更にと腰を打ち付けた。下からも突き上げながら揺さぶると、スクアーロは自らの手で自身を戒め苦し気に啼く。XANXUSはその間も絶えず奥を貫いた。

「う゛ああっ、アアッ、やめ――……でるっ、」
「ハァ……出せよ、」
「待っ、汚れ……ぁう゛っ、よご……汚れ、るっ、――ひぅ……」

堪え切れずにスクアーロが小さく息を呑み、縋り付く様にXANXUSへしがみ付いたのを合図に塞き止めていた欲を解放した。白濁が湯船に浮かんでは漂い、引き千切られる様に散る。その一方でXANXUSが放った迸りは未だ体内に残っていたが、再びと緩やかな律動を開始する最愛へ強請る様に擦り寄った。水気を帯びて一層の色香を感じさせる濡羽の髪に指を通して、愛しさも忘れずに主張した。――二人の視線が交わる。


「XANXUS……湯船から出してくれぇ……もっと、おまえが欲しい」
「もうダメか?」
「ん゛ん、よくわかんなくなって勿体ねぇ……から、」

「そうか」

XANXUSは突き刺していた楔を引き抜きながらスクアーロを抱えたまま立ち上がり、床に寝かせた。茹でられたかの様に染まった肌の熱を冷たい床石が奪っていく。脚を開かせれば自ら膝を抱えて、視線ばかりを向けるスクアーロの分身は既にしっかりと立ち上がっていた。
曝された秘所からは湯と白濁がない交ぜに滴りながら、先程までの名残りを受けて小さく口を開けて待ち構えていた。猛った雄を欲し、ヒクヒクと蠱惑な動きを見せては言葉無くXANXUSを誘う。欲に濡れた青みがかった銀鼠の瞳を覗きながら、昂る自身を一気に突き刺した。大袈裟な程にスクアーロの身体は跳ね、声にならない衝撃に顎を反らしては力無く頭を振る。悶えながらも魅せる事は忘れずに、余す所など無いとばかりに全てを曝しては喘ぐ。ぐちゃぐちゃと卑猥な音と肌の弾ける音が混じり、体内に残されていた白濁も透明なそれも律動と共に掻き出すが、尽きる事は無い。

衝動のままに、想いのままに、絡み合う二人はその行為に溺れていった。






「……腰が痛ぇ」
「歳か」
「ちげぇーよ!!クソ……やっぱり床は硬ぇな」
「ほう、次は布団がいいと?」

「…………」
「黙るなドカスが」

嫌だと言えたならどんなに楽か……スクアーロはもごもごと唇を動かして黙り込む。嫌だなんて微塵も思っておらず、ましてや相手が相手なだけあり求められるままに応えてしまう。それを理解しているXANXUSは追及するでも無く、クツクツと堪える様に喉を鳴らした。

「本当にてめえは代わり映えのしねえカスだな」
「褒めるなよ、照れる」
「くたばれ」

「さっきくたばったばかりだろぉーが」
「まだ足りねえんだろ?」

返事の代わりにキッと睨み付ければ対称的な、穏やかな瞳に捉えられた。そわそわと騒ぎ出す胸の内に居心地の悪さを感じて、スクアーロは背中を向けて乱れた髪を纏め直した。湯中りした身体は未だ熱っぽく、身体が冷えるまで髪を上げておく事に決めたのだった。

「女々しいな」
「我慢しろぉ、誰かさんのせいで熱くて敵わねーんだあ」
「へえ、」 

「う゛お゛ぉい、ちょっとは自覚しろぉっ!!」

きっちりと浴衣を着込んだスクアーロががあっと吠えるも、無関心とばかりに気怠げに耳を掻くXANXUSに怒りよりも仕方無さが浮かんでくる。
仕方が無いのだ、こんな所も堪らなく好きなのだから。
『惚れた弱味』を地でいくスクアーロは言及するのを諦めて、ルーズに浴衣を着こなす最愛を見詰めた。はだけた胸元と未だに水気を帯びて艶やかな黒髪が、やけに色っぽい。こんな姿を誰かに見られると思っただけで、世界中から彼を隔離してしまいたくなる。どうしようも無い事なのに、目映い彼の魅力は時に強行へと誘惑するのだった。


「……なあ、そういやさっき湯を汚しちまったが怒られたりしねえのか?つーか、黙ってる訳にはいかねーよなぁ……オレならそんな風呂、入りたくねえしよぉ。でも説明するにも……なあ、」
「んな事を気にしてやがったのか」

ふと先刻の情事にて湯船で果ててしまった事を思い出して、バツの悪そうな表情でスクアーロはポツポツ呟いた。最中も気にはなっていたが我慢出来ずに出してしまい、申し訳無さそうにしながら未だに誰一人訪れない事に安堵していた。そんなスクアーロを至極不思議そうにXANXUSは眺める。

「何を言ってやがるっ、大事なことだろぉーが!!」
「別に気にする必要もねえだろ、誰も来ねえしオレ達以外入らねえんだ」
「誰も……?」
「貸し切りだからな、この旅館自体が」

「2人きりなのに?」
「“2人きりだから”――だろ?」

きょとん、と未だ事情がのみ込めていない様子のスクアーロを見詰めて、XANXUSは予想通りの反応に微かに鼻を鳴らした。どうしてこの男はこうも自分の事に無頓着なのだろう。毎年わざわざこのオレが祝ってやっているというのに――XANXUSは胸の内で嘆く。……それでも、こんな仕方の無い男を愛しく想う気持ちに変わりは無いのだ。

「?そーかぁ、じゃあ……本当に2人きりなんだな」
「ああ」
「そうか……」
「どうした」

「嬉しくて困る、……好き、好きだぁ」

くしゃりと顔を歪ませて、堪える様な表情で抱き着いて来るスクアーロを抱き締めた。甘える様に首筋へ幾度も唇を押し当てて、『好きだ』と繰り返す。二人きりで過ごす事がどんなに難しいか、互いに理解していた。忙しい身であり、また常に他者の気配がある。その上、恋人が男だなんてと幾分かの申し訳無さが有ったスクアーロは主の計らいに、すっかり酔わされてしまった。求めて止まない主と本当に二人きりで出掛けているなんて何にも代え難い至福であると、心から思う。


「……それ以上やると今すぐ抱くぞカス」
「ん゛ん、」
「先に飯だ。その後は……わかるな?スクアーロ」

「――Si.何でも、望むままに」

熱っぽい視線を存分に絡ませた後、名残り惜しむ様に二人は僅かな距離を保った。普段とは違い肩の触れ合う距離を歩き、制限など忘れて傍らの最愛を瞳に映す。身に余る幸せとばかりに感激しているスクアーロは未だ、誕生日の事に気が付いては居なかった。何処までも鈍感である。
部屋に戻ると豪華な懐石料理がずらりと並んでいた。並べられて間も無いだろうそれに、スクアーロは『ジャッポーネのスタッフは皆忍者なのではないか?』と疑問に思った程だった。……その実、全てがXANXUSの予定通りであった。浴場で彼を抱いた時間も脱衣場でのそれも、全てが計算の内である。そんな事は露にも出さずに、席について食事を楽しんだ。


「……てめえも飲め」
「でも、」
「今日くらいいいだろうが、ほら」

「じゃあちょっとだけ」

あまり酒の強く無いスクアーロは普段から滅多に口にしなかった。任務に障るといけないからと、酌をさせても最初の一杯以上手を付けた試しが無かった。そんなスクアーロを思い、誕生日くらい羽目を外せば良いものをと勧めてやれば、嬉しそうに酒を味わった。酒自体が嫌いな訳では無い事は、XANXUSにはとうにわかっていた。





「久々にこんなに飲んだぜぇ、……こういうのも悪くねえな」
「美味いか?」
「ああ、どれも美味かった。特に魚料理がよかった……また来てぇなあ」

「来ればいいだろう?」
「XANXUS……」
「来ればいい、来年もまた」

言葉の意図が掴めていないのか、狼狽えた様に言葉を無くしたスクアーロを見詰めて静かに言い聞かせる。その瞬間、“ボーン”と壁掛けの時計の音が室内に響いて0時を知らせた。これもやはり計算通りである。

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!