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シンデレラ。




【シンデレラ】






ある所に、とても面倒臭がりな娘が居りました。名前は――シンデレラ。
剣の腕が立ち、乱暴なその娘を恐れて友達さえも出来ませんでした。

「う゛お゛ぉい、どっかに骨のある奴は居ねぇーのかぁ!!」

それに加えて、シンデレラはとても声が大きかったのです。そんな協調性の無いシンデレラのお友達は、一匹の馬でした。
今日も馬小屋へ向かいます。

「う゛お゛ぉい、へなちょこぉ!!メシ持って来てやったぜぇ」
「あっ、スクアーロ!会いたかったぜ!」
「オレの名前はシンデレラだぁ!!」

「わっ、わりっ!」

シンデレラには名前がもう一つありましたが、家族とこの馬以外そうは呼びません。ご飯の人参を無理矢理口の中に押し込まれて遊ばれている馬は、苦し気ながらも幸せそうです。馬はシンデレラの事が大好きなのです。


「ディーノ、今日はもう行かなきゃだぁ」
「そうなのか?」
「ああ、姉ちゃん達が出掛けたらまた来るからよぉ」

「わかった、じゃあスクアーロの帰りを寝ないで待ってるぜ」
「寝てもいいぞぉ?食休みとか要るだろ?」
「それは牛!!」

「はははっ」

シンデレラは楽しそうに笑いました。
それからシンデレラが家に戻ると中から賑やかな声が聞こえてきました。


「ねえねえベルちゃん、このドレスどうかしら?」
「ちょっとケバくね?あっちの王子はもっとタイトなの好きそうだし」
「タイト……」
「おいムッツリ、てめー何その気になってんだよ!」
「ベル、今日はそのティアラにするのかい?」

「う゛お゛ぉい、帰ったぞぉ!!」

まるで一家の大黒柱の様な存在感を放ちながら帰って来たシンデレラへ、みんなが顔を向けます。シンデレラの様子にはみんな慣れっこなのです。

「おっかえりー。ねえスク、これどう?」
「ん゛ん?それいつものとどこが違うんだぁ?オレ、よくわかんねえ」
「死ねよカスザメ!」
「う゛お゛っ」

「ちょっとベルちゃん!ナイフ飛ばさないでちょうだい」
「そうだよベル、僕達のドレスが台無しになるだろ。賠償金を支払う覚悟がないなら放っておきなよ、スクアーロはオシャレに無関心なのさ」
「貴様!よくもオレのドレスに!!」

「う゛お゛ぉい!!やったのはベルだろぉ!こっち来んな!!」

部屋の中には優しくて料理の上手いムキムキな継母と、自分の事を王子と呼ぶナイフばかり投げる姉に、何でもお金に結び付ける守銭奴な姉と、何かにつけて嫉妬してくる意地悪な姉が居りました。

「さぁさ、スクアーロもこっちへいらっしゃい。綺麗にしてあげるわ」
「オレはいい、留守番してる」
「スク行かねーの?今夜のパーティーはすごいってみんな言ってるぜ?」
「めんどくせぇし、人混みキライだし行かねえ」

そうです、シンデレラはとても面倒臭がりなのでした。その後も継母と姉1の熱心な誘いも虚しく、シンデレラが心動かされる事も無く、みんなはお城に向かって行きました。
家に残ったシンデレラは、枕と布団を持って馬小屋に向かいます。



「ディーノ」
「あ、スクアーロおかえり!……本当に行かなくて良かったのか?」

嬉しそうに出迎えた馬の頭を撫でてやり、シンデレラは床へ枕を放り横になりました。途端に寛ぎ出したシンデレラに嫌な顔をする所か、馬は布団を掛けてあげます。そんな馬へ、シンデレラは欠伸を返しました。

「どうせ王子なんて、いいモン食ってぶくぶく肥ったブタ野郎だろぉ」
「スクアーロ、おまえ知らねーのか?あの城の王子っつったら黒髪に緋色の瞳で、そりゃあ格好良いと評判らしいじゃねーか」
「へえー」
「おまけに、この国で1番強いとさえ噂されているモンだから誰も王家に手を出せず、だからこの国は平和なんだとか」

「――この国で1番強いだと!!?」

妙に詳しい馬の説明をぼんやり聞いていたシンデレラですが、王子が強いとあったら居ても立っても居られません。直ぐに飛び上がり、銀の髪を靡かせます。その瞳は爛漫と輝き、傲慢な笑顔を覗かせました。
一刻も早くお城へ向かいたいシンデレラですが、着ていくドレスがありません。こんな事なら継母に遊ばれておけば良かったと酷く後悔しました。


「クソ!どうすりゃいいんだぁ!!」
「お困りですかー、アホのロン毛……じゃなかった、シンデレラ」
「誰だ!!」

「ミーはプリティでキュアキュアな方の魔法使いですー」
「キュアキュアじゃない方は何なんだ?」
「それはノーマル以外の何者でもありませーん」

「う゛お゛ぉい……普通の奴出て来いよ」

突如として現れた怪しい魔法使いに興味を示した馬が余計な事を聞き出してしまい、普通じゃない方が来た事を図らずも知ってしまったシンデレラはとてもがっかりしました。

「シンデレラ、お城に行きたいですか?」
「行きてえ」
「ならその馬の人と一緒に外へ出てくださーい。魔法を見せてあげます」

得意満面な無表情の魔法使いに連れられて、シンデレラと馬は家の外に出ました。それから何処から取り出したのか、魔法使いがカボチャを地面に置いてシンデレラを見詰めます。どうやら準備が出来たようです。

「じゃーいきますよー……あっ、」
「どうしたぁ?」
「カエルが邪魔でポーズが取れませんー大変だー」
「ポーズを取らねぇと魔法使えねーのか!?」
「いえ、気持ちの問題ですー」

「何なんだよてめーは!!誰か普通の魔法使い連れて来いやああ゛!!」
「クフフフフ……優秀な魔法使いをお探しですか?」

不思議な笑い声と共に、笑顔の胡散臭い魔法使いが現れました。


「シンデレラ、お城に行きたいのでしょう?ならばそのカエルは放っておきなさい。僕の力を持ってすれば容易い事……そら、」

その胡散臭い魔法使いが手にしていた三叉槍を一振りすると、カボチャが馬車に早変わり。シンデレラは直ぐに思い直し、その胡散臭い方へ鞍替えしました。その後ろからゲロゲロと不満気な声が上がります。

「これだから目立ちたがり屋は……」
「何か言いましたか?」
「別にー」

「さあシンデレラ、お行きなさい。そして必ず0時の鐘が鳴る前に帰って来るのです。さもなくば、臓物を撒き散らし苦しみながら死――」
「そんな副作用ないですー。シンデレラ、とりあえず魔法が解けちゃうんでー0時までに帰って来てくださいねー」
「…………」

「行こう、スクアーロ!」

何やら恐ろしい言葉を耳にしましたが、馬がキラキラと輝く瞳を向けて誘います。既に馬車を押す準備も済ませているようです。
心優しい馬に励まされ、ドレスアップを済ませたシンデレラはお城へと続く道を、期待に胸を躍らせながら馬車で駆けて行きました。





「クソつまらねえ」

王子は頬杖をつきながら忌々しいとばかりに呟きました。そのドスの利いた声に側に居た兵士は震え上がりました。
今夜のパーティーは王子に見合う姫を探すのが目的でしたが、王子の目に止まる姫は現れません。王子は今までどんな姫にも興味を示した事が無く、王様はそんな王子を心配して居りました。どうせ今夜も無駄に終わる、そう王子が思ったその時です。王子の瞳には一人の姫の姿が映りました。
煌めく銀色の髪と純白のドレス、つり上がった勝ち気な瞳と美味しそうに料理を頬張るその姿に、今まで感じた事の無い感情が芽生えたのを悟りました。――王子は静かに玉座から立ち上がり、姫の元へ歩み寄りました。


「うわ、このマグロうめぇ」

お城に着いたシンデレラは、王子の事などすっかり忘れてマグロのカルパッチョを貪り食って居ました。シンデレラの大好物です。
そんなシンデレラへ一人の男が近寄ります。

「おい」
「ん゛ぁ?なんだぁ」
「てめえの名前を教えやがれ」
「なんでてめーにオレの名前を教えなきゃならねーんだぁ、あっち行け」

シンデレラは横目で男を眺めますがマグロの誘惑に勝るはずも無く、しっしと軽くあしらいます。シンデレラは大変なモグリで、その男が王子であると一向に気付きません。あの馬が言った様に、黒髪に緋色の瞳を持って居ようとも、全く持って気付きませんでした。
王子は自分に興味を示さないシンデレラに、益々惹かれていきました。

「来い」
「あっ、オレのカルパッチョが!!」
「あんなモン、後でいくらでも食わせてやる」

「ならいい」

王子はシンデレラの腕を掴み、強引に中庭の方へ引きずっていきました。当然、好物から引き離されて暴れたシンデレラですが、いくらでもと聞き途端に大人しくついていきます。シンデレラは意外と現金でした。


「名前」
「ああ、オレの名前はシンデレラだぁ。てめーは誰だ」
「オレはXANXUS」
「XANXUS……変わった名前だな。でも、おまえにはぴったりだぜぇ」
「……シンデレラ、おまえは此処に何しに来た」

「オレは噂の王子に会う為に来た」
「その割にマグロに夢中だったみたいだが?」
「う゛う゛っ、……うるせーなぁ!ほっとけ!!」
「おまえも王子の妃になりてぇのか?」

「?いや、オレは王子と戦いに来たんだぁ!!誰よりも強ぇと言われている王子とやり合ってみてえ。考えただけで興奮するぜぇ」

人気の無い静かな中庭で二人きり。そんな中、熱っぽく語り出したシンデレラを見て王子は妙な気分になってきました。初めて見たシンデレラの傲慢で勝ち気な笑顔に、すっかり心奪われてしまいました。
抑える気の無い衝動のままシンデレラを腕の中に閉じ込め、息も吐かせぬ口付けを贈りながら庭園の脇へ押し倒しました。シンデレラがいくら暴れてもびくともせず、身体のあちこちを弄られ乱されていきます。混乱からシンデレラが回復した頃には、王子の手が下半身へと伸びていました。

「な゛っ、何なんだてめえ!!オレに何する気だぁ!!」
「何って……おまえが言い出したんだろ?オレと“やり合いたい”って」
「………………意味がちがう!!」

「んなモンどっちでもいい」
「う゛あああっ、やめろぉ!!退けよ、このっ!離せ強姦魔ぁあ!!」

此処へ来てやっと目の前の男が王子であると気付いたシンデレラは、最早それどころではありません。貞操危機一髪。
シンデレラの声が大きいので、再び王子は情熱的な口付けを贈ってシンデレラを酔わせていきます。色事に幾分の免疫も無かったシンデレラは陥落寸前です。潤んだ瞳で王子を見詰めます。


「どうして、こんなこと……」
「てめえをオレのモンにしたいからに決まってんだろ」
「なんで?」
「……惚れた、てめえに惹かれてる」

「惚れ……」

生まれて初めての告白にうっかりときめいたシンデレラですが、もう直ぐ0時の鐘が鳴る事を思い出しました。シンデレラは王子を見詰めたまま、そっとその身体を押し返します。意外にも王子はシンデレラの好きにさせて、シンデレラの上から退きました。それからシンデレラは乱れた服を直しながら、王子の想いに応えようとなけなしの思考を奮い起たせましたが照れてしまい、視線を落としました。シンデレラも王子に惹かれて居たのです。王子もそれに気付いて居たので、静かに返事を待っています。

意を決してシンデレラが承諾しようとした、その時です。
シンデレラの目には信じられない物が映りました。

「て、て……」
「落ち着けカス、人間の言葉を話せ」
「てめーがその手に握ってるモンはなんだぁ……!!」

「……あ、」

わなわなと震えているシンデレラが指差した先には、シンデレラが身に付けていたパンツがしっかりと握られて居ました。――そうです、さっき脱がされて居たのです。純情を踏みにじられたシンデレラは怒りの拳を王子に叩き込みました。相手が王子であると頭の片隅にあったので、顔では無くボディーを狙う強かさも見せ付けます。
シンデレラの一撃を食らいながらも逃すまいと手を伸ばす王子へ、シンデレラはガラスの靴を全力投球してトドメをさし、哀しみに包まれながら馬の待つ城門まで駆けて行きました。

「スクアーロ、一体何があったんだ!?」
「何でもねぇよ……今日はもう疲れたから早く帰ろぉーぜ」

元気の無いシンデレラを気遣いながら、馬は全速力で家を目指しました。家に着いた瞬間、魔法は解けてカボチャがコロンと地面に転がります。それを見たシンデレラは愛剣を手に取り、カボチャを一心不乱に斬り刻みました。鬼気迫るそのシンデレラの姿に馬は怯え、小屋へと逃げて行きます。剣を握るシンデレラの手にぽつりと一滴、涙が零れました。





お城へ行った日から城下町では王子の噂で持ち切りです。噂によると、王子がついに妃候補を見付けたらしい。その娘が忘れて行った靴が足にぴったりはまった者を妃にと。それを聞いた町中の娘が城へ押し掛けました。
町中の娘が我こそはと意気込む中、一人の娘は戦々恐々として居ます。

「メチャクチャやべぇーぞぉ……」

そうです、我等がシンデレラその人です。あの日から怯えながら身を潜めて居ましたが、遂に王子が乗り込んで来ました。


「手間取らせやがって」
「ひっ、」

まるで悪役の様な台詞ですが、れっきとした王子です。戦くシンデレラへ王子はじりじりと近付いていきます。シンデレラ危うし。

「んまあ!王子様じゃないの!」
「ルッスーっ!!」
「あらあらどうしたの?王子様があんまり素敵だから照れちゃったのね?可愛いんだからもうっ」

飛ぶ様に抱き着いて来たシンデレラの身体は震えていましたが、継母は見当違いな事を言って悪戯に王子を煽っていきます。
『この役立たず!』シンデレラは心の中で継母を罵りました。

「おいシンデレラ、てめえの忘れモンだ。早く今すぐ履きやがれ」
「オレのじゃねえ!知らねえ!!」
「そんな事言わないで履いてみなさいな、上手くいけば玉の輿よ!」

『余計なことを!』シンデレラは最早、涙目です。
散々抵抗をしてみましたがムキムキな継母に敵うはずも無く、ガラスの靴を履かされてしまいます。シンデレラの物なので当然ぴったり履けたのですが、シンデレラは直ぐに靴を脱ぎました。

「ちょっち緩いみてぇだ!オ、オレのじゃねーみてえ!!あははっ!!」
「そんなに照れんな、……可愛い奴だな」

泣き笑いで一生懸命否定をするシンデレラを知ってか知らずか、王子は愛おしむ様にシンデレラの髪を撫でてあげます。すっかり恋人気分です。


「オレに王子はもっ、勿体ねえ!考え直せぇクソ王子ィ!!」
「オレはてめえがいい」
(う゛お゛ぉお……オレがよくねー!!)

「ったく、しょーがねえ奴だな」

飽きる事無く髪を撫でていた王子が手を引っ込めてホッとしたのも束の間、王子は徐に自らの懐へと手を入れて何かを取り出しました。だらり、とシンデレラの背中を冷や汗が伝います。

「てめーがあの日忘れていった、……パンツだ」
「あらホント、この子のだわ」
「う゛わ゛ぁあ゛あ!!」

シンデレラは生まれて初めて、声を上げて泣きました。あんまりだと泣き暮れるシンデレラの肩を優しく抱いて、王子は髪へキスを落とします。そんな二人を町中が祝福し、シンデレラは王子に貰われて行きました。



シンデレラが再び王子に心を許すまで暫しの時間を費やしたそうですが、その後和解を果たし、二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。



-END-






こんなシンデレラ嫌だ。(笑)
そして今回、うちのサイトに珍しくデリカシー0なボス。初対面でパンツ脱がせちゃダメですよ。
因みに、娘とかありますが女体化はしてません。いい身体をした男達がぴちぴちドレスです。

そういう世界観です。想像してはいけません。

――2009.12.23.

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