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赤ずきんちゃん。




【赤ずきんちゃん】






昔むかし、ある所にとても声の大きい女の子が居りました。黙って居ればそれはそれは可愛い娘でありましたが、口を開けば誰もが残念がります。

「う゛お゛ぉい、オレを呼んだかぁ!!」
「ええ、赤ずきん。このお菓子と葡萄酒をおばあちゃんの所まで届けて頂戴な。病気のおばあちゃんはあなたに会ったらきっと元気が出るわ」
「ばーちゃんかぁ……わかったぜぇ、行ってくる」

「いいこと?寄り道をしてはダメよ。どんなにイイ男が居てもダ・メ!」
「……オレ、男に興味ねーぞぉ」

お母さんの言い付けにうんざりしながらも、赤ずきんちゃんは頷きます。その後も、お母さんはイイ男の何たるかを説きましたが赤ずきんちゃんは全て聞き流しました。漸くとお母さんの話が終わり、お菓子と葡萄酒の入った籠を携えて、赤ずきんちゃんはおばあさんの住む森へ向かいました。
赤ずきんちゃんが森の入り口へ着くと、オオカミが近付いて来ました。


「おい赤ずきん」
「なんだぁ、オオカミ。オレは今忙しいんだぁ」
「どっか行くのかよ」

「ああ、病気のばーちゃんちに行くんだぁ!見舞いだぜぇ!!」

赤ずきんちゃんは得意満面にそう言って、手に持っていた籠を見せてあげます。お使いが嬉しいようです。そんな赤ずきんちゃんをジーッと凝視していたオオカミは、続けて問い掛けました。

「そのばーさん家はどこにある」
「んとなぁー、森の奥にあるパラボラアンテナが3本立ってる家だぜぇ。見たらすぐわかるんだぁ、庭にもアンテナあるから」

警戒心の無い赤ずきんちゃんは疑う事無くオオカミにおばあさんのお家を教えてあげます。オオカミは考えました。とても美味しそうな赤ずきんちゃん、ババアには興味無いがついでだし二人纏めて食ってやろう――と。

「おいカス」
「カスじゃねーよ、赤ずきんだぁ」
「あれを見ろ」

並んで森の小道を歩いて居ると、オオカミは顎で脇に咲いている花を示しました。そこら中、綺麗なお花が咲いています。

「見舞いなら花でも摘んでけや」
「そっかぁ、おまえ頭いーな!ばーちゃんに面白ぇ花摘んでってやろう」

オオカミに言われるがままに赤ずきんちゃんは、お花を摘もうと脇道へ駆けて行きました。おばあさんに似合う変な花を探してやろう――どんどん奥へと進んで行きます。
そんな赤ずきんちゃんを見送ったオオカミはしめしめとほくそ笑み、おばあさんの家へ先回りしました。赤ずきんちゃんが言っていた様におばあさんの家にはパラボラアンテナが三本立って居ましたし、庭先にもアンテナが刺さっています。雷が落ちたら大変ですが、今日も森は快晴です。
オオカミは扉の前に立ち、コンコンとノックをしました。


「誰だ」
「赤ずきんだ、見舞いに来てやったんだ。さっさと開けやがれ」
「入りたければ自分で開けろ、オレは寝ている」

オオカミのこの態度も問題では有りますが、赤ずきんちゃんも大して変わらなかったのでおばあさんは気付きもしませんでした。それからオオカミは扉を開けて中へと入るとベッドまで駆け寄り、おばあさんを食べようと口を開けました――が。

「げ、」
「ああ、オオカミ様!!」

何と、其処に居たのはただのおばあさんでは無く、オオカミのストーカーのおばあさんでした。おばあさんが寝込んで居たのは病気は病気でも、恋の病だったのです。珍しく狼狽えたオオカミは咄嗟にベッドに転がっていた空き瓶を手に取り、おばあさんの頭を殴って気絶させました。

「これはダメだ、食えねえ……裏庭に隠しておこう」

流石のオオカミにも食べられなかったようです。おばあさんを紐で縛り上げ、その口にハンカチを押し込むと裏庭まで引きずって行き、其処に投棄しておきました。一仕事を終えて部屋に戻り、おばあさんの服を羽織り頭巾を被ると、おばあさんのベッドに仕方無く潜りました。
他人のベッドは苦痛で仕方がありません、一刻も早く赤ずきんちゃんを食べたいオオカミは苛立ちを抑え込みながら辛抱強く待ちました。




「この花きっと食人花だぜぇ、ばーちゃんちの庭に埋めてやろう」

悪戯好きな赤ずきんちゃんは食人花を握り締め、ウキウキしながらおばあさんのお家へ向かいました。それから、勝手にお庭へ摘んで来た食人花を埋めた後、扉の前に立ちましたが戸口が開けたままになっています。不思議に思いながらも中へと入り、声を掛けてみます。

「う゛お゛ぉい、ばーちゃん!失恋は病気じゃねーぞぉ!!」
「…………」

返事は返ってきません。眠って居るのかとも思い、一先ずベッドへ近付きますが横になっているおばあさんはいつもと様子が違います。

(?なんか今日のばーちゃんモテオーラが出てやがる……なんだぁ?)

何故か動悸を感じた赤ずきんちゃんは不思議に思いながら、目深く頭巾を被ったおばあさんへ視線を落としましたが、やっぱり胸がときめきます。
頭巾からひょっこり飛び出たお耳も、とても愛おしく映ります。

「今日のばーちゃんの耳、おっきいんだなぁ」
「よく聞こえる」
「瞳も、すげえ色っぽいぜぇ」
「おまえを想う時はいつもこうなる」

「手も声も、すげえセクシーだぁ……唇も堪らなくそそられる、」

おばあさんを見詰める度に、赤ずきんちゃんはいけない気持ちになっていきました。ふるふると頭を振るい、普段のおばあさんの姿を思い浮かべます。少し収まった胸の疼きにホッとしましたが、疑問が浮かびました。

「なんで今日のばーちゃんはそんなにモテオーラが出てるんだぁ?」
「それはオレが――オオカミだからだ」

待って居ましたとばかりに起き上がったオオカミは頭巾を放り出し、羽織っていた服を剥ぎ取ると赤ずきんちゃんを乱暴にベッドへ引き倒します。オオカミの鋭い瞳は赤く燃え、益々の色香を漂わせています。赤ずきんちゃんは戸惑いと動揺で瞳を泳がせ、浅い吐息を溢しました。

「オオカミ……」
「ドカスが、来るのが遅ぇんだよ」
「だって、てめーが花を摘めって言ったじゃねーかぁ!!」
「その割に花は持って来なかったな」
「庭に埋めた!!」

「…………」
「?ダメだったか?」
「いや、てめえらしくていいけどよ」

ベッドの上で見詰め合いながら会話を楽しむと、赤ずきんちゃんの戸惑いもすっかり消え去っていました。それに気付いたオオカミは優しいキスを落とします。顔中に何度も降る甘い雨に、赤ずきんちゃんはうっとりと目を閉じました。赤ずきんちゃんはオオカミの事が大好きになりました。
オオカミもまた、赤ずきんちゃんの事が大好きです。

「もう逃がさねえ」
「オレだって離してやらねーからなぁ?」
「赤ずきん――」

「オオカミ様あぁあああ!!」
「赤ずきんっ無事か!?――うわっ!」

――ドギューン!!

オオカミがいよいよ赤ずきんちゃんを食べようとした、その時です。
物凄い形相のおばあさんとドジで有名な猟師さんが駆け込んで来ました。この猟師さんは大変ドジなものですから、足を引っ掛けて転んだ拍子にライフルを発砲してしまい、オオカミの頬を掠めて壁に風穴を開けました。
心配そうに自分を見上げる赤ずきんちゃんの頭を一撫でした後、オオカミはゆらりと猟師さんへ歩み寄りました。放たれる殺気に猟師さんはバタバタと逃げ惑います。その度に部屋が荒らされ、流れ弾は飛び交いました。

「ま、まま待てよ!落ち着けって!!わざとじゃねえ!!」
「黙れカス、てめえの事は前々から邪魔だ邪魔だとは思っていたが――やはり今日、てめーを根絶やしにする」
「ぎゃーっ」

このドジな猟師さん、日頃から赤ずきんちゃんへ何かとちょっかいを掛けて居たのでオオカミは常々、苦い思いをしてきました。その恨みを今晴らしてしまおうと、邪魔者へ襲い掛かります。

「おい貴様!よくもオオカミ様をたぶらかしおったな、この淫乱が!!」
「んだとこの雷ババア!!あいつはオレのだぁぁ!!」

赤ずきんちゃんはおばあさんの恋の相手がオオカミであると気付き、負けじと言い返しました。大好きなオオカミを渡したくありません。


「おい、オレのモンに何をしてやがる」
「オオカミ!」

どうやら猟師さんを大人しくさせたらしいオオカミが、赤ずきんちゃんの腰を抱き寄せながらおばあさんに尋ねます。おばあさんは手にしていたパラボラを引っ込めて、食い入る様にオオカミを見詰めました。
オオカミは向けられた瞳に疑惑の色が浮かぶのに気付き、見せ付ける様に一度赤ずきんちゃんへ口付けます。それを見たおばあさんは、二度目の失恋にハンカチを噛み締めてしくしく泣きました。

「オオカミ、ずっと一緒に居てくれるかぁ?」
「ああ」

二人は身を寄せ合い、将来を誓い合いました。
小鳥達も二人を祝福しています。




それから二人はオオカミの家で仲良く暮らし、めげない猟師さんとおばあさんを時々退けながら、幸せに暮らしましたとさ。


-END-







言わずもがな猟師→ディーノ、おばあさん→レヴィ、おかあさん→ルッス姐さんでした。
パラボラハウスが本当に森の中にあったら山火事ですよ。危ねえ。(笑)

主役をザンスクにした時点で、オチはこうなる罠。

――2009.12.24.

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あきゅろす。
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