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声だけじゃイヤ。




【声だけじゃイヤ】





「う゛お゛ぉい、オレだぁ!!」
『おせーよ』

電話越しに聴こえる声は酷く簡潔で、いつもと何ら変化の無いそれに自然と笑みが零れる。――相も変わらず、愛しい声。


「待っててくれたのか?」
『待ってねえ』
「待ってたんだろぉ?」
『待ってねえ』
「で、本当は?」

『……萎えた。もう切る』
「ははっ、おまえはいくつになっても可愛いなぁ……燃えてきた」

――ブチッ。
宣言通り電話を切られた。あいつのつんけんした言動にそそられてしまうオレを、奴は本気で気味悪がっている。そこがまた可愛いのだけれど。
あいつは昨日から上からの要請で出向いて居る。で、まあ……恋人の様子を窺う為に今電話をしてみた所だ。忙しいだろうと昨夜は連絡を入れなかったし、向こうからもこなかった。だから“やっぱり忙しかったのか”と納得していたのに、開口一番が『おせーよ』ときたもんだ。
可愛すぎて身悶える。


いちいちオレのツボを突きまくる愛しい恋人の“萎える”は、“照れ”である――と思いたい。と言うか、絶対そうだろ。
切られて速攻リダイヤル。30秒くらいコールを無視されたけれど(電源を切られていないから本当に怒ったり萎えたりはして無いし、あいつはいつも焦らす)30秒とは言わず、“いくらでも”待てる。8年も待てたんだ、こんなの欠伸の間にもならない。

「う゛お゛ぉい、ホントに切るなあ」
『るせぇ、黙れドカスが』

(んなこと言って、いざオレが黙ったら退屈するくせに。)


――ブツッ。やっぱり電話を切られた。
奴の直感を侮るべからず。自分に都合の悪い事は全て突っ跳ねてしまう子供みたいな所も、堪らなく愛おしい。
お互いもういい歳だと言うのに、若い頃とちっとも変化が無い。
これが良い事なのかはわからないのだけれど。

「う゛お゛ぉい、拗ねちまったかぁ?」

どうやらとうとう電源を落とされてしまった様子。
電源落とすのは頂けない、せめて着信拒否くらいにしておいてくれると助かるのだが。オレのせいで他の仕事が滞るのは芳しく無いのだ。


「XANXUS……」

交わした言葉は少なくとも、想いは膨らむ一方で。触れたいなあとか会いたいなあとか抱き合いたいなあとか、まあそんな感じの煩悩がもごもごと浮かんでくる。
自覚をすると益々恋しくなってくる。狂おしいまでの衝動に苛立つ右手を抑え込み、先程からおざなりだった書類の山を視界から消す事にした。
デスクから離れて執務室を後にし、奴の私室へ足を踏み入れた。此処は奴とオレの部屋、二人だけの部屋なのだ。

今朝方、一人寝を満喫したオレ自ら施したベッドメイキングにより、皺の無いシーツに身体を預けた。沈む瞬間に香る奴の匂いに、微かな感傷が胸に沁みた。
メシはちゃんと食べただろうか。夜は眠って居るだろうか。
それから、それから――……。


(オレのことを、同じくらい考えてくれているだろうか。)




――ブブブブブ。
小さな振動音を引き連れて、携帯は着信を知らせる。表示を見なくてもわかるこのタイミング。――そう、オレの恋人様に決まって居るのだ。

「さっきぶり」
『何してる』
「ベッドに転がってるぜぇ」
『いいご身分だなカス、サボりか?』

「しょーがねーだろぉが、おまえの声聴いたら働く気が失せたんだあ」
『はっ!一丁前に盛ってやがんのか』

さっきより会話らしい会話をしていたが、不意に奴の雰囲気が変わったのを電話越しに悟った。この雰囲気はマズい――きっと、やばい。

『おい』
「――Non.」
『まだ何も言ってねえ』
「わかってる、だから聞く前に阻みてえんだろ」

『ヤれ』
「ほれみろっ、そんなことだろぉーと思ったんだぁ!!」
『うるせえ、さっさとしろ』

長年連れ添った相手の思考を読むのは容易い。要するにテレフォン・セックスをしろという要請である。……露骨過ぎて若干困る。
オレみてぇなんのを聴いてて楽しめるのだろうか。

「なあボス、オレ――」
『早く脱げよ』
「う゛お゛ぉい……本気かぁ?つーかおまえ、電話繋ぎっぱで怒られたりしねえのか?」
『気にする暇があったらさっさと終わらせりゃあいいだろ』

「ぐっ、」

暗に“終えるまで切らせない・終わらない”と言って居るXANXUSに二の次を奪われ、仕方無くベルトを緩ませズボンの前を寛がせる。右手を下着の中に滑らせながら、左手で携帯を持ち直す。

「1回でいいんだろぉ?」
『今日の所はそれくらいで勘弁しといてやる』

後日何をさせられるのか些か不安にもなったが、どうせオレは何でもしてしまうのだから考えるだけ無駄というもの。
渋々と兆しを見せないそれを掌で包み込み、ゆっくりと刺激を与えていく。自分で処理をするのは酷く久しい。

『カス、昨日何時に寝た』
「ん゛んー……今日の14時過ぎに仮眠取ったぜぇ」
『昼寝かよ』
「昼寝だなぁ」
『で、何時間だ』
「…………」

『なるほどな、わかった』
「う゛お゛ぉいっ、オレは何も言ってねーぞお!!」
『オレにバレないとでも思ってんのか、ああ゛?……ちゃんと寝ろ』

何処か柔らかい声色で囁かれて、堪らない気持ちにさせられた。微かな身震いを起こしつつ、ゆっくりと芯を持ち始めるそれを掌で急かしてみる。――が、何かがいつもと違う事に気付く。

「ん、……ボス、」
『何だよ』
「ダメだ、全然気持ちよくねー……変なんだ、オレ病気かもしんねえ!」
『落ち着けカス、どうした』

「全然ダメなんだ、どうしちまったんだぁ!!何故……ん゛ん、自分で処理すんの久々だからなったのかもしんねえ。けど……おまえじゃなきゃ、ダメだぁ……おまえに、触って貰いてえ」

あの頃はこんな事にはならなかったのに、この10年で腑抜けになってしまった。そんな思いが余計に気持ちを募らせ、快楽を遠ざける。ちゃんと応えたいのに、どうしたって彼で無くては――XANXUSで無くては。
全身で最愛を求め、呼ぶ声に愛欲が滲む。

『…………』
「XANXUS……XANXUS、」
『我慢出来ねえのか』
「出来ねえ」

『ならてめーでどうにかするしかねえな』
「う゛う゛っ、」
『目を閉じろ。オレはいつも――どんな風におまえに触っている』
「……あっ、そうだぁ……こうやって、いつも……」
『そうだ、てめえはそれが好きなんだよな』

「ハァ……好き、だぁ……ン、」

先程とは違い、声に色が混じり始めたスクアーロの変化に、XANXUSは唇へと僅かに笑みを乗せた。――全く、何て世話の掛かる恋人だろう。
受話器越しに聴こえる吐息混じりに零れる微かな喘ぎに、見馴れた恋人の姿を思い描いた。そして幾分か甘みを増したその声に悪くない気分になる。普段よりも、随分素直に求めてくるからだ。

『スクアーロ』
「ん゛ん、」
『前だけじゃもう足りねぇよな?』
「……っ、う゛」

『指を入れてやる、……2本だ、わかるな?』
「Si……」

ズボンと下着を足から引き抜くと、スクアーロは携帯をベッドに預けて耳の位置を固定させた。それからベッドへ膝をついて腰を掲げて、そのまま身を任せた。上体は支えを失い、肩からベッドに沈んでいく。右手は前に、左手は後ろへと宛がう。言われるがままに二本の指を其処へ添えて入り口を数回なぞった後、ゆっくりと中へ沈めた。

「ぅあ゛ァ……あっ、XANXUS……入ってる、」
『じゃあ動かしてやらねーとなァ?ほら、……此処がいいんだろ?』
「はぁっ、ア、……そこ……そこだぁ……XANXUS、XAN……」

『イイ格好だな、カス』

根元まで指を差し込むと、常のXANXUSの動きをトレースした自らの手で狭苦しい其処を擦り上げた。携帯越しに聴こえるXANXUSの声ともシンクロして、意思とは関係無く身体は動いていく。
次第に中は湿り気を帯び始め、前からも蜜を滴らせた。


「ダメ、だあ……XANXUSっ、」
『どうした?』
「イケね……はっ、おまえじゃなきゃ……XANXUS、欲しい……欲しい、」

『……そうか』

ポツリとXANXUSが呟くと沈黙が流れ、スクアーロはどうしようも無い身体の疼きと孕んだ熱に深く息を吐き出した。……すると、いつの間にやら室内に己以外の何者かの気配がする事に気が付いた。――まさか。


「XA……XANXUS、」
「何だ」
「ど、して……」

「わからねーか……本当に?」

あまりの都合の良いタイミングと状況に、スクアーロは戸惑いがちに首を捻って扉の方へ顔を向けると最愛の主の姿を見付けた。XANXUSはベッドへと歩み寄り、未だ指の収まっている其処へ自らの指を突き入れた。抵抗も無く、柔らかな内壁は悦ぶ様に一層締まる。

「うあっ、」
「上出来だなカス、いい具合だ」
「XANXUS……向き合ってしてぇ……キス、してくれよ……沢山してえ」

答える代わりに埋め込まれたそれをスクアーロの指もろとも引き抜くと、その身体をひっくり返す。着込んだままのコートを乱してやればもどかし気に瞳を揺らし、首元へ腕を絡めてキスを強請る。スクアーロの全てが自身の言いなりである事に高揚感を感じながら、既に兆しを見せているそれを取り出して宛がった。
焦らす様に其処へ擦り付けると、嫌がる様に腰を浮かせるスクアーロの臀部へ枕を差し込み――昂る象徴で突き上げた。一気に根元まで突き刺した瞬間、XANXUSを痛いくらいに締め付けながらスクアーロが果てた。

「うあ゛あアァ――……はっ、はあ……すげ、熱ぃ……すげえ、」
「はっ!入れただけでこれか……」
「熱ぃ……すげぇ、」

「熱いだァ?何を言ってやがる、……これからだろーが」

譫言の様に繰り返すスクアーロへ含ませる様に甘く囁くと、込み上げる衝動のまま乱暴に貫いた。身体を震わせながら与えられる快楽に溺れるスクアーロを見下ろして、一層と腰を打ち付ける。

「スクアーロ……オレに見せてみろ」
「はあ゛っ、ア、アッ、……出る、もっ……でる、」
「出せ!出なくなるまで、」

「ぅあ゛あアっ!!アアッ――……ボス、たすけ……ひっ、――ッ、」

言われるがままにスクアーロは自らの右手を自身へと伸ばし、自慰をするかの如く濡れそぼったそれを扱く。その間もXANXUSの動きは止まる事を知らず、スクアーロを攻め続けた。抗い様の無い強烈な快楽に責め立てられ、呆気無く二度目の欲を吐露した。自らの放ったそれで顔を汚しながら余韻で震えるスクアーロをお構い無しにとまた攻めて、滴る白濁を舌先で掬い取り苦し気に喘ぐ唇を塞いだ。泣き言を漏らしながらも腕と脚を絡ませ“逃すまい”と自身を求める姿がXANXUSを堪らない気持ちにさせ、更にとスクアーロを求めて貫き続ける。――最奥を求めて何度も、何度も。

その後も白濁の微睡みに溶け合う様に、幾度と無く求め合った。







「流石にこれは死ねる……いい歳して何やってんだかなぁ」
「セックスだろ」
「そぉーじゃねーよ!!」
「何か文句でもあんのか、このエロザメが」

「…………」
「何だ、今日は自覚があんのか」
「多少は」

「ぶはっ!」
「笑うなあ゛あ!!う゛お゛ぉお……っ!!」

XANXUSの胸に凭れながら吠え立てたスクアーロは、歯軋りをしながら余裕綽々な主の顔をキッと睨み付ける。XANXUSはそれを見て笑うばかりだ。

「何だカス、まだ足りねーのか」
「え゛っ、」 
「んな顔して誘ってませんは通らねえ、――死ねよドカス」
「う゛あ゛っ、やめろぉ!マジで死ぬぞお!!」
「オレは困らねえ」

「オレが困るんだよ!!」

逃れようと身体を反転させたスクアーロをベッドへと縫い留めると、XANXUSは露になった白い項にキツく歯を立てた。途端にびくりと身体は跳ねて、スクアーロは大人しくなった。昔からこれに弱いのを、XANXUSだけが知っている。続けざまに其処へと唇を幾度か押し付ければ――そろりと後ろへ振り返り、キスを強請ってくるのもXANXUSにはわかっていた。

本当に、昔から代わり映えのしない恋人である。







声だけなんて言わないで。
いつも触れ合う距離に居たいから。


愛を、もっと。


-END-





スクはこの10年間、自慰する必要が無いくらいボスに愛されていたようです。で、混乱。(笑)
声だけじゃダメになっちゃうくらい愛されて、スクは幸せ者です。

10年後はとにかく糖度が桁違いだと思われます。

――2010.02.03.

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あきゅろす。
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